大会最終日に輝いた笑顔の銀メダル 米国との決勝は日本バスケ界のレガシー

平野貴也

「米国を倒して金」を目標にしたトム・ホーバスHC

17年1月の就任会見で、米国を破って東京五輪の金メダルを取ることが目標と言い切ったトム・ホーバスHC 【Getty Images】

 頂点には、まだ届かなかった。絶対女王の壁は高い。しかし、鋭くゴール下へ切り込むドライブ、その動きに合わせる連係、素早いパス回しからの3ポイントと、速くて流れるような攻撃は、見る人を魅了。過去最高成績だった1976年モントリオール五輪のベスト8を上回っただけでなく、銀メダルという大きな成果にたどり着き、東京五輪の最終日まで勝ち進んだことで、多くの注目を浴びることもできた。

 最大のけん引役は17年1月の就任会見で、米国を破って東京五輪の金メダルを取ることが目標と言い切ったホーバスHCだ。町田は「トムさんが(就任時に)金メダルを取るって言ったときに、周りは信じていなかったと思う。正直、自分たちも『取れるのかな?』っていう気持ちは、渡嘉敷さんがケガをしたときに思ったんですけど、それを言い続けてくれて、自分たちも信じてバスケットをできたことが、銀メダルにつながったと思う」と高い目標を本気で目指すチームを作り上げた指揮官に感謝を示した。

 日本の特徴である速さと連係を築くには、頭も体も使い続けなければならず、その鍛錬は、とにかくタフ。主将の高田は「練習が一番きついので大変。だからこそ、勝った時にはうれしい。メダルを取れたのは、HC含め、スタッフ皆さんのおかげ。言霊(ことだま)って大事だなと思います」と話したとき、わずかに涙ぐんだが「何回も同じことを注意されたり、細かいことを修正したり。正直な話、ロッカールームに帰ったときは、『メダル取ったー!』というよりも、『やり切ったー!』っていう感じで終わった。それくらい本当にタフな合宿を続けていたので、解放される喜びは、みんなあると思います」と続けて、笑った。

 本気で頂点を目指し、世界一決定戦にたどり着いて、日本対策をしてきた絶対女王・米国と対戦した。この結果は、現役のシニア選手だけでなく、未来に夢を与えるものだ。ここまで来れたから、さらに本気で目指せる世界がやってくる。

これからの日本女子バスケは「新時代」に

トム・ホーバスHCは、試合後のメダリスト会見で「スーパースターはいないけど、スーパーチーム」と選手を称えた 【写真は共同】

 ホーバスHCは、試合後のメダリスト会見で「スーパースターはいないけど、スーパーチーム」と選手を称えた。東京五輪という注目度の高い大会で、特長を存分に発揮しながら決勝戦という大舞台に勝ち進んだことで、より大きな注目や応援を受けた。そのことについて指揮官に聞くと、こう言った。

「選手には、感謝。長く頑張ってきた。これから、日本の(女子)バスケットは、もっと応援してもらえるようになって、新時代になる。もっと、こういう結果を出せるようになる。日本の女子バレーボールは、前の東京五輪から注目されるようになったでしょう?」

 世界の頂点が見えるところまで来ているとアピールできたことは、今後、長い時間にわたって日本バスケットボール界のレガシーとなる。今度は、ホーバスHCだけでなく、みんなが最初から信じて目指せる。そして、いつか新しい基準で育った選手たちが、この日の銀メダルより強い輝きを放ってくれる。高田は「見ている人に何かを与えられるプレーをすることが一番大事」と言っていた。大舞台の最終日に輝いた笑顔の銀メダルは、世界一を目指す力を与えてくれるものだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント