体操団体の流れを決めた北園丈琉の覚悟「僕から新しい日本がスタートする」

平野貴也

体操男子団体の最年少メンバー、18歳の北園丈琉。初めての五輪で何を感じたのか 【平野貴也】

 東京五輪における体操男子は、団体で銀メダルを取っただけでなく、橋本大輝(順大)が個人で2つの金メダルを獲得し、新エースとしての存在をアピールした。体操ニッポンの新時代の到来を告げる大会になったが、その中で喜びと悔しさの両方を強く感じている、次のエース候補がいた。

 団体最年少メンバー、18歳の北園丈琉(徳洲会)だ。4月の全日本総合で鉄棒から落下して右ヒジを負傷。一時は代表入りも危ぶまれたが、奇跡的な回復とパフォーマンスで代表入り。東京五輪では、団体銀に貢献したほか、個人総合でも5位入賞を果たした。これまで日本をけん引してきた内村航平(ジョイカル)に憧れて本格的に競技を始めた北園は、間に合った初の五輪で何を感じたのか。競技終了の翌日、話を聞いた。(取材日:8月4日)

水鳥強化部長の期待「丈琉から行こう」

団体決勝は第1種目のゆかで北園からスタート。見事な演技でチームに良い流れをもたらした 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――率直に、初めての五輪を終えた感想を教えてください。

 すごく、自分が目標としていた舞台。もちろん、悔しさは残っているんですけど、振り返ると本当に楽しい舞台だったなと思います。

――見ている側としても、本当に間に合って良かったという気持ちです。

 そうですね。4月のときには、考えられなかったですね。あのときは「終わった」って思いました。

――国内の選考会で、ある程度回復した姿を見せていただきましたが、やはり五輪という大きな舞台に臨むにあたっては、本当に大丈夫かという不安と、絶対にやってみせるという覚悟の両方があったと思います。どんな心境で臨みましたか?

 五輪なので、「絶対に行きたい」という思いと、「中途半端な演技では行きたくない」という思いがありました。でも、自分の演技を出し切れれば代表に入れるというのも分かっていたので、ちょっとでも可能性があるならチャレンジしたいと思いましたし、いろいろな人の支えのおかげで、代表選考会は勝てました。6月に代表に決まって、五輪はすぐだったので、もう来るのかというワクワクや怖さ、この数カ月はいろんな感情がありました。

 代表に選ばれてからは金メダルを取らないといけない宿命というか、日本の伝統を受け継ぐ使命感がすごく出てきて、今まで(東京五輪出場に向けて)突っ走っていたものが一回落ち着いて、もう一回目標をしっかり確認したときに、本当に頑張らないといけない、日本の出られなかった人たちの分まで力を出し切らないといけないという覚悟が決まりました。

――予選を終えた後、最初の決勝が団体戦。第1種目のゆかは、北園選手からでした。最初の技の着地で片足が踏み越したときは、平常心でやれているかなと不安に思いましたが、見事な演技でした。谷川航選手も「あれで中国にプレッシャーがかかったと思う」と話していました。

 ハハハ、僕は、自分のことだけに集中していたので、どう見えていたのかなと思っていました。でも、結構、落ち着いていましたよ。最初の僕の演技によって、チームの流れがどちらにも転ぶ大事な場面だと分かっていたので、余計に力は出ましたね。

 僕から行くというのは、前々から聞いてはいましたけど、本当にオーダーを聞いたときは「よし、僕からか!」と思いました。そのために試技会でも一番手で演技を行うなど準備もしていたので、僕から新しい日本がスタートする、そういうのは良いなって思っていました。水鳥(寿思)強化本部長からも「新しい時代のスタートも含めて、丈琉から行こうと思っている」と言ってもらって、これはもう僕が引っ張っていく覚悟も決めてやっていこうと思いました。

内村の予選敗退で「団体の4人は締まった」」

――内村航平選手が引っ張ってきた時代の次、新世代をアピールする大きな舞台になったと思います。

 どうしても航平さんに頼ってしまっていた部分もありましたし、航平さんがいたから僕らがここに来れたという部分も大きいです。でも、代表選考会で権利を勝ち取ったのは、僕たち。五輪の舞台でやり切ったのも、僕たち。僕らが引っ張っていく新時代という意味があると思います。ただ、恩返しという部分もあって、航平さんの存在は代表合宿のときから大きかったので、僕らだけでは絶対に取れていない銀メダルだったとも思います。

――北園選手は、中学生のころに内村選手に教わる映像がテレビで紹介されるなどしていますが、全日本総合のときも内村選手が「内村2世と言ってプレッシャーをかけないように」と報道陣に釘を刺したり、本当に目をかけられているというか、愛されているなと感じます。

 そうなんですよ(笑)。本当に気にかけてくださっている気がしますし、託されているなというのをすごく感じるので、期待を裏切らないように、頑張っていきたいなと思います。

――個人種目に出場していた内村選手が予選で敗退したショックは?

 練習では、毎回、着地まで狙いにいって、Eスコア(出来栄え点)も高く出る完ぺきな演技を試合の1カ月前からしているのを見てきたので、考えられませんでした。絶対にしないようなミスが、(当日の)ポディウム(公式練習)から立て続けに出ていたので、航平さんも緊張しているのかな、東京五輪という舞台で背負っているものがあるのかなとは思っていましたけど。ただ、あれで団体の4人は締まったというか、士気が上がった部分があったように思います。(萱)和磨さんも言っていたんですけど「これで動じているようではダメだ」と僕らもそのとき思いましたし、僕らは僕らの仕事を一人ひとりがやれたのが、良い団体戦につながったかなと思います。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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