オリンピック取材班が選ぶ東京五輪サーフィンの記憶に残る10シーン
【THE SURF NEWS】
五十嵐カノアの逆転エアー
「毎日トレーニングするエアリアルをこんなプレッシャーがかかって大切なタイミングで出せて嬉しい。一生忘れないエアリアルになると思う。」五十嵐カノア 【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
自身も「事実上の決勝戦」だと思って挑んだというこのヒート。優勝筆頭候補であるガブリエルは序盤から完成度の高いエアリアルをたたみかけ、カノアは9.03ptのハイスコアが必要な状態に追い込まれる。残り8分、極限までプレッシャーがかかった状態で繰り出したフルローテーションエアーを見事にメイク。9.33のスコアがコールされ大逆転で決勝進出を決めた。
編集部A「逆転に9ポイントが必要となり、今年のCTのガブリエルの怪物のような強さとマシーンのような安定さを見ても万事休すかと思いました。カノアは一本前のライディングで大きなエアーを狙って失敗していたし…。あのランプセクションから飛び出してのフルローテーション、完璧な着地を決めた瞬間は鳥肌が立ちました。やはり、勝負は終わるまで諦めてはいけないと思い知らされた場面でもありました。」
都筑有夢路 堂々の銅メダル
「厳しいコンディションだったけど、台風でもいつも頑張ってきた成果がでました」都筑有夢路 【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
フォトグラファー三浦安間(以下三浦)「通常ならノーサーフのハードコンディションの中、ここにいくの!?というメンズでも躊躇しそうなエグい場所に技をかけるところ。安定感あの時あの場所では確実に世界トップレベルでした。」
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
大原洋人が見せたローカルヒーローのプライド
「自分より応援してくれている人達のために頑張りたいという思いでした。ここでオリンピックが開催できるように頑張ってくれた地元の人や応援してくれた人に感謝したいです」大原洋人 【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
フォトグラファー飯田健二(以下飯田)「他の選手が左のピークで勝負するなか、志田のメインと言われているエリアへ何度もドルフィンしながら出ていく姿は”これぞローカルサーファーの意地”と泣きながら撮影しました。」
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
群を抜くブラジリアン達の練習量
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
三浦「とにかく試合前でもこんなにサーフィンするんだと驚きました。ハードなコンディションにも関わらず朝一からどこの国よりも海にいて波に乗っているその体力とメンタル、やはり世界一をとるだけあるなと。実際に見たイタロとガブのエアーの高さと滞空時間は普通じゃなかったです。」
【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
決勝後に崩れ落ちた五十嵐カノア
【THE SURF NEWS/ Kenji Iida】
編集部B「“誰よりもオリンピックのために準備してきた”と語っていたカノアが倒れ込む姿を目の当たりにして、改めて彼がどれほどオリンピックに献身してきたのかと胸を打たれました。銀メダルの喜びより金を逃した悔しさが溢れた瞬間でしたが、そんな状況でも“毎日波を送ってくれてありがとう”と海の神様に感謝していたと知り、人としての器の大きさを感じたシーンでもありました。」
ケガでも魅せるジョンジョンのスター性
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
三浦「正直あまり調子が良くはなさそうでしたが、海にいるだけで周りの空気が変わり一人だけ違うところにいる人のように感じました。その存在感、調子が悪い中でも見せ場を作るサーフィン。特にコロヘとのヒートは、負けてはしまいましたが、見ている人を魅了したベストヒートの一つではないでしょうか。スターという言葉の意味を感じた貴重な経験でした。」
波乗りジャパンの絆
「負けたら自分が疲れてもどうなっても応援したい。砂浜にいたからこそメダルが決まった瞬間は泣きそうなくらい嬉しかった」大原洋人 【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
編集部B「自分のヒートが終わり、悔しさや疲れもあったと思いますが、その後もビーチに立ち続け残るカノアやあむちゃんの応援をする姿は印象的でした。人数制限で会場に入れないスタッフの分までサポート役もしていたと聞き、この結束力あってこその波乗りジャパンの結果だと思いました。」
直前ヒートで大金星を上げた有夢路にエールを送り、ガブリエルとのSFに挑んでいく五十嵐カノア 【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
編集部C「世界の強豪とメダルを争うオリンピックでは、経験・実績もある五十嵐カノアの存在が波乗りジャパンのチーム内でも精神的な支えになっていたと思いますが、そのカノアの大一番、ガブリエルが相手のメダル決定戦。普段、試合前のカノアは自分自身に集中しているイメージがありますが、事実上の決勝戦ともいえるこのヒートのゲッティングアウト直前でも、チームメイトの活躍を気にかけエールを送る姿には胸が熱くなりました。」
メディアルームの規模
【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
編集部「五輪が近づくにつれ、ISA世界大会のメディアルームは年々規模が大きくなっていましたが、その中でも五輪は段違いでした。取材陣には毎日3食違うメニューが用意され、ドリンクも飲み放題。たった3日間の大会のためにどれほどの準備がなされたのかと感じました。」
柵のある会場、逆光の撮影現場
【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
飯田「オリンピックは全てが怪物でした。一宮在住の自分にとってここは慣れている現場なはずなのに、世界の一流カメラマンと同じフィールドで撮影するのはものすごいプレッシャーでした。撮影可能エリアは毎日変わり、割り当てられたエリアがずっと逆光だったこともありましたが、先輩カメラマンのアドバイスのおかげで乗り越えることが出来ました。」
メディア関係者が選手と話せるのはこのミックスゾーンのみだった 【THE SURF NEWS】
編集部「これまでインタビューゾーンのことを何故“ミックスゾーン”と呼ぶのか分からなかったのですが、異なるパスを持つ選手とメディアが唯一交流できる場所、それがミックスゾーンなのかと五輪でやっと理解しました。選手とフランクに話せる場がないのは少し寂しさも感じましたが、巨大なイベントを安全に行うには必要な対策ということで、大人のルールを味わった気分でした。」
台風が届けたダイナミックなステージ
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
編集部「なぜ1日待たずあの日に決勝を行ったのかという声は多く、様々な“大人の事情”もささやかれていました。しかし、五輪選手でもなければとても海には入れないあのコンディションでのパフォーマンスは圧巻でした。競技目線では、やはりオフショアの翌日がベストだったと思う反面、サーフィンの知識がない人が“日本でもこんな波が来るんだ”と言っていたように、良くも悪くも強烈な印象を残してくれたステージだと感じました。」
2021年7月25日、五輪サーフィン競技初日の朝日 【THE SURF NEWS / Kenji Iida】
2016年にサーフィンが東京オリンピックの追加種目に決まってから5年。誰もが予想をしていなかった新型コロナウイルスによる延期を乗り越え、2021年に無観客ながらようやく本番が開催された。
その間、男女各20名、各国最大で男女各2名という狭き門を巡り、各国では代表選手の選考が行われた。日本では暫定出場権を得ていた村上舜と松田詩野が最後の最後で出場権を失い、フィリッペ・トレド、ケリー・スレーター、レイキー・ピーターソンなどは世界TOP10入りしていても出場できなかった。出場資格を得てからも、怪我や直前のPCR検査で欠場を余儀なくされた選手もいる。
そのような困難を乗り越えて集まったオリンピアン達は、それぞれの国やさまざまな思いを抱えて、あの会場でベストパフォーマンスを披露した。イタロ・フェレイラとカリッサ・ムーアという2人の史上初金メダリストサーファーが誕生。日本は五十嵐カノアが銀、都筑有夢路が銅と2つのメダルを獲得し、国別では最多のメダル数となった。
メダリストたちは「ここに至るには多くの支えがあり、このメダルは自分の人生に関わった全てがあってこそ」と口を揃えた。その言葉通り、オリンピアンたちやそのサポーターは勿論、出場を逃した選手や大会運営者たちの長きにわたる準備がなければ、あの大舞台は実現しなかっただろう。オリンピアン、サポーター、運営者、そしてこれまでのサーフィン歩みに関わった全ての人に敬意を表したい。
【THE SURF NEWS / Yasuma Miura】
ー女子金メダリスト カリッサ・ムーア
「全てのサーファーがここまでの歴史を作り、全てのサーファーがこの金メダルの一部なんだ」
―男子金メダリスト イタロ・フェレイラ
(THE SURF NEWS編集部)
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