薄氷の勝利だった高梨沙羅の全日本5連覇 後輩らの成長で五輪シーズンが楽しみに

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伊藤の大ジャンプには思わず歓声も

1本目で大ジャンプを見せ、3位に入った伊藤(写真右)。3度目の五輪は、自身の結果にもこだわった上で目指していく 【写真は共同】

 北京五輪出場を果たせば高梨と同じく3大会連続出場となる伊藤にとっては、悔しさの残る試合となった。向かい風で迎えた1本目では集まった観客、関係者たちから思わず「おおっ!」という歓声が漏れた99.0メートルの大ジャンプを見せ首位発進したものの、2本目では追い風の中で83メートルと失速。高梨、丸山に抜かれて3位に終わった。

「1本目がとてつもなくいい条件で飛ばせてもらいましたが、2本目のジャンプが実力。ミスがあったと思います」と、試合後は落胆を隠せなかった。今年の夏は欧州に滞在し、アプローチから空中の姿勢まで全ての要素を、特に踏み切り動作であるテイクオフの際の精度を見直したという。

 現状については「(フォームの改善は)そう簡単じゃないことで、まだまだ全然できてないです。でも、ゴールがなかなか見えない中での改良に挑戦できたことはよかったと思うので、諦めずに選考まで間に合わせられるようにしたいです」と、まだまだ課題が残っていることをうかがわせた。

 それでも五輪への思いは十分だ。18年平昌五輪では、銅メダルを獲得した高梨に真っ先にかけつけ、笑顔で抱きしめるシーンが印象的だったが、自らは9位。北京五輪については「出ることができたら、応援してくださってる方々じゃなくて、自分自身も幸せになれるようなオリンピックにしたい。まわりの方も自分もハッピーになれれば」と、自身の結果にもこだわっていく姿勢を見せた。

成長示した丸山は「焦らず今のジャンプをW杯開幕戦で」

高梨と僅差の2位に入った丸山。夏季のグランプリでも結果を残し、成長を遂げている(写真は2020年2月のもの) 【Getty Images】

 わずか0.3点差で“絶対的女王”高梨からの大金星を逃したのが23歳の丸山希だ。試合後には「どの大会もやはり1番を目指して飛んでいるので、常に勝ちたい気持ちはすごくあります」と悔しさをにじませた。

 しかし1本目で96.5メートル、2本目は追い風の中で87.5メートルと、状況が大きく変わる中でも一定の飛距離を残せたことには手応えを感じている。「近年ではないくらい高梨選手と僅差になれた。自分の実力もちょっとずつ上げられているというのがわかったのでそこは大きな収穫なのかなと思います」と、この試合で得られた成果を振り返った。

 今夏に欧州各地で行われたサマーグランプリでは4戦中2戦で表彰台に上がるなど、着実に成長を遂げつつある丸山。

「今年は100パーセント良いと思える状況でシーズンに入りたいと思っています。練習をまだ重ねられますし、一日一日大切に過ごしていきたいです。まだ雪上に立てていないですが、昨年は雪上に立った時に焦ってしまったので、焦らず、1つずつ今のジャンプを冬の開幕戦で出せればと思います」と語り、11月26日に待ち受けるワールドカップ(W杯)開幕戦(ロシア・ニジニタギル)を見据えた。

 男女を通じて歴代最多となるW杯通算60勝を挙げるなど、高梨の一強と見られることが多かった日本女子ジャンプ界。だが、来たる五輪シーズンへ向けて、高梨とともにジャンプ界をけん引してきた伊藤に加え、高梨より2つ年下の丸山も今大会で結果を残した。本格的なシーズン到来となるW杯前の前哨戦は、五輪出場だけでなくさらに上を目指す3人にとって、次へのステップを示したはずだ。W杯での代表争い、そして来年の北京が楽しみになる初冬の大会だった。

(取材・文:石橋達之/スポーツナビ)

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