連載:#BAYSTARS - 横浜DeNAベイスターズ連載企画 -

石川雄洋と内村航平、コマネチの共通点 コロナ禍で改めて感じる“憧れの力”

中島大輔

スポーツに“自分”を投影する

金谷氏が憧れ、刺激を受けたという体操のコマネチ選手。“憧れ”の力が「見たい」というエネルギーにつながるのはスポーツもエンタメも同じだという 【Getty Images】

高橋 圧倒的な技術の革新とか、人間的な構造や考え方が変わらない限り、ずっと続いていくものというイメージですよね。

金谷 すべてバーチャルみたいなもので人が満足するかと言ったら、そうはならないと思います。例えば、作られた“デジタルの人間”が野球をやっているのをネットで見せられて、どうやって感動するのか。スポーツとエンターテインメントはとてもよく似ていて、人間のエネルギーの源、精神を支える源になるようなものがそこにあるから、人が見続ける気がします。でも私は、コロナ禍の中でいろいろ発達していったデジタルなものに置いていかれないように気をつけていますけど(笑)。

高橋 そこはアンテナを張っているんですね(笑)。エネルギーの源という点で、野球も同じような気がします。今年の6月に石川雄洋さんというベイスターズ一筋で、横浜DeNAベイスターズの初代キャプテンを務めた選手の引退セレモニーがあり、石川選手の今までの活躍や、周囲の方々の思いや証言を記念映像として放映しました。その際に改めて、「努力したら、必ず結果として報われる」と、自分の人生を投影するところがスポーツにはあるんだろうなと感じました。私自身、自分で演出を担当しながら泣きそうになったりして。

金谷 若手の頃から引退するくらいまで時が経てば、名選手でもこうなるとか、こういう引き際もあると、ファンの方は見ているんですよね。東京五輪で体操の内村航平選手が「僕が見せられる夢はここまで」と言ったのを聞いたとき、すごい言葉だなって思いました。やり抜いた人ならではの言葉ですよね。やっぱりスポーツの力はすごいなって改めて思います。一般の人間として見て、支えになりますよね。

――体操選手は常人にできない演技をしますが、「同じ人間だし」と励みにすることもあります。

金谷 そこに共通点を見出すと言いますかね。私は器械体操をやっていて、ナディア・コマネチさんが10点満点を出すことにすごい刺激を受けていたんです。

――コマネチさんは1976年モントリオール五輪、1980年モスクワ五輪で5個の金メダルを獲得、10点満点の演技で人気を博しました。

金谷 私はFacebookでフォローしているのですが、同い年なんです。今は太っておばちゃんになって、側転をしている姿を見せたりして、それを見るとすごく嬉しくて。「コマネチさんも頑張っているから、私も頑張ろう!」って。全然知り合いではないのに(笑)。憧れの力ですよね。憧れるという気持ちの中に、どれだけのエネルギーが含まれているか。お客様も憧れを持って舞台を見たり、野球を見たりするから、そこは共通していると思います。“憧れエネルギー”と言うのかな。

見る者の意味づけが物語を豊かにする

ベイスターズの手掛ける演出はどこまで進化していくのか……エンターテインメントも楽しめる球団から目が離せない 【(C)YDB】

高橋 それで言うと、金谷さんは「ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー」のときに中川翔子さんを起用されて、「運動がまったくできないなかでアリーナ姫のアクションを実現できたら、それがお客様に伝わるよね」という話をされていましたよね。

金谷 はい、しました。

高橋 野球でもその選手が今までやってきたことや、今までどんな努力を積み上げてきたかという文脈を、それぞれのファンの方々が濃度は違えど持っていて。ミュージカルやライブならそれがステージで形として表れたときに、野球で言えばバッターの打席やピッチャーが投げたときに、見ているファンの方々が自分で意味づけを少し加えて、より感動が生まれるところがあるのかなと改めて思いました。

金谷 まったくそうだと思います。

高橋 これまで金谷さんの手掛けたショーやインタビューを見せていただきましたが、本日直接お話しさせてもらい、演出の視点やエッセンスで多くの学びがありました。これを我々は野球だけではなく、エンターテインメントを楽しめる球団として、より進化していくところに活かしていきたいと思います。

金谷 私も高橋さんとお話しして、野球場に行きたい気持ちになりました。仕事などで遠ざかってしまいましたけれど、若い頃はサンドイッチを作って結構野球を見に行っていたんです。今日はとても刺激になりました。

高橋 機会があれば、ぜひ金谷さんと一緒に新しいショーを作らせてください。

金谷 ありがとうございます。私の夢は60歳まで仕事を続けることだったんです。もう60歳になり、ある意味、夢がかなった状態なんですよ(笑)。これからも現役を続けますけど、私も自分の師匠から習ったことがたくさんあるので、お伝えできる方がいればそうしたいのが次の夢でもあります。誰も仕事を頼んでくれなくなる日までやる、というのが次の夢です。

高橋 素晴らしいですね。

金谷 どこかで、「かほりのショーはもういいよ」って言われるかもしれないけど、どんなに小さなショーでも続けるのが夢。ぜひとも横浜スタジアムにお邪魔したいです。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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高橋寿俊(たかはし・ひさとし)

【スリーライト】

スポーツ領域のWebコンテンツ企画・編集・プロデュース職を経て、2008年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。入社後はソーシャルゲームプラットフォームの運用、Webディレクションなどを担当。2019年11月より株式会社横浜DeNAベイスターズへ出向。映像・広告コミュニケーションを統括するクリエイティブ戦略部部長を経て、2020年12月より現職。

金谷かほり(かなや・かほり)

【ワタナベエンターテインメント提供】

USJなどのテーマパークでライブショーを全面的に監督するなど、日本に数少ない大規模空間でのエンターテインメントショーの演出家として国内外にその名が知られている。その他にも、B'z、DA PUMP、倉木麻衣、近年ではリトルグリーモンスターなど、アリーナ/ドームでのライブショーでその評価を高めるまさにエンタメ界の巨匠。メディアへの露出も多く、MBS「情熱大陸」やCX「ワイドナショー」などに出演し、CX「めざまし8」ではレギュラーコメンテーターを務める。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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