男子バスケ、強豪スペイン相手に大健闘 守備と3点シュートが呼び込んだ追い上げ

及川卓磨

4本の3点シュートを含め、この試合最多タイの20得点を挙げた八村塁の奮闘もあって、日本は強豪スペインに善戦。スロベニアとの次戦に「1勝」を期待したい 【Getty Images】

 45年ぶりのオリンピック出場となった男子バスケ。予選リーグ(C組)初戦は、2019年のワールドカップ王者スペインを相手に大健闘するも、最終的には77-88(前半28-48)のスコアで敗れた。それでも後半に追い上げ、「史上最高の日本代表」の片りんは確かに見せている。世界ランク2位の強豪と好勝負を演じられた理由を、NBA日本公式サイト『NBA Japan』の及川卓磨編集長に解説してもらった。

防ぐべき失点を防ぎきれなかった

司令塔ルビオに導かれ、ペイントエリアを支配したスペインだが、日本も後半、馬場がルビオに付くことで、相手の速い攻撃を止めることに成功している 【Getty Images】

 男子バスケットボールの日本代表が、強豪スペイン代表を相手に大健闘と言える戦いを演じた。

 最終スコアは77-88と二桁点差をつけられての敗戦となったが、試合序盤は互角に渡り合い、引き離されても懸命に食らいつき、終盤には一桁点差まで盛り返すなど、“ホーム”の意地は見せてくれた。1976年のモントリオール五輪以来、45年ぶりの出場となった今大会の目標である「1勝」こそおあずけとなったものの、その可能性を十分に感じさせる戦いぶりだった。

 世界ランキング2位のスペインを相手に大健闘を演じることができたポイントはいくつかあるが、ここでは、(1)ペイントエリア得点、(2)ディフェンス、(3)3ポイントショットの3つに絞ってこの試合を分析したい。

 平均身長202センチのスペインに対し、同196センチと高さで劣る日本の戦い方としては、ペイントエリア(ゴール下付近の長方形の区域)を支配されないことが大前提だった。しかし、そのペイントエリアでの得点は日本の24に対して、スペインは2倍の48。日本が防ぐべき失点を防ぎきれなかったことは明らかだ。

 ペイントエリアを支配された要因のひとつは、やはりスペインのインサイドの主軸として長年活躍するマルク&パウのガソル兄弟の存在があった。先発センターの弟マルクは36歳、控えセンターの兄パウは41歳といずれも大ベテランと呼べる年齢だが、いまなお健在。マルクは12得点、パウは9得点で、圧倒的な攻撃力を示したわけではないものの、それでも2人で6リバウンド、5アシスト、2ブロックショットを記録するなど、チームを下支えする貢献を見せていた。

 また、13得点に加えて、オフェンシブリバウンド4本を含む9リバウンドを奪取したフォワードのビクトル・クラベールや、得点こそ1点のみながらオフェンシブリバウンド2本を含む6リバウンド、1ブロックショットを記録したセンターのウスマン・ガルバらの活躍も目立った。ちなみに19歳のガルバは、今週29日(日本時間30日)に開かれるNBAドラフトの指名候補としても注目を集める選手だ。

 そして、彼らインサイドの選手をポイントガードとしてコントロールしたのが、リッキー・ルビオである。優勝した2019年のFIBAワールドカップで大会MVPに輝いた司令塔は、30歳という円熟期を迎え、周囲を巧みに操る魔術師のような選手へと成長を遂げている。

 前後半それぞれ10分強、合計21分44秒出場したルビオがコートに立っていた時間帯のチームの得失点差は実に+27。出場選手中最高の数字だった。13本中8本の正確性でシュートを決めて、八村塁と並ぶ最多タイの20得点を挙げたほか、アシストも最多の9本をマークした。

 ルビオのプレーのなかでも特に目を引いたのが、アーリーオフェンス時のプレーメイクだ。日本のシュートミスのリバウンドをスペインが拾い、ルビオがボールを相手陣内に運ぶと、後方から遅れて走り込んでくるビッグマンに正確無比のアシストパスを送り、得点を演出する。そんな場面が前後半ともに何度も見られた。当然、これらの得点もスペインのペイントエリア得点に加算されている。

 3メートル5センチの高さにあるゴールリングにボールを通して得点する競技であるバスケットボールにおいて、ゴール近辺からのシュートは最も確実な得点方法であり、そうした得点を導き出すルビオのような司令塔の存在は、チームにとって非常に頼もしい。この日のルビオは、スペイン・オフェンスの真の支配者だった。

第3Qのスコアは28-21と上回る

3点シュートの成功率は、スペインの28%を上回る41%を記録した 【Getty Images】

 スペイン勝利のポイントがペイントエリア得点だとすれば、第2、第3のポイントとして挙げたディフェンスと3点シュートは、日本が世界の強豪を相手に健闘できた要因だ。

 日本のディフェンス、特に後半のそれは、最大24あった点差を試合終盤に9まで縮める一番の要因となった。

 第2クォーター(Q)途中、26-26の同点とした直後からスペインに連続19得点を奪われた時間帯は、日本が陣形を整える前に、素早いランとパス回しで守備を崩されていた。

 だが、後半は馬場雄大がルビオのマークに付き、相手の速いペースの攻撃を止めることに成功。スペインの得点が伸び悩み始めると同時に、日本は速攻やドライブからのパスなど、良い形でシュートを打つ機会が増え、一進一退の展開に持ち込んでいる。

 そんな流れで迎えた第3Q終盤には、今季BリーグMVPの金丸晃輔が、投入直後に2本連続で3点シュートを決めて勢いをもたらす。続いて渡邊雄太も、相手のインバウンドパスに素早く反応してボールを奪い、豪快にドライビングダンク。さらに、スペインの巧みなパス回しに対して、シェーファーアヴィ幸樹が脚を使ったディフェンスでシュートを止め、そのまま攻撃に転じて得点に絡むエネルギッシュなプレーを見せる。堅いディフェンスから良い流れを生み出した日本は、第3Qのスコアを28-21とし、相手を上回った。

 第3のポイントに挙げた3点シュートは、前述した金丸の2本のほか、第3Q序盤のギャビン・エドワーズの2本、八村の11本中4本、渡邊の5本中2本など、日本はチーム全体で27本中11本を沈めた。成功率41%は優秀な数字で、スペインの28%(28本中8本)を大きく上回っている。3点シュートの得意な選手が多くいるスペインを相手に、その得点で33-24と上回ったのは、ペイントエリアを防げなかった借りをある程度返す一因となった。

 試合時間残り2分を切って、ルビオの巧みなステップバックジャンパーで16点差(69-85)とされた直後、日本は渡邊と八村の3点シュートで再び11点差まで迫った。残り1分を切ってからも、馬場と渡邊が必死の守備でボールを奪って速攻に転じ、馬場が点差を一桁に戻すリバースレイアップを決めている。逆転には至らなかったものの、守備と3点シュートが呼び込んだ終盤の見事な追い上げだった。

 確かに、前半に付けられた20点差は最後まで重くのしかかる形にはなった。だが後半、守備で相手のリズムを止め、3点シュートを効率よく決めることで、勝利の可能性を感じられるところまで持っていけたのは、自信につながるはずだ。

 残る予選2試合も日本より上背のあるスロベニアとアルゼンチンが相手。スペイン戦の反省点は、同様に勝負の行方を左右するカギになるだろう。

 まずは次戦、アルゼンチンとの初戦で大量48得点をたたき出したルカ・ドンチッチを擁するスロベニアと対戦する。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

1977年、千葉県生まれ、茨城県育ち。日本大学在学中の1999年にバスケットボール専門誌『ダンクシュート』編集部へ 。2006年から7年間、同誌の副編集長を務め、2013年に退職後、NBA日本公式サイト『NBA Japan』の編集長に就任 。現在は『スポーティングニュース』のシニアエディターとして『NBA Japan』だけでなくバスケットボール全般を担当。

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