加納慎太郎、初のパラ挑戦はほろ苦く……「何も考えていない」に感じた新たな挑戦

スポーツナビ

東京パラを目指して始めた車いすフェンシング

車いすフェンシング・サーブル個人(障害A)、フルーレ個人(障害A)、フルーレ団体の3種目に出場した加納(写真左) 【写真は共同】

 29日に行われた東京パラリンピック・車いすフェンシング男子フルーレ団体、日本は0勝3敗で1次リーグ敗退し、加納慎太郎(ヤフー)の初めてのパラリンピックが幕を閉じた。

 サーブル個人(障害A)、フルーレ個人(障害A)、フルーレ団体と、出場した3種目で目標としていた金メダルの獲得には至らなかった。加納にとって東京パラリンピックは、どういう舞台だったのだろうか。

 加納の得意とする種目はフルーレだ。しかし、団体の前日に行われた個人戦では1勝3敗で、1次リーグ敗退という結果に終わった。あと1勝で1次リーグを突破できただけに、本人の悔しさは相当なもので、試合後のインタビューでは憮然(ぶぜん)とし、心ここにあらずという様子だった。

 まず大会開催に尽力した、関係者や医療従事者へ感謝を述べたあと、「結果を振り返ってみて、素直に受け止めるには時間がかかるかな、と思っています」と、言葉を絞り出した。順位の確定や進行の関係上、取材エリアに現れたのは試合が終わってから1時間ほど経ったあとだったが、気持ちの整理は全くついていないように感じた。

 小学生のころから剣道に打ち込んできた加納は、16歳の時にバイク事故に遭い左脚を切断した。2013年に東京パラリンピックの開催が決定すると、同じ剣を扱う車いすフェンシングでパラリンピックを目指すことを決めた。競技の経験は無かったが、自ら日本車いすフェンシング協会に「パラリンピックに出たい」と、電話をかけた話は語り草となっている。

 そんな加納がつかんだ夢の舞台は、フルーレ個人戦後に「自分の力を出しきれていないと思うので、しっかりと切り替えて、(団体戦では)全部出し切って試合を終えたいと思っています」と、悔しい思いを持ちながら、最後の団体戦を迎えた。

団体戦を終え明るい表情だった加納

「パラリンピックに出たい」と協会に直談判して東京パラリンピック出場にたどり着いた。結果は目標に届かなかったが、最後の団体は自分の力を出し切ったような表情を見せた 【写真は共同】

 団体戦は日本チームの編成上、勝ち上がるのは難しい。ルール上、団体戦のメンバーは3人のうち「障害B」の選手を1人以上入れる必要がある。パラリンピックの車いすフェンシングでは、カテゴリーが障害AとBに分かれており、Bがより障がいの重い選手だ。そのため、3名のうち障害Aの選手2名、障害Bの選手1名の「AAB」のメンバー構成が基本となるが、日本代表には加納のほか、障害Bの藤田道宣と、同じく障害Bの恩田竜二しかいない。しかも藤田はパラリンピックでは実施されていないが、「障害C」相当の選手だ。そのため「ABB」の構成となり、実力以外の部分で厳しい試合展開となることが明白だった。

 そして、結果は3戦全敗だった。しかし、取材エリアに現れた加納の表情は昨日とはうってかわり明るいものだった。

 団体戦で、加納は9試合中5試合で相手よりも多く得点を挙げた。また、個人フルーレ(障害A)で金メダルを獲得した中国の孫剛とも4-5と、競った試合を見せ、自分の出せる力を発揮した。

「(今大会を通して)自分がやってきたことが全て出せたかというと、出せていない。しかし、次の試合に向けての課題や目標というのが自分の中で芽生えつつあるので、それが一番の収穫です。(芽生えたものは)私事なのでちょっと教えられないです(笑)」

 試合後、初パラリンピックで経験したことを問われると、記者の笑いを取る余裕も見せた。藤田の「加納さんはこういう人なんです(笑)」という、フォロー(?)もあり、試合に負けはしたが、取材エリアはいい雰囲気だった。全て力を出し切れたかというとそうではないが、団体戦ではやりきった部分もあるのだろう。

 結果だけ見ると、個人戦は予選リーグで敗退し、団体戦もチームで勝ち星は上げられなかった。しかし、北京パラリンピック以来、日本人の出場すらなかった車いすフェンシングが、こうして大舞台に戻ってきて、今後の可能性を見せた試合をしたことに間違いない。北京での自国開催以降、力を付けた中国のように、日本の車いすフェンシング界も続いてほしいと願うばかりだ。

パリに向け、これから目指すもの

パリパラリンピックへの出場を明言しなかったものの、次の挑戦への前向きな視線は感じられた 【写真は共同】

 東京パラリンピックに出場するために始めた車いすフェンシング。加納の挑戦は一区切りとなった。出場を目指したパラリンピックは、いつしか金メダルが目標となっていた。

 これからは何を目指すのか――。最後に、パリパラリンピックへ向けての思いを聞いた。藤田と恩田はパリへの思いを語ったが、加納の答えはこうだ。

「一から計画を練ると思いますが、今は何も考えていないです」

 少し意地悪く微笑み、はっきりとパリを目指すとは言わなかった。しかしその瞳は前を向き、次の舞台に向けてどこかワクワクしている挑戦者のように見えた。

 なるほど、加納はこういう人なのか。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)
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