中村輪夢はBMXの魅力を知るための「扉」 けがを言い訳にせず、新技にも挑戦
19歳中村輪夢の東京五輪はメダルに届かず5位に終わったが、彼のおかげでBMXという競技を初めて見た人も多いはずだ 【Getty Images】
中村は、この日のために2つの新しい技を用意してきた。1つは、バックフリップでハンドルを何度も回転させる複雑な技。1本目で挑戦したが、着地で足を着いてしまうミスが出て流れに乗れなかった。ミスの後も自分のランを見てくれるファンのために技を続けて見せたが、72.20点で6位。逆転をかけた2本目は新技を含めた滑走で得点を伸ばしたが、メダル争いのラインとなる90点台には乗せられなかった。1分間の滑走時間が終わると、中村は手を上げて応援に応えたが、そのまま手を合わせて謝罪。名残り惜しそうに自身の滑走の映像を眺めて、パークを後にした。ギラギラとした強い日差しが降り注ぐ有明アーバンパーク、19歳が挑んだ五輪初代王者への挑戦が、終わった。
悔しさにじませるも、再び前を向く
中村は1分間の滑走時間が終わると、手を上げて声援に応えた後、そのまま手を合わせて謝罪 【写真は共同】
五輪という大舞台に採用されたことで、自分が取り組んでいる競技が注目にさらされる。それは、自分自身のパフォーマンスや、BMXという競技を広く知ってもらう機会になる。それが分かっていたから、新技を成功させられなかったことや、メダルを勝ち取れなかったことが悔しい。中村は「ここで結果を残せば、もっともっと注目してもらえたと思うんですけど。でも、また、僕が結果を残して有名にしていけたらいいなと思います」と前を向いた。確かに中村がメダルを獲得していれば、より多くのメディアにBMXという競技が露出することが予想される。しかし、東京五輪という舞台に有力選手として登場し、足を負傷した中でもその日のために誰にも見せていない新技を用意して挑んだことで、少なくないスポーツファンが中村という存在を通して、この競技の面白さを知ったことだろう。
五輪はBMXを盛り上げるスタート地点
男子BMXフリースタイル・パーク決勝 2位のデルス=有明アーバンスポーツパーク 【共同】
五輪で採用が進むアーバン(都市型)系の新種目は、伝統的で歴史のある競技とは異なる背景から成り立っており、持っている雰囲気が大きく異なる。コンパクトな会場には、互いの技を競い合うというよりは、見せ合うという雰囲気が漂う。緊迫感はあるが、ギスギスとした悲愴感はない。選手が順位を競う「競技」ではあるが、同時に「ショー」でもある。選手も関係者も、互いに盛り上げて、選手が見せたパフォーマンスや、そこに至る挑戦を称えあう。中村という選手の挑戦を通して、そうした新しい競技の文化を垣間見た方も多いのではないだろうか。
BMXは少しずつ競技者が増えているが、部活動のようなインフラが整っているわけでもなければ、指導者の数も足りない。日本代表の出口智嗣コーチは、爆発的な競技人口の増加は、まだ見込めないとの見解を示したが、こうも言った。
「いつも一緒に乗るライダーが五輪という舞台に立っているのは新しい姿ではあるものの、仲良くやっているのは普段と変わらない。BMXライダーたちが楽しんでいる空間を作っているのは印象的。新しくファンが増えていて、この競技をファンの方が盛り上げていっている。今回は無観客でしたけど、今後の全日本選手権やジャパンカップに来てもらって、彼らと一緒にBMXを盛り上げてもらえるっていう、そこのスタート地点に五輪はなっていると思うので、すごく楽しみ」
五輪は「4年に一度、競技人生の集大成をかけて臨む大一番」というイメージが強いが、BMXにとっての五輪は、あくまでも大きな大会の一つという位置付け。中村は2024年パリ五輪について聞かれると「僕が出られれば、この借りを返したいですね」と話したが、その前に次の目標を聞かれると、エクストリーム系スポーツイベントのXゲームズやFISEを挙げた。4年に一度という重苦しい雰囲気とは異なり、ショー的要素の強い競技は、五輪に新しい印象を生み出す可能性も持っている。東京五輪をきっかけに、中村という選手やBMXという競技、アーバンスポーツ独特の文化を新たに知った人たちがいるということが、今後、中村が活躍した際に、さらに先へ進んで競技を知る仲間と成り得る。中村輪夢は、日本のスポーツファンにとってBMXという競技の魅力を知るための扉だ。もっと先の景色を、これからも見せてくれるに違いない。
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