連載:#BAYSTARS - 横浜DeNAベイスターズ連載企画 -

水どう×ベイスターズ、映像制作者の異色対談 藤村Dが「あえて」やった事、その覚悟とは

中島大輔

「責任を取るのは俺だから」

【写真提供:どうで荘】

前原 今の時代は「コンプライアンス」が求められるなか、藤村さんはどのように番組を制作してきましたか。

藤村 我々が番組を始めた頃は「コンプライアンス」という言葉もなかったから、テレビでレギュラー放送をしていた6年間は特に感じたことはなかったです。時代が変わってきたのは『水曜どうでしょう』のDVDをつくり出した頃。海外ロケなど撮影許可を取りようがないものもあったけど、放送ではなくDVDだから「目をつぶる」という言い方をして、若干編集するなどして問題なくやっていました。それから新作をつくる際、いろいろ言われるだろうなと思ったことでも、あえてやっていましたね。

前原 あえてですか?

藤村 コンプライアンスは法律で決められているわけではなく、自分たちによる規制ですよね。クレームが来るのが怖いだけの話で。あんなに面白かったテレビの魅力がどんどん小さくなっているのは、自分でもテレビを見ているからよくわかるし。うちだけはコンプライアンスの意識を全部なくそうと思って、あえて攻めていたというか。

前原 周囲はどんな反応でしたか。

藤村 プロデューサーや会社の人から事前に「直してくれますか?」と言われたら「はい。直します」と言って、そのまま流しました。作り手は面白いと思ってやっているから、それを他に邪魔されたくない気持ちがすごく強くて。責任を取るのは俺だから。

『水曜どうでしょう』はローカルで始まった番組だったし、DVDをずっと買ってくれている人が「最近の『どうでしょう』、気を遣ってない?」となるのは一番のファンを裏切ることになる。つくる側が腹を決めて、クビになってもいいくらいの覚悟を持ってやれば、それに対してファンの人は悪く言わないだろうし。そういう信頼があるからできることなのかもしれない。

10年間をかけて築いた「信頼関係」

『ダグアウトの向こう』の公開以来、10年間続いている球団公式ドキュメンタリー映像の制作。今やベイスターズのお家芸のひとつとなっている 【(C)YDB】

 我々はどうしてもチームの勝敗に関わる部分にカメラが入っているので、支障が出ないようにケアをしなければいけません。せめぎ合いのなかで毎年制作しています。

藤村 それは映像を撮っている個人と、選手との信頼関係しかないですよね。例えば選手が乱暴な言葉でなじったとしても、その背景までわかるように映画ではフォローしてくれていたなとわかれば、信頼関係が生まれて、映像を撮る人間はさらに突っ込んだところにいける。

前原 その関係が今、だいぶできてきたと思います。

藤村 その信頼を勝ち得て映像を撮る人間がベイスターズにいるのは、他球団にはないことだからね。それを10年前からやっているわけだし、新聞記者には言わないような、きっと面白いものを撮れるだろうなという自負はあるでしょうね。

前原「撮らないでくれ」ときつく言われることもあるけど、翌日には「昨日、すみませんでした」と言ってもらうなど、僕らもプロとして仕事をしていると選手たちに理解してもらっています。「ちょっと感情的になっちゃいました」「その感情的なところが撮りたいから。逆にありがとう」という関係性が徐々にできてきました。

藤村 あとはどうやって、ベイスターズファン以外の人に知ってもらうか。他のチームのファンにも見てもらいたいよね、きっと。

前原 ぜひ見ていただきたいです。

藤村 敵・味方ではなく、「野球の裏にはこんなに面白いことがある、だから俺らは野球ファンなんだ」と共感を呼べるものであれば、どのチームのファンでもきっと楽しみにしてくれているだろうし。今後は、そっちまで広げることなんだろうね。

(企画構成:株式会社スリーライト)

【(C)YDB】

原惇子(はら・じゅんこ)
株式会社横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 MD部 部長。2005年早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業後、健康スポーツ事業会社、大手インターネット広告代理店を経て2014年横浜DeNAベイスターズへ入社。その後、チケット部部長を経て、2018年11月より現職。

【(C)YDB】

前原祥吾(まえはら・しょうご)
株式会社横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 エンタテインメント部イベント企画グループ。エディトリアル・グラフィックデザイン職を経て、2015年に横浜DeNAベイスターズに入社。入社後はデザイン業務、球場演出、SNS運用、動画ディレクションなどを担当。2018年より球団ドキュメンタリー映像の企画・プロデュース、ディレクション業務を担当。

【写真提供:どうで荘】

藤村忠寿(ふじむら・ただひさ)
1965年生まれ、愛知県出身。愛称は「藤やん」。90年に北海道テレビ放送に入社。東京支社の編成業務部を経て、95年に本社の制作部に異動。96年にチーフディレクターとして『水曜どうでしょう』を立ち上げる。番組にはナレーターとしても登場。大泉洋主演『歓喜の歌』、安田顕主演『ミエルヒ』(ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、文化庁芸術祭賞 テレビ・ドラマ部門優秀賞)など多数のドラマを演出。2019年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリとなった『チャンネルはそのまま!』では、演出のほか、小倉虎也役で出演している。ほか、役者としての出演作に映画『猫は抱くもの』(犬童一心監督)、舞台『リ・リ・リストラ』(鈴井貴之演出)など多数。著作に『けもの道』(KADOKAWA)、『笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考』(朝日新聞出版)、嬉野雅道との共著に『人生に悩む人よ 藤やん・うれしーの悩むだけ損!』(KADOKAWA)、『腹を割って話した』(イースト・プレス)、『仕事論』(総合法令出版)など。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント