【サッカー】東京五輪男子サッカー総括:日本はストライカーをどう育成していくか…いまも続くDFW問題

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【(C)Getty Images】

ネットスラングの「DFW(ディフェンシブFW)」という言葉が生まれたのは20年ほど前のことである。

日本はFWが点を取れない。しかしディフェンスでは高い貢献をしている。そんな認識から、サッカーゲームなどでよく使われた「DMF(ディフェンシブMF)」から引っ掛けて、日本代表のFWをそう呼んだわけだ。

なんだか悪口のように聞こえるし、実際当初は揶揄する言葉だったと記憶しているが、そう呼ばれたFWを擁した日本代表がチームとしての結果を残すうちに、違ったニュアンスも生まれることとなった。MFに才能豊かな選手がそろう日本において、FWは汚れ役に徹してくれる選手こそふさわしいのではないか。そんな議論も生まれた。

Tokyo 2020(東京五輪)の男子サッカー日本代表の最前線を担ったFW林大地は6試合中5試合に先発して無得点。しかしチームへの貢献度が絶大だったことは衆目の一致するところで、またこの言葉が思い出されることとなった。

日本が初めて参加した1998年フランスW杯の時からこの話の萌芽はあって、無得点に終わったFW城彰二が世間から叩かれたのに対し、DF井原正巳ら守備陣が「日本のFWほど守備を頑張っている国はほかにいない」と擁護したことがあった。

日本相手に決勝ゴールを決めたアルゼンチン代表のバティストゥータも、クロアチア代表のFWスーケルも、「守備では手を抜いていた。その点、日本のFW陣はチームのために守備をし続けてくれた」と。

そしてここから半ば必然的に「逆に考えると」という議論も生まれるようになった。

「守備をサボっていれば日本のFWも点が取れたのか?」

「日本はFWに守備を求め過ぎているから点が取れない」

そんな話である。

フィニッシュ以外のところでエネルギーを浪費しているせいで、シュートのところでパワーを残しておければいいのではないか。こんな議論がぐるぐると回り出し、驚くべきことに20年経ってもまだ続いている。

一方で、20年経って世界のサッカーの方が大きく変わった。常にサボって点だけ取っている選手が許された時代は終わりを告げており、むしろ守備に対してアクティブなFWが総じて好まれるようになってきている。

それでもメッシやロナウドのような“特別な選手”はある程度守備を免除されるものだが、それにしても昔のセンターFWとは違って守備のタスクは課されている。ポーランド代表FWレヴァンドフスキのように、圧倒的な得点力と確かな守備力を兼ね備えるスーパーセンターFWも登場した。

今大会の日本に、そうした特別なストライカーは不在である。そのうち出てきてくれればいいなという淡い期待を抱きつつ、例えば川崎フロンターレのFWレアンドロ・ダミアン(彼も攻守兼備だ)が日本人だったらと思ったりもしてみるが、そもそも彼が象徴するように、Jリーグでこのポジションを任されるのがほとんど外国人選手であるという現実もある。

欧州でセンターFWとして活躍する選手も出てこないどころか、そもそも買われることもなくなっている。MFやDFの選手たちが次々と海を渡っていくのとは対照的だ。東京五輪に向けて期待を受けたこの世代のセンターFWたちの多くも、外国人選手の陰に隠れてチャンスを得られなかった。それはもちろん、押しのけて出るだけの力がなかった、とも言える。

FW上田綺世が負傷の影響で初戦に仕上がりきらない中で先発した林は、森保一監督が「これほど成長するものなのか」と驚くほどのプレーを見せ、確かな貢献を続けた。だが、フィニッシュに関しては力不足だったのも否めない。日本のFW陣では前田大然だけがフランスとの試合で1点を決めているが、これもサイドハーフで起用されていた時に決めたもの。センターFWの得点は6試合を戦って0点である。

1998年のフランスW杯から始まった「DFW」問題。FW岡崎慎司が欧州の中堅クラブで重宝されていたように、犠牲心に富んだ日本のFWに需要が存在しないわけではない。ただ、汚れ役になってくれる、守備で献身的に頑張ってくれるだけでは、やはり足りないのだ。

東京五輪で優勝したブラジルのFW陣は、かつてこの国でよく見られた緩慢な守備をする選手ではなく、6連戦の最終戦とは思えぬほど、メリハリの利いた、効果的な守備をするFWで構成されていた。日本があれほど苦しめられたスペインのビルドアップをしばしば破壊し、そして点を取ったのもFWだった。

時代は攻守兼備のFWを求めている。「点を取っていれば守備をサボってOK」もなければ、「守備をしていれば点が取れなくても仕方ない」という話でもない。とはいえ、「全部やれ」というだけで選手が育つわけでもないだろう。

日本のストライカーをどう育成していくか。1998年に初めて出た世界大会からずっと継続している課題は、2021年になっても変わっていない。

明確な答えなど世界中の誰も持っていないと思うが、だからこそ育成年代から多様なアプローチでこのポジションの選手をどう育てるか追求していく必要がある。正解はないが、このままでは出てこない可能性が高いのも明らか。いままで通りではなく、新しいやり方を探りながら(それは人材発掘も含め!)、最前線の担い手を育てていく必要がある。

文=川端暁彦
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