連載:#BAYSTARS - 横浜DeNAベイスターズ連載企画 -

ベイスターズと金谷かほりが仕掛ける、観客を幸福にする「両思いのモーメント」

中島大輔

一番後ろの席に「得した」と思わせたい

「演出」の奥深さについて語り合ってくれた高橋氏(写真左)と金谷氏(写真)の重なる思いとは 【スリーライト】

金谷 高橋さんのお話を伺っていると、自分と似ていて嬉しく感じます。私はお客様が大好きなんですよ。お客様は頑張って働いて、そのお金を払ってくれて、楽しい思いをしに来てくれている。だから、絶対返したいという気持ちがあります。出演者にもよく、「皆さんがもらうギャランティーは、お客様が働いて、チケットを買ってくださったお金ですよ」って言います。「これから皆さんがお金を貯めて何かを買うのと同じような思いで、お客様はみんなを見ていますよ」って。

高橋 以前金谷さんのインタビューを拝見して、「一番後ろの席の方であっても、楽しい気持ちを絶対に持って帰っていただきたい」とおっしゃっていて、私としては“発見”に近い感覚がありました。

金谷 どうしても一番奥の隅っこに座ったら、少し寂しいんですよ。遠いし、見えないし。なんとなく出演者とのコネクションも遠いように感じるじゃないですか。それを、「ここに座って良かった。もしかして得したんじゃない?」と思ってほしい。

高橋 スタジアムにも何万人というお客様がいて、いろんな席がありますが、どの方にも楽しい気持ちを持ち帰っていただきたいと思います。

金谷 だから私はいつもちょっとした仕掛けを隅っこの席の方のためにしています。というのは、隅の角の席が一番安いんです。一番前の席を買えない人が座っています。だから、そこを大事にしないと。「マジすごい。得しちゃった!」って思ってほしいじゃないですか。

演出家の職業冥利と原動力

エンタメ界の世界的権威、ティア・アワード(2014 年)にて「アウトスタンディング・アチーブメント賞」を受賞した金谷氏。そんな日本を代表する巨匠が演出の仕事の面白さを話してくれた 【本人提供】

金谷 今は出演者が観客席に入ることができないけれど、ドラクエのショーのときにはみんなに無理を言って、「ショーが終わったら、一番後ろの隅の席に先に挨拶に行って」とお願いしました。USJのショーでもそうですが、大きなショーだと大きな音が鳴ることもあるので車椅子席が一番後ろに設けられている会場もあります。「そこに先に行って。絶対忘れないで」って。それと目線の話もよくしますね。自分が出演者と目が合ったと思ったら一番ドキッとするので、「ちゃんと見て」とお願いしています。実際にそうなったお客様が「わっ!」となるのを私も後ろから見ていて、「やった!」と思っています。

高橋 目線が合うのはドキドキしますね。

金谷 そうやってお客様とショーを作る側が“思い合う瞬間”ってあるじゃないですか。私はよく出演者に「両思いのモーメントが生まれる」と言います。お客様と出演者がお互いに好き同士くらいの感じで、バチーンと合う空気になるときがある。その瞬間を見ると、「もうやめられない」と思いますね。自分が観客で行っているときにもあるんですよ。高橋さんがベイスターズでされているように、スタジアムに馬を出したときの意外性と疾走感によって、そこに集まっている何万人のお客様の心が一つになる。そういうモーメントですよね、演出の仕事の面白さというのは。

高橋 我々も毎年いろんな企画をしますが、いかにお客様が想像しているものを超えて、良いものを提供できるかと模索しています。

金谷 そうやってファンの方の気持ちに応えようとされているのは、すごいなって思います。

高橋 我々自身もファンの一人でもあったりするので、今のチーム状況や、こういうときに自分だったらどんなことで気持ちが上がるか、チームを一緒に勇気づけられることは何か、どうすればファンと一体になれるかと考えています。それも演出を手掛ける上で、原動力の一つですね。

(企画構成:株式会社スリーライト)

※リンク先は外部サイトの場合があります

高橋寿俊(たかはし・ひさとし)

スポーツ領域のWebコンテンツ企画・編集・プロデュース職を経て、2008年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。入社後はソーシャルゲームプラットフォームの運用、Webディレクションなどを担当。2019年11月より株式会社横浜DeNAベイスターズへ出向。映像・広告コミュニケーションを統括するクリエイティブ戦略部部長を経て、2020年12月より現職。

金谷かほり(かなや・かほり)

USJなどのテーマパークでライブショーを全面的に監督するなど、日本に数少ない大規模空間でのエンターテインメントショーの演出家として国内外にその名が知られている。その他にも、B'z、DA PUMP、倉木麻衣、近年ではリトルグリーモンスターなど、アリーナ/ドームでのライブショーでその評価を高めるまさにエンタメ界の巨匠。メディアへの露出も多く、MBS「情熱大陸」やCX「ワイドナショー」などに出演し、CX「めざまし8」ではレギュラーコメンテーターを務める。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント