0.03秒差でも「まだまだ遠いと感じた」 泉谷、金井が開けなかったファイナルの扉

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メダルを狙える自己ベストを持つ泉谷だったが……

陸上男子110メートル障害準決勝、0.03秒差で決勝進出を逃した泉谷駿介 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本史上初となる決勝の舞台は、目前まで迫っていた。だが、それだけ近づいたからこそ、越えるための高さを思い知らされた。

 13秒06(追い風1.2メートル)の110メートルハードル日本記録保持者である、順天堂大4年の泉谷駿介は、3日の予選を13秒28(向かい風0.2メートル)のセカンドベストで通過。初の五輪とは思えないほど落ち着いた走りでパスし、状態の良さをうかがわせていた。「明日(4日)は1台を出して決勝に進出したいです」。2016年リオデジャネイロ五輪の2位に相当する自己ベストを持つ21歳は、ファイナリストではなく、メダルの獲得を射程に捉えていた。

 自信を持って迎えたセミファイナルだったが、最初のハードルでいきなり足を引っかけた。3つ隣のレーンでは、19年世界陸上王者のグラント・ホロウェー(アメリカ)が先を行くのも視線に入り「ホロウェー選手が横に見えて、集中が切れてしまった」と、焦りが増す。中盤以降は何度もハードルをなぎ倒し、そのたびに減速。バランスを崩しながらも必死の思いで体を前に運び続けたが、13秒35(向かい風0.1メートル)で3組3着。2位までが進めた着順での通過はかなわず、タイムでのデッドラインとなった13秒32にもわずかに及ばなかった。「(通過ラインに)入ったかな、入ってないかなという気持ちでしたが……。今はやっぱり、現実を受け止められないですね」。ぼうぜんとした表情で、無念のレースを振り返った。

金井は「最初で最後の戦い」を終える

男子110メートル障害準決勝で転倒する金井大旺=国立競技場 【共同】

 もう1人のセミファイナリスト・金井大旺(ミズノ)は、全てを懸けてこの戦いに臨んでいた。大会が始まる前から、東京五輪を最後に、実家の北海道・函館にある歯科病院を継ぐために歯科医を目指し引退すると公言。金井にとって、最初で最後のオリンピックになることは決まっていた。「自分にプレッシャーをかけて、最高の準備をして挑む大会にしたい」。3年前からこの大会で使用される、イタリア・モンド社が作った木製のハードルを自費で購入し、環境も気持ちも整えて準備を進めてきた。東京五輪で、全ての実力を出し切るためだ。

「昨日はスタートから全てのハードルでブレーキ動作を含みながら走っていた。今日にかけてできる限りの修正をしてきました」という言葉通り、抜群の飛び出しを見せた。磨き上げた無駄の少ないハードリングでリズムをつかみ、加速し続けたが、8台目のハードルを越えた後に落とし穴が待っていた。追い上げてきた8レーンの選手と接触し、バランスを崩して転倒。この瞬間、決勝への夢はついえたが、「ゴールするという選択肢しか僕にはなかった」と、自己ベストの倍近い26秒11(追い風0.1メートル)でフィニッシュした。

「(接触して)不安定になった時も強い選手は耐え切れるので、それも実力のうちかなと思います。『自分の挑戦は終わってしまったな』と、すごく悔しい気持ちです」。ここにたどり着くまでの長い時間をかみしめながら、そう言葉を絞り出した。

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