日豪戦の「チャント事件」をどう考えるか W杯アジア最終予選での劇的勝利の裏側で
もうひとつの勝因となった入場者数の上限緩和
試合後、ゴール裏に掲げられた「MORIYASU NIPPON」の横断幕。オーストラリア戦は今予選のターニングポイントになった 【宇都宮徹壱】
「これまでと何が違ったかといえば、相手(日本)には大勢のファンやサポーターがいたことだ。特に最後の10分間の日本は、スタンドから多大なエネルギーを受けていた。それに比べてわれわれは、1カ月近くオーストラリアを離れてプレーしている。われわれだって本当は、自国のファンの声援を受けたいのだ」
ちなみにオーストラリアは、厳しい入国制限を続けていることもあり、最終予選でのホームゲーム2試合はいずれもカタールで行っている。それでも「わが国も(ワクチンの)接種率が80%を超えているのだから、自国で試合を開催してほしい」というのが、アーノルド監督をはじめとするオーストラリア側の切なる願い。そうした相手の状況を考えると、この大一番で「接種証明」を持つ人の行動制限を緩和し、入場者数の上限を1万5000人まで引き上げた日本側の対応は、まさにナイスアシストであった。
そんな中で起こってしまった、今回の「チャント事件」。この2シーズン、声を出して応援したい思いをずっと封印してきた、Jクラブのサポーターや関係者が怒りに震えるのは当然の話である。そのことを大前提としながらも、一方でこうも思うのだ。さまざまな矛盾やアンビバレントを内包する、フットボールの断面をまざまざと見せつけられたのが、この日豪州戦ではなかったか、と。
この勝利によって、森保監督は引き続き日本代表を指揮することになるだろう。そして彼を支持し続けた、JFAの田嶋幸三会長も、さぞかしご満悦のことだろう。当然、こうした状況を快く思わないファンも、一定数いるはずだ。けれども、あのような劇的な試合を見せられたら、サッカー好きとしてはやっぱりうれしい──。
またひとつ、多くの日本のサッカーファンにとり、忘れがたい試合が生まれた。