体操新エース橋本大輝の五輪回顧「3つのメダルは5年間努力してきた証し」

平野貴也

本当に最強の4人が集まったなと思う

団体では橋本を含む選手4人が異口同音に「最強の4人」と表現。チームに対する並々ならぬプライドで団体戦に臨んだ 【Photo by Jamie Squire/Getty Images】

――団体戦の直後も、4選手がそれぞれ「最強の4人」という言葉を使っていて、チームに対するプライドを強烈に感じました。

 僕も(代表4人が決まったときに)ネットで「内村がいない、白井(健三)がいない」って、リオのメンバーがいないことを言っている人がいるのを見ました。僕らの闘争心を煽ってくれたかなと思います。でも、選手一人ひとりが(代表になるために)頑張ってきたのに、そういう不満を漏らしてほしくないなと切実に思います。若いころから代表入りするぞと思って頑張って選ばれた選手に対して良くないです。

 僕たちは、金メダルを取るために、本当に取れると思ってやってきました。1年の延期をプラスに捉えてやってこれたのは、サポートしてくれた水鳥寿思強化本部長であったり、順天堂大学の原田睦巳監督であったり、いろいろな方のサポートのおかげですけど、全員が初代表でここまで良い試合ができるなんて、どの世代にもない経験。本当に最強の4人が集まったなと思っています。

――本当に素晴らしい4人の戦いでした。そこから個人戦に移ったわけですが、団体戦の直後に水鳥強化本部長が「近い将来、彼は必ず世界王者になる」と仰っていたのですが、わずか2日後に世界王者になりました。

 近い将来……ホントだ(笑)。個人総合の表彰式で金メダルをもらったときは、言葉にできないくらいうれしかったです。個人でチャンピオンになったら、正真正銘の世界一ですから。うれしさが一気に来るのかなと思っていたんですけど、うれしさは、じわじわって感じでした。競技が終わったときは「これで、世界一に決まったんだ?」って、一瞬、はてなマークがついた状態でした。厳しい戦いをする中で、僕は結果を気にするのではなく、自分の演技を見せたいと思って楽しんでいたので「あっ、試合終わっちゃった」とか、まだこの楽しい時間を過ごしていたいと思っていて。本当に純粋に試合を楽しんでいたなと思います。

誤解を解くSNS投稿「知ってもらいたかった」

SNSでは採点に関する誤解が飛び交っていたため、橋本は丁寧に自分の意見を投稿した 【Photo by Elsa/Getty Images】

――試合を楽しんでいるエネルギーを発しながら、高度な演技で頂点に立ったという印象は、見ている人にも伝わったと思います。一方で、採点に関する誹謗中傷がネット上で起こり、すぐにSNSでコメントを出すというような出来事もありました。

 個人総合を優勝した後、LINEを見たら「周りの目は気にするなよ」というメッセージがあったんですけど、王者になったんだから見られ方を気にしろよという意味にしか思いませんでした。SNSの通知がたくさん来ていたのも、フォロワーが増えたのかなというくらいの感覚でした。でも、アプリを起動したら、いきなり変なタグ付けをされたメッセージがいっぱい、目に入ってきました。「あれ?」と思って読んでみたら、主に跳馬の採点のことでした。確かに演技台から落ちましたけど、立ってはいたし、ライン減点も0.1に収めていました。何か、ほかにあったのかな、何が起きているのかなと僕自身が疑心暗鬼になりましたし、友だちからも大丈夫かと心配してくれるメッセージが届いていて、これは自分の意見を言わないといけないなと思いました。

 誤解を招く演技になってしまったこと(の真実)を知ってもらいたかったし、少しでも多くの誤解が解けて(誹謗中傷を)やめる人が増えたらいいなと思いました。言葉を選んで投稿の準備をしていたら、FIG(国際体操連盟)が公式採点の詳細を出してくれたので、心がホッとしました。それを付けてツイートしたら、周りから、すごく言葉を選んでいてすごいねとか褒められたりしましたけど、自分の意見を発信しやすいSNSは難しいですね。片手で人の悪口も言えちゃいますし、すぐに届いちゃう。まあ、僕は傷つかなかったですけど。イチローさんが何かで「僕、他人から嫌われるの大好きなんですよ。だって、認められている証拠じゃないですか」って言っていたのを思い出して、確かにそういうことだなと思っていました。
――会見では、本当は跳馬でヨネクラを跳びたかったと話していました。種目別の鉄棒も離れ技の連続技に挑戦するプランもあったと聞きました。まだDスコア(難度点)を上げられる中でも、Eスコア(出来栄え点)を求めて美しい体操をするというのは、日本らしい勝ち方だと感じました。そのこだわりと、今後への抱負を最後に教えてください。

 僕の体操の美しさは、そこが強いというか。難度を落としても確実に点数を取れる部分があるので、そういうのも今後、武器として戦っていきたいです。満足せずに、これからは、自分の理想の演技を突き詰めたいです。世界チャンピオンとしての挑戦が始まったので、ここから新たなる記録を打ち立てたいと思っています。

* * *

 橋本は、言葉にも表現力がある。試合を見ていても、話を聞いていても楽しくなる。この日、会見の後にもインタビューが続いた橋本に、話し疲れないかと聞くと「今日は、口が筋肉痛になりそうです」と笑っていた。明るくて力強い新時代のエースが見せてくれる新たな世界が楽しみだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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