寺田明日香は早くも「次の舞台」を見据えた 最高峰の戦いを経て、母が目指すもの
日本勢が21年ぶりに挑んだ、準決勝のハイレベルな戦い
日本勢21年ぶりとなる準決勝の舞台に立った寺田明日香 【写真は共同】
前日の予選を12秒95(追い風0.3メートル)で突破し、女子100メートルハードルでは2000年シドニー大会で金沢イボンヌが進んで以来、21年ぶりとなる準決勝に進出。寺田は12秒87の日本記録保持者だが、決勝に進むためには、少なくとも12秒7台のタイムを出さなければ難しいと見られていた。大きな重圧がかかるレースで、自己記録を大きく上回る成果を出す。高く険しいハードルに向かって、果敢に挑んだ。
「1、2台目で(前に向かって)突っ込んでいく形を出したかった」と話す通り、スタートは低い態勢で飛び出し、順調に加速しているように見えた。だが、世界ランク4位で12秒48の自己ベストを持つトビ・アムサン(ナイジェリア)ら、世界の強豪は中盤から抜け出し、どんどん離されていく。13秒06(向かい風0.8メートル)で1組6着に終わり、ファイナリストになる夢はついえた。
「加速に乗った時に、周りのリズムが速いことは分かっていましたが、そこで足をさばき切れない自分もいました。自分がどのくらいのスピードに到達するかの感覚値が、フラットレースで走った時のスピード感についていけてない。悔しいですね」
全開のパフォーマンスを出せず、記録は自己ベストにも及ばなかった。決勝に進めなかったのはもちろんだが、力を出し切れなかったことに対して、強く後悔が残った。
「不思議なキャリア」は、その時にしかできないことを大事にした結果
31歳での初挑戦。“ママさんハードラー”は力を出し切れず決勝進出は逃した 【写真は共同】
「確かに色んな道を通ってきましたが、私としては1つ1つのポイントだったと考えています。確かにアスリートとしては不思議なキャリアですが、それは大きな問題ではありません。その時にしかできないことをやって、それに力を貸してくれる人がいて。全ての瞬間を大事にしてきた結果なんだと思います」
そうしてたどり着いたセミファイナルの戦いで、最高峰のレベルを肌で感じた。走りの参考にしていたと語るケンドラ・ハリソン(アメリカ)や、準決勝で12秒26(向かい風0.2メートル)のオリンピックレコードをたたき出したジャスミン・クイン(プエルトリコ)。その速さを間近で体験し、まだ彼女たちと戦える力がない歯がゆさを味わいながらも、自分にどの部分が足りていないのか、冷静に分析を進めていた。
「ハリソン選手やクイン選手の動きを見ていて、走っている中で跳ぶ形ができていると感じました。私は中盤以降体がすごく浮いている感じというか、踏切が近くなって足がさばけず、1個1個のハードルでタイムロスしてしまった。そりゃ1秒近く離されるよな、と思いましたね」
「かけっこを仕事にできるのは、本当に幸せなこと」
浮き上がった課題をクリアし、満足したと思ったら、また新たな課題が出てくる陸上という競技。「いつまでも課題が出てくるのはかけっこだけじゃなくて、生きていく中でも変わらないんだと思います」と語った。愛娘の果緒ちゃんは小学1年生になり、おぼろげながら将来はどうなりたいか、目標ができてきたという。これまで文字通り1つ1つのハードルを跳び越える姿を見せながら、寺田は人生に立ちはだかる課題への対処法を教えてきた。「自分なりの『やりたい』が出てきた時に、こうしなくちゃいけないんだ、ということを感じてもらえたらいいと思います」。目に映るものを吸収しながら成長を続けていく娘のためにも、まだまだハードルと向き合っていくつもりだ。
もちろん、「かけっこ」は自分にとって最大の楽しみでもある。「大人になってかけっこを真剣に仕事としてできるのは、本当に幸せなことだと思います」。迷うことなく言い切った母の瞳は、まるで子どものように輝いていた。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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