ソフトボールの魅力を見せつけたワンプレー “最強の仲間”米国と再び五輪復帰を目指す

平野貴也

上野を中心に13年越しの連覇を果たしたソフトボール日本代表。今大会は投打に加えて守備でも“魅せて”くれた 【写真は共同】

 上野由岐子(ビックカメラ高崎)の力投で試合を締めくくり、金メダルを獲得した。その姿は、13年前の北京五輪に重なるところもある。しかし、今回は上野の力投のみで勝った大会ではなかった。決勝戦、一度は降板した上野が最終回に再登板した裏側には、あのファインプレーがあった。13年ぶりに五輪種目に復帰したソフトボールの決勝戦は、前回五輪採用時の2008年北京五輪決勝と同じ、日本対米国の顔合わせで27日、横浜スタジアムで行われた。世界一を決める緊迫感、その中で生まれるビッグプレーは、美しく、強烈なインパクトを放ち、強く記憶に残る。ソフトボールという競技の魅力を見せつけるワンプレーを振り返りたい。

三重の守りによって生まれたスーパープレー

6回裏に飛び出したスーパープレー。1死一、二塁のピンチで米国の鋭い打球を山本が手首に当て、そのボールを渥美がキャッチし、すぐさまセカンドに送球してダブルプレー 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本が2点リードで迎えた6回裏の守備。この回からリリーフで登板した若手左腕の後藤希友(トヨタ自動車)が1死一、二塁のピンチを迎えた。米国の打者は、3番のアマンダ・チデスター。安打を許せば、点差を縮められてなお、打線が主砲につながるピンチだった。カウント2-2から高めに投げた球を痛打されたが、サードの山本優(ビックカメラ高崎)が打球に反応。手首に当たって後方へ球が飛び、外野に抜けると思われた刹那、ショートの渥美万奈(トヨタ自動車)が鋭い反応でボールをグラブに収めた。ライナーキャッチで打者がアウト。渥美はすかさずセカンドに送球し、戻り切れなかった二塁ランナーもアウトでダブルプレー。大ピンチを救うスーパープレーに拍手が沸いた。

 試合後、渥美は次のようにプレーを振り返った。
「あの場面は(打者の)チデスターの調子が本当に良くて、後藤のボールも(鋭いスイングで三塁側に)引っ張れると思ったので、あらかじめ三遊間に寄った状態で守っていて、優さんが体に当ててでも(後ろに抜けるのを)止めようとしてくれて、それが自分のところにたまたま飛んできた。そこは、優さんの気持ちでもあるし、みんなで抑えようという気持ちが出たのかなと思います」

 三重の守りによって生まれたスーパープレーだった。チームとしての打者対策で三遊間を狭めていたこと、サードの山本が強襲に反応したこと、そして渥美自身の鋭い反応と判断があった。いかに大事な場面かという認識も、奇跡的な連係がつながった一因と言える。

 米国とは前日も対戦。共に予選ラウンド2位以上での決勝戦進出が決まった状態での前哨戦。互いにメンバーを変えた戦いだったが、日本は初回に先制。しかし、終盤の6、7回に失点して勢いをそがれ、リードを守り切れずに敗れていた。その反省が生きた場面でもあった。

 渥美は「あそこを抜けてしまったら、多分、同点にされて、勢いがそのまま米国になってしまったら昨日(予選ラウンドの1、2位決定戦で敗れた米国戦)みたいに逆転されていたと思うので、今日の一番のポイントだったかなと思います」と重要な場面で集中を高めていたことを明かした。

28年ロス五輪での復帰を目指して

7回表、藤田が放ったホームラン性の当たりを米国のリードがフェンス越しにキャッチ。米国のプレーもまた見事だった 【Getty Images】

 この場面がどれほど、その後の危険を予感させるものだったかは、宇津木麗華ヘッドコーチの判断が物語っている。この試合、両チームの先発は、13年前と同じだった。日本は、北京五輪で準決勝、決勝進出チーム決定戦、決勝戦と3試合を1人で投げ切る「上野の413球」が伝説となっているベテランエースの上野。米国の先発は、長身左腕のオスターマン。日本は、4回表に渥美の内野安打で先制し、5回表には、米国の三番手投手となったモニカ・アボットから藤田倭(ビックカメラ高崎)がライト前安打を放って追加点を獲得。2-0のリードを守る終盤に入ったところで上野に代えて二番手の後藤を送り出したのが、冒頭の場面だった。試合後、宇津木監督は「なぜ後藤を代えたか。サードのライナーの時、やっぱり米国が(後藤の球に)慣れているんじゃないかという判断もあった」と渥美の好守に救われた場面を見て、最終回のマウンドを再度、上野に託すことを決断したことを明かした。緊迫した場面での、価値ある好守だった。

 上野自身、試合後に北京五輪との比較を聞かれると「北京のときは、とにかく投げることが必死でしたし、何球でも投げれるという思いで投げていた。今は、どちらかというと、みんなに助けてもらいながら投げている感覚」と話していたが、前回の北京五輪の決勝に比べると、投打の活躍に守備の魅力も追加して見ることができる試合だったのではないだろうか。

 ソフトボールは、今大会が13年ぶりの五輪採用。しかし、次回の2024年パリ五輪では採用されておらず、2028年ロサンゼルス五輪での復帰を目指している。またしばらく、大きなアピールの機会を失うことになる。そんな状況下、投打の活躍だけでなく、守備の素晴らしさを見せつけての勝利で、日本の多くの視聴者にソフトボールという競技の魅力を印象付けられたことは意義深い。

 また、この試合では、好敵手の米国もファインプレーを連発。2回表には、ライトのチデスターが市口侑果(ビックカメラ高崎)の強打を外野フェンスにぶつかりながらキャッチ。渥美が6回に好守を見せた後の7回表には、藤田が放ったホームラン性の当たりを、レフトのジャネット・リードがフェンス越しにキャッチした。このプレーは、まさに「敵ながらあっぱれ」といったところだった。

 世界一を争うライバルは、ソフトボールという競技の魅力を伝えていくという意味では最強の仲間でもある。次は、いつか。再び五輪の金メダルを争う頂上決戦を迎える日に向かって、東京五輪後もソフトボール界は、その存在をアピールし続けていく。
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著者プロフィール

平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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