唐沢と和田、伴走者との信頼でWメダル 泣いた給水も“神業”で打開
酷暑のレース、重要度が増したサポート
午前中から30度を超える過酷なレース環境ながら、唐沢(写真)が銀メダル、和田が銅メダルを獲得した。その横には伴走者という欠かせない存在があった 【写真は共同】
レースはタフな環境で始まった。午前9時30分ごろのスタートだが、すでに温度計は32度をさした。私自身も記者席で暑さを感じ、座って数分でスマートフォンは冷却モードの通知が出て、パソコンも文字を打つのもままならないくらい熱くなっていた。きっとトラックでの体感温度はもっと高かっただろう。
そんな過酷な状況だからこそ、伴走者のサポートも重要になる。
伴走者とは、視覚障がいの陸上競技において、ランナーの横で一緒に走る人を指す。ランナーと伴走者は、輪になったロープをお互いが持ち、二人三脚のように息を合わせて走る。特に長距離では、選手同士の接触を避けるように誘導したり、給水の補助を行うなど、重要な役割が多い。好タイムを出すには、選手自身の能力に加えて伴走者のサポートが必要不可欠だ。また、伴走者は、レース中の交代が認められており、多くの選手が2人登録している。
前述した通りの過酷な環境でのレースは、選手もスローペースで始まることを予想したという。だが、想定以上に前に行く展開でスタートし、銅メダルの和田は「思ったより1週目(のペース)が速かったのですが、(伴走者の)矢嶋謙悟選手が良い位置をとってくれた。そこをキープしてずっと走ったのが良かった」と伴走者をたたえるコメントを残している。
伴走者との息も合い、力を出し切ったレースであった。しかし、悔やまれる部分もあった。それは、レースのプランが崩れたとか、伴走者との息が合わなかったなど、和田自身の問題というわけではなく、“給水テーブルの設置位置”に泣かされたのだ。
パラアスリートのすごみを感じた給水の方法
酷暑のレースは給水が重要だ。和田の伴走者はトラックの内側で走るが、給水が外側のレーンしかなく、位置を入れ替えて走った 【写真は共同】
「伴走者を外側にすればいいのでは?」と思う人もいるかもしれないが、目の見えないランナーにとって、慣れ親しんだ伴走者の位置は簡単に変えられるものではない。また、ランナー自身が慣れない内側で走ると、ラインの中に入って失格になってしまうリスクもある。
伴走者が内側で走ることはルール上問題なく、国内のレースでは内側にも給水テーブルが設置されていた。しかし、5月に行われたテストイベント「READY STEADY TOKYO」で、給水テーブルが内側になかったため、日本パラ陸上競技連盟の指宿立・強化委員長を通じて大会側には、「パラリンピックでは内側にも設置してほしい」と何度も連絡をしたが、結局、認められなかったという。
では給水を行わなかったのか? 「猛暑じゃなきゃ給水なしでも行けるが、この暑さの中では一度は給水を取らないと(レースの最後まで)もたない」と話した通り、給水をちゃんと行っている。
その方法が驚きで、「伴走者を交代するタイミングで一度外側に入り、給水が終わったら内側に戻す」という半ば強引なやり方だ。これを目が見えないランナーが、走りながら行っているのだから、まさに“神業”と言うしかないだろう。内側での給水が認められなかったのは残念で、もしそれがあったら……とも考えてしまうが、この状況にあったからこそ神業を見られたことに、パラアスリートのすごみを感じたことも事実だ。