ニューヒロイン山内梓“風にも負けず”躍進 アーチェリー女子団体が史上初のシード獲得

平野貴也

自分のペースを貫き、風が吹く中でも次々と矢を放つ

女子ランキングラウンド、的を狙う山内梓=夢の島公園アーチェリー場 【共同】

 ニューヒロインが、厄介な風を物ともせずに的を射止めた。23日、東京五輪の競技開始3日目に行われたアーチェリーのランキングラウンドで、日本女子の新星、22歳の山内梓(近大職)が活躍を見せた。6本×12回、72射(720点満点)における国際大会での自己ベストを8点更新する665点をマークし、7位に入った。上位に入ったことで、個人戦は下位選手と当たる組み合わせとなり、さらなる躍進が見込まれる。さらに、日本勢トップとなったため、翌24日の混合団体に男子の武藤弘樹(トヨタ自動車)と組んで出場することが決定。また、25日の女子団体は、早川漣(デンソーソリューション)、中村美樹(ハードオフ)との3者合計が1957点で4位に入ったため、初のシードを獲得。準々決勝からのスタートとなり、メダル獲得に向けて好発進となった。山内は、3月の日本代表選考会は3位で最後のイスに滑り込んだ若手。初の大舞台でチームを引っ張る大躍進を見せた。

 午前9時開始とはいえ、江東区の気温は29度でやはり暑い。時折、心地よい風が吹き込んだが、選手にとってはこれが厄介だった。70メートル先にある、直径122センチの的を狙うが、風が吹けば、矢が流れる。2012年ロンドン五輪で女子団体の銀メダル獲得に貢献したベテランエースの早川でも「6本を打つ間でもコロコロ変わっていた」と言うほど定まらない風だったが、山内は迷わずに自分のペースを貫き、次々と矢を放った。6本の矢を4分間のうちに打たねばならない。それを12回行う。風が気になると打ち切れず、4分の制限時間をいっぱいに使う選手もいる。そんな中、山内は毎回のように1分以上を残して6本を打ち終えた。この日、最高の4位に入った24射を終えた際には、90秒も残すほどのハイペースだった。

 山内は「途中で風の向きが変わったり、強さが変わったりして難しいところはあったのですが、そこは風に意識を取られ過ぎず、自分に集中して心掛けました」と試合を振り返った。風向きや強さが一定のときは、風の影響を考慮しながら打つ。そうすることで、風が止むのを待ち過ぎたり、それによって制限時間のプレッシャーを受けることを回避。持ち味であるテンポの良さを存分に発揮した。前日の練習までは少し不安もあったというが、所属先で指導を受けている金清泰コーチに練習の動画を送り、アドバイスをもらっていた。「言われたことはたくさんあったけど、一番は、流れよく。流れが止まって打っていたので。あとは、最後に、押し手を残すこと」と山内。試合中は、点数を気にせず、指摘されたポイントだけに集中したという。

 初の五輪、難しい風といった課題を乗り越えて自己ベスト。最年少がチームを引っ張った。ベテランエースの早川も「今日は、お姉さんたちが足を引っ張っちゃったので申し訳ないですけど(笑)、一番若い子が引っ張ってくれたので、日本のアーチェリー界にとって嬉しいことと思う」と山内の躍進を喜んだ。

翌24日の混合団体にも出場。今大会日本勢初のメダル獲得なるか

女子ランキングラウンドの競技前、氷と小型扇風機で体を冷やす山内梓=夢の島公園アーチェリー場 【共同】

 この日の日本女子代表は、山内が7位でトップ。2番手がベテランの早川で、653点の16位。早川はずっと痛めている右肩の状態が悪化し、弓の張りを落とし、矢も軽くして負担を軽減したが、その影響で風に苦しんだ。3番手は639点で31位となった中村。競技が終わってチームで集まると、思わず悔し涙を流した。チームを引っ張る立場を意識すると話していたが、プレッシャーで実力を発揮できなかった。両者の出来を考えると、団体シード獲得は、やはり山内の貢献度が大きい。

 山内の躍進は、今後の決勝3種目(混合団体、女子団体、女子個人)の期待を大きく膨らませるものだ。「自分の力が100パーセント……まではいかないですけど、自分の力がいつも通り出せたら、良い結果はついてくるとは思っていたので、ホッとしている」と話すあたり、自信と不安が半々と言いながらも、胸の内にはやってやるという強い気持ちを秘めていたように感じた。

 翌24日に男子の武藤とペアを組んで臨む混合団体に向けては「出るからにはメダルを獲得できるように頑張りたい」と意欲を示した。試合の実施時間を考えると、日本勢第1号のメダリストとなる可能性がある。続けて26日に女子団体が行われる。「シードに入ったのが初めてということだったので、そこは自信にして、団体戦まで気持ちをつないでメダル獲得に向けて頑張りたい」と笑顔を見せた。同日夜には開会式が行われ、いよいよ本格的に競技が開始する中、楽しみなニューヒロインが誕生した。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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