【マッチプレビュー】2021年JFL第23節 いわきFC対Honda FC
【©︎IWAKI FC】
対戦相手のHonda FC。正式名称は「本田技研工業フットボールクラブ」。静岡県浜松市をホームタウンとする実業団クラブであり、現在は選手・スタッフ全員が本田技研工業の正社員。午前に本田技研浜松製作所に勤務し、午後からはサッカー、という生活を送る。
チームの歴史は古い。
オリジンは、1954年に創部された本田技研工業浜松製作所浜友会サッカー部。もともとは本田技研のいち事業部のサッカー部だった。1971年。このクラブが母体となり、社員の士気向上などを目的に本社が管轄する「本田技研工業サッカー部」として船出。1972年に静岡県リーグ2部西部リーグからスタートを切ると、1973年には東海社会人サッカーリーグ、1975年にJSL(日本サッカーリーグ)2部、81年に国内アマのトップカテゴリーであるJSL1部に昇格と、順調にステップアップを果たす。
しかしその後、チームはJリーグ創設に伴うプロ化の波に翻弄されていく。
Jリーグ参入のネックとなったのが、本拠地の浜松市内に適した競技場がないことだった。そこで本田技研工業サッカー部の誘致に名乗りを上げたのが、埼玉県浦和市(現さいたま市)。チームは本田技研工業狭山サッカー部と統合の上「浦和ホンダウィンズ」としてJリーグへの参加を検討。しかし、当時の社業の不振や本拠地・浜松との地域密着の必要性などの事情で、Jリーグ初年度の参加見送りを決定。それに伴い、北澤豪、本田泰人ら有力選手はプロクラブへ移籍。浦和市は三菱自工サッカー部の誘致を進めた(※その結果、誕生したのが浦和レッドダイヤモンズ。本田技研の社内判断がなければ、Jリーグ屈指の強豪は、今の形では存在していなかったことになる)。
本田技研工業サッカー部は、92年から旧JFL(ジャパンフットボールリーグ)1部に参加。だが、チームはプロ化を諦めなかった。93年の誕生とともに盛り上がるJリーグを横目に、再びプロ化に向けたプロジェクトが始動。1996年にJFLで優勝すると、翌年にスタジアム(現在のHonda都田サッカー場)を整備。「浜松FC」の名でJリーグ準会員となり、ホンダ本社はクラブの筆頭株主に収まるというフォーメーションを組んだ。
しかし、プロ化の夢はまたしても水泡に帰する。
他の地元企業との関係性など諸事情によりチームは構想を撤回し、再びJリーグ参戦を断念。以後は社員選手を軸とした、完全アマチュアチーム化へと舵を切っていく。
1999年のJ2発足に際し、旧JFL所属チームはJ2とJFL(日本フットボールリーグ)へと所属先を二分。プロ化の意思がない本田技研工業サッカー部はJFL所属となった。2002年に名称を「本田技研工業フットボールクラブ」、呼称を「Honda FC」に変更。この年から選手とのプロ契約をやめ、2013年まで社員選手のみでチームを存続させていった。2014年に再びプロアマ混成体制となり、この年JFL優勝。2015年はソニー仙台FCに優勝を譲ったものの、翌2016から2019年までリーグ4連覇を果たしている(※現在いわきFCのDF日高大は2017〜2018年にHonda FCに在籍。2018年にはJFLベストイレブンに選出)。
【©︎IWAKI FC】
ここ7年でJ3に昇格したレノファ山口FC、鹿児島ユナイテッド、アスルクラロ沼津、ヴァンラーレ八戸、FC今治、テゲバジャーロ宮崎のうち、順位と直接対決の両方でHonda FCを上回り、晴れてJの門を叩いたクラブはない(※FC今治は2019年、ホームで勝利しアウェーで敗れ3位で昇格。テゲバジャーロ宮崎は2020年、ホームで引き分けるもHonda FCを上回る2位で昇格)。
現在も多くのサッカー関係者がHonda FCの実力や組織、規律を高く評価。「JFLのレベルを飛び抜けており、J2レベルの実力は十分ある」と語る向きも多い。実際、天皇杯で幾度となくJクラブを破っており、まごうことなき「本物」と言っていいだろう。
2020年JFLはコロナ禍の影響で1回戦総当りとなる中、4位という不本意な成績に終わった。開幕から5勝3分けの首位で折り返すも後半に失速。後半戦は4分3敗と未勝利でシーズンを終えた。しかし天皇杯では2回戦で常葉大浜松を撃破し、FCマルヤス岡崎、ヴェルスパ大分、筑波大を相次いで倒して準々決勝進出。この年J2を制した徳島ヴォルティスとの戦いにこぎつけ、確かな地力を示した。
2021年、プロ契約選手4名と井幡博康監督が退団。ヘッドコーチの安部裕之氏が新監督に就任し、5人の新加入選手を迎えた。現在は再び選手・スタッフ全員が社員という完全アマチュア体制となり、現在勝ち点41で2位。至近の第22節では鈴鹿ポイントゲッターズに1対2で敗れ、首位いわきFCとの勝ち点差は7と広がっている。
いわきFCとHonda FCは、これまで2度対戦して2分け。
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そして今年は6月5日にアウェーで対戦。MF鈴木雄也選手のゴールでHonda FCが先制するも、いわきはすぐさまFW岩渕弘人のゴールで同点。その後は一進一退の攻防が続き、またしても1対1のタイムアップとなった。
今節はまさに3度目のラバーマッチ。目指すのは完全決着だ。
そんなHonda FCを、いわきFCはいかに攻略するのか。田村雄三監督、村上佑太アナリストのコメントを紹介したい。
■「間違いなく、打ち合う展開になる」田村雄三監督
ただし、すごく楽しみな試合ではあります。しっかりとポゼッションするHondaさんと、前に前にボールを入れ、ボールホルダーをどんどん追い越していくいわきFC。形は真逆ですが、攻撃的という点では一緒。やろうとしているサッカーは明確ですし、JFLに同じようなチームは他にない。そんな相手に自分達のサッカーをどれだけ出せるか。おそらく、お互いがいい部分を出し合い、打ち合う展開になるでしょう。少なくとも0対0はないし、先制点を決めた方が有利になると思います。
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それに対し、今は7ポイント離れています。負けたら10ポイント差になるのは大きいので、Hondaさんがサッカーをガラッと変えてくることはないにせよ、確実に前には出て来る。そして今回の舞台はJヴィレッジスタジアム。普段から天然芝で練習しているHondaさんの方がピッチに慣れているし、コンディションがいいほど得意のパスワークは発揮される。もちろん彼らが攻撃でやりたいことは十分わかっていますが、最も怖いのは戦術を超えた個人技とコンビネーションです。
そして攻撃的なチームですが、守備意識も高い。特に今年から攻守の切り替えが速くなりました。失った時にすぐさま奪い返す力があり、守備の意識が植えつけられた印象です。その反面、後ろにスペースができて失点するケースが多い。ただし、それはウチも一緒。お互いが前に人数をかけて得点を取る考えなので、見ている方達には面白いゲームになるでしょう。
今年はこれまで4-4-2、3-4-3、4-3-3と3つのフォーメーションで戦ってきました。スターティングメンバーを含めて、どのような布陣で行くかはまだ決まっていません。少なくとも言えるのは『闘える選手』を選ぶということ。Hondaさんがウチの前へのパワーや球際の強さを嫌がっているのは間違いない。でも彼らは、やることを変えずに上回ろうとするはず。それなら、さらにその上を行ってやろうと思います。
選手の獲得基準や選手に求めること、クラブの規律も含めて、Hondaさんは学ぶことの多いクラブ。昨年こそ優勝を逃しましたが、JFLの王者といえばHonda FC。リスペクトしていますし、超えていきたい存在でもある。まだ一度も勝ったことのない彼らを明確な形で破り、自分達の歴史を塗り替えて次のステージに進みます」
■「自分達のサッカーをぶつける相手として、最高のチーム」村上佑太アナリスト
昨年のチームと大きく変わったのが、攻守の切り替え。昨年まではボールを奪われてもそれほど厳しくプレスには行かず、相手のミスを待って自分達のボールにして進めていくイメージでした。でも今年は、奪われたらすぐに奪い返すアグレッシブな守備をしています。でも一方、それによって背後にスペースが生まれて失点も増えている。前節敗れた鈴鹿ポイントゲッターズ戦の決勝点は、まさにそのパターンでした。
ただし、他のチームとの戦いはほとんど参考になりません。なぜなら、結局Hondaさんに勝つ方法は『引いてカウンター』。それがJFLの多くのチームの考え方です。いわきFCとはあまりにも戦い方が違いすぎて、スカウティングにならないのが実際のところです。
あくまで僕の印象ですが、昨年よりも前線のポジションチェンジが増えている印象があります。例えばサイドハーフの選手が逆サイドまで行くようなこともあり、ポジションを自由かつ大胆に入れ替えて崩してきます。それは全員がさまざまなポジションをこなし、自分が今、何をすべきかを理解しているからこそ。そして、メンバーを変えずに長年コンビネーションを磨き上げてきた実業団の強みでもあります。ウチは人に対して強く行くチーム。その分、対応が難しくなる面がある。そこで面食らったり混乱したりしないよう、しっかり整理しておく必要があります。
【©︎IWAKI FC】
この試合はおそらく、お互いが持ち味をフルに出し合う展開になる。ポイントは『何点取れるか』。自分達のサッカーをぶつける相手として、間違いなく最高のチームです。明日は見ている人が興奮する『魂が息吹く』ゲームに、きっとなると思います」
■「門番」を粉砕し、胸を張って階段を上がる。
新採用の4-3-3が機能し、14勝6分け1敗の勝ち点48で首位をキープ。Honda FCとの勝ち点差7となり、好調を維持して迎える大一番。2位との直接対決に勝って勝ち点差を10に広げるのか、それとも勝ち点差4に縮められてしまうのか。はたまた差は動かず7のままか。
まさに注目の大一番だ。
過去2戦で2分け。3度目となる「JFLの門番」との果し合い。ここまで生まれた課題を克服できなかった時、そしてHonda FCの歴史と伝統、JFL優勝に懸ける思いを甘く見た時、確実に痛い目を見るだろう。
胸を張ってJ3への階段を上がるためにも真っ向勝負し、明確な形で決着をつけたい。
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なお、いわきFCの最新情報は現在、"魂の息吹く"noteにて配信中。
また、いわきFCファンクラブ「LOVE IWAKI」も、会員を随時募集。入会は無料。チケットやグッズの会員限定価格で購入や、メルマガによる情報配信など多くの特典があるので、ぜひチェックしてほしい。
熱き戦いに、引き続きご注目を!
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