米記者が見た東京五輪「感謝しかない」 一方で、自国でのスポーツ開催に危機感…

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米NBCで放送陸上統計家を務めるデイビッド・モンティさん。妻のジェーンさんと来日し、仕事に励んでいる 【スポーツナビ】

 2013年に開催が決まり、その実現までに8年の時間を要した東京五輪が、まもなく終わろうとしている。新型コロナウイルスの猛威によって実施そのものが危ぶまれ、多くの会場で無観客の開催となり、数々の苦難を強いられた今大会。ほとんどの方はテレビかインターネットでしか見ることができなかった五輪は、飛び去るような早さで過ぎていく。

 誰も経験したことがない今回のオリンピックを、海外からの来訪者はどのように捉えているのか。そんな思いから、これまでインドのミハイル・ヴァサブダさん、フランスのニコラ・エルベロさんと、2度にわたって話をうかがってきた。ただ、もうすぐフィナーレを迎えようとしている中で、どうしても意見を聞いておきたい国があった。今大会に613人の選手を送り込んだ世界最大のスポーツ大国・アメリカだ。

 そこで最後に、アメリカの3大ネットワークの1つであるNBCで、放送陸上統計家を務めるデイビッド・モンティさんに話を聞いた。放送陸上統計家とは、テレビ中継を行う際に使用するデータを収集・提供する専門家のことで、五輪には1996年のアトランタから7大会連続で現地に訪れており、米国ではライターとしても活動している。今回は同じ仕事をしている妻のジェーンさんとともに来日し、2人で力を合わせて仕事を進めているという。

 来年には世界陸上というビッグイベントも控えているアメリカに拠点を置くモンティさんは、どんな視点でこのオリンピックを見ているのだろうか。

米国陸上チームは「メダル30個」が成功のライン

アメリカは陸上男子200メートルでベドナレク(右)が銀メダル、ライルズ(左)が銅メダルを獲得した 【写真:ロイター/アフロ】

――本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。連日猛暑が続いていますが、体調は大丈夫ですか?

 全く問題ないですよ! ホテルやバス、そして競技場の中は涼しいし、ホテルの朝食もおいしいので、快適に過ごしています。妻のジェーンとも一緒に仕事をしていて、ほぼ24時間2人でいますから、とても楽しいです。

 現在のルーティンとしては、朝7時にスタジアムへ出発し、夜11時くらいに帰るのでとても忙しいですが、過ごし方は普段のオリンピックと変わりませんね。

――アメリカ国内では、今回の五輪に対する盛り上がりはいかがですか?

 まず、私はNBCでオリンピックの中継に関わる仕事をしていますが、アメリカでは五輪の1週目は水泳と体操がメインです。どちらもアメリカの選手が結果を残しているスポーツで、中継を見る人はどんどん増えていきます。その2つの競技が終わると陸上が始まり、こちらもアメリカの選手が強い競技なので、普段は陸上を見ない人でも毎日のように五輪を見るようになります。後は選手の活躍次第ですね。

 アメリカの陸上代表としては、色に関係なく全体で1大会30個以上のメダルを獲得すれば成功と言われます。しかし、国内で人気も高く金メダルの有力候補だった棒高跳のサム・ケンドリックス選手が新型コロナウイルス陽性となり、欠場を強いられてしまったのは残念ですね。

――17歳のエリヨン・ナイトン選手は、男子200メートル準決勝で素晴らしい走りを見せました(取材は4日昼に実施)。アメリカ国内でも、ナイトン選手に対する期待は高いですか?

 やはり、彼はすごい選手ですね。日本では長距離種目の人気が高く、中学・高校・大学と長距離を続けていく育成システムが発達していると思いますが、アメリカでは短距離の人気が高く、育成のシステムも短距離の方に重きを置いています。そうした背景もあり、高校や大学でも短距離向けの育成がより重要視されているので、ナイトンのようなスターが出てきてもおかしくないと思います。多くのアメリカ人は(2019年世界陸上王者の)ノア・ライルズが間違いなく200メートルで優勝すると考えていますが、ナイトンと(もう1人の代表である)ケネス・ベドナレクが続き、メダルをスイープする可能性もあるのではないでしょうか。

(編集注:4日夜に行われた決勝では、カナダのアンドレ・ド グラスが金メダルを獲得。2位ベドナレク、3位ライルズ、4位ナイトンと続いた)

――その一方で、男子800メートル準決勝ではアメリカのアイザイア・ジュエット選手とニジェル・アモス選手(ボツワナ)が交錯し、転倒してしまった後、手をつなぎ並走してゴールしたシーンが印象に残りました。

 ジュエット選手が決勝に進めなかったのは残念でしたが(編集注:アモスは転倒に巻き込まれる形だったため、救済措置で決勝進出が認められた)、多くのアメリカ人は彼らが見せたようなスポーツマンシップを大切にしています。また、これはアメリカと直接的な関係はありませんが、男子走高跳では全く同じ結果で並んだムタズエサ・バルシム選手(カタール)と、ジャンマルコ・タンベリ選手(イタリア)が互いの健闘を尊重し、2人で金メダルを分け合いました。あれはかなりレベルの高いスポーツマンシップでしたね。

飛行機に乗るまでは「本当に開催されるとは思わなかった」

モンティさんは大会規定となるプレーブックの内容には理解を示し、順守している 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】

――では、本題に入ります。今回の東京五輪開催について、率直にどう感じていますか?

 正直に申し上げると、日本行きの飛行機に乗るまで、本当に開催されるとは思っていませんでした。飛行機が飛び立った時に初めて「このオリンピックは本当に行われるんだ」と実感しました。

 日本に来てからはいまこの瞬間まで、ポジティブなことばかりですし、日本の皆さんに感謝しています。大会の運営はかなり親切で、ボランティアの方々も「おもてなし」の精神を持ち、とても温かい。感謝しかないですね。

 こうして新型コロナウイルスが猛威をふるう中でオリンピックを実行するのは本当に難しいことですし、日本がここまで無事に大会を進めているのは、素晴らしいと思います。

 東京に来て、観光やレストランに行けないのは寂しいですね。東京の街を楽しめるのは、毎日乗っているバスの外から景色を眺める時くらいです。ただ、こうした制限を守らなければ多くの関係者や日本の皆さんの安全につながらないので、しっかりと守ることが大事ですね。(隔離期間が終わって)毎日ホテルの目の前のファミリーマートで夕食を買うのですが、アサヒスーパードライを一緒に買って自分の部屋で飲んでいます。

――ファミリーマートで売っているファミチキはとてもおいしいので、ぜひ食べてみてください。

 OK、食べてみるよ!(笑)
――今のお話にも関わることですが、入国後の隔離や国内での移動制限など、プレーブック(大会規定)の内容についてはどう感じていますか?

 内容については問題ないと思いますね。全て当然のことだと思いますし、順守しています。外出もしていませんし、『OCHA』という体調の情報を記録するアプリにも、毎日登録しています。出発前に2回PCR検査を受け、(7月25日の)入国後もこれまで4回検査しています。普段の仕事と比べれば、これくらいは何でもありません。

 一番大事なのは日本国民の安全を守ることですが、一方で国立競技場では陸上のすごい試合が行われています。一般の方がそれを目の前で見られないのは悲しいことですし、心が痛みます。この五輪を行うために、8年という長い時間をかけて準備を進めてこられたと思うのですが、最後の最後にずっと楽しみにしていた日本の皆さんが現地で試合を見られなくなってしまったのは、本当に寂しいですね。

――アメリカでは大会前、今回の五輪開催についてネガティブな報道も出ていたと思います。開幕後は、国内の反応は変わりましたか?

 実は、こうした報道は伝統的なもので、アメリカメディアは大会前になると今回の東京だけではなく、毎回のようにネガティブな情報を発信しているのです。2004年のアテネでは「ギリシャはうまく準備ができていない」、08年の北京では「大気汚染がひどく、選手たちの体に悪影響を及ぼす」、そして16年のリオではジカ熱の問題を報じていました。そうした意味では、今回も特別ではありませんでした。

 ただ、大会が始まってアメリカの選手がメダルを取れば、そうした記事は完全になくなります。

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