東京パラをブラサカ界の“フランスW杯”に メダルならずも、代え難い大きな経験

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中国に敗れしゃがみ込む佐々木ロベルト泉。右はGK佐藤 【写真は共同】

 新しいセットプレーもデザインして、中国のスカウティングもしてきた。中国もここまで故障者が出てベストメンバーがそろわないなど、万全の状態とは言い難く、サッカーの内容も決して良いものではなかった。

 そんな中で迎えた、勝負の1次リーグ最終戦。しかし、5人制サッカー(ブラインドサッカー)日本代表は中国に0-2で敗れ、アジア王者の壁を超えることはできなかった。

初出場の経験の差が出た“リードした同点”

 五輪サッカー日本代表と同じユニホームをまとった、盲目の選手たち。初めて挑んだパラリンピックは、初戦でロンドンパラリンピック銀メダルのフランスに4−0で快勝するところから始まった。

 ブラインドサッカーを初めて見た人は「本当に見えてないの?」と口にするが、アイマスクを着用し、全く視界のない4人がサッカーをしているのだから驚きだ。

 選手は、視覚障害のある4人のフィールドプレーヤーと健常者(または弱視)のゴールキーパーの計5人でチームを編成し、20分ハーフの計40分間で試合を行う。音の鳴るボールと、相手ゴール裏に立つ「ガイド(コーラー)」、健常者のゴールキーパーの指示を頼りにプレーするサッカーだ。目が見えないため、壁をつかんだり、その跳ね返りを利用したプレーなどもあるが、基本的にはコートの大きさも同じである、フットサルをイメージすると分かりやすい。

 日本代表は、2015年に高田敏志氏が監督に就任したことをきっかけに力をつけ、東京パラリンピックではメダルを狙うチームにまで成長した。

 今年6月に行われた、「ブラインドサッカーワールドグランプリ2021」では、強豪のアルゼンチンやスペインも参加する中で準優勝と結果を出し、高田監督もパラリンピックでメダルの可能性は「50パーセント」と答えていた。

後半、果敢に攻めて中国ゴールに迫った日本(写真は黒田) 【写真は共同】

 そして迎えた、1次リーグ最終戦となる中国戦。第2戦ではリオデジャネイロパラリンピック金メダルのブラジルに0−4で敗れたが、得失点差で上回る日本は、引き分けでも準決勝に勝ち上がれる優位な状況でこの試合を迎えた。

「もともと(組み合わせを見て)ブラジルに勝つのは非常に難しいと思っていたので、しっかり(初戦の)フランス戦に勝って、(お互い)1勝1敗の勝ち点3で中国戦というのは想定していました」と高田監督。日本は想定通りで1次リーグ最終戦を迎えた。

 しかし、前述した「引き分けでも準決勝進出が決まる」有利な条件だったことは、もしかしたら想定外だったのかもしれない。普段からサッカーを見る人は感じる事もあるだろうが、このスポーツにおいて、その有利な条件が逆に試合を難しくすることは少なくない。

「引き分けでもいいと思ってやってる選手はいなかった」と高田監督はコメントしたが、失点をしなければ勝ち上がりが決まる状況で、前半の選手たちはどこか守りに入っているように見えた。警戒していた朱瑞銘に前半12分に先制点を決められると、18分にも追加点を許し、前半だけで2点のリードを許した。日本はシュートを1本も打つことができず、まさしく何もできない前半だった。

「後半はマインドを全部変えて、何点取られても良いから前に行こうと。マインドセットを変えて前向きに行けたし、ルーズボールへの反応も良くなった」と語るように、後半は一転して攻め込む場面も見られた。

 2点リードの中国は、後半無理をしてこなかったのもあるが、日本が前半から前に行くマインドを持っていればまた違った結果もあったのではと悔やまれる。国際大会での経験も浅く、チャレンジャーの日本にとって、“リードした同点”は逆にやりづらかったのかもしれない。

 唯一試合を「見る」ことができる、ゴールキーパーの佐藤大介は、選手全員がサボることなく役割をこなし、中国に通じた部分もあるとしながら、「最後の細かな技術だったり、精神面でも僕らを上回っていた」と中国の強さをたたえた。

 川村怜と黒田智成も口をそろえて「チャンスは作れた」と、試合後にコメントしており、肝心な場面で決める決定力が、中国との差になったようだ。

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