射撃・中山由起枝は5度目の五輪出場 集大成となる舞台と、その先に目指すもの

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谷亮子、三宅宏実と肩を並べる大記録

5度目の五輪出場となる中山由起枝。夏季五輪に5度出場した女性アスリートは、中山を含めて3人しかいない 【写真提供:中山由起枝】

 日本において、これまで夏季五輪に5大会出場した女子アスリートは、2000年のシドニー、04年のアテネで金メダルを獲得した柔道・谷亮子ただ1人だった。だが、まもなく開幕を迎える東京五輪で、2人の選手がそこに肩を並べることになる。1人は、12年ロンドン大会銀メダリストのウエイトリフティング・三宅宏実(いちご)。そしてもう1人が、女子クレー射撃代表の中山由起枝(日立建機)だ。

 クレー射撃とは、空中に放たれる直径11センチのクレーと呼ばれる陶器を散弾銃で撃ち落とし、その合計数を競う競技のことである。そもそも銃と携わる機会が極端に少ない日本人にとって、なかなかイメージがつきづらい人も多いのではないだろうか。42歳となった現在も最前線で活躍し、偉大な先人たちに肩を並べようとしている中山は、どのようにして射撃という競技にのめりこんでいったのか。東京という1つの集大成を、どんな形で迎えようとしているのか。本人の胸のうちに迫った(取材は6月16日にオンラインで実施)。
 

娘の成長と共にあった五輪の舞台

 中山がクレー射撃というスポーツに出会ったのは1996年の夏だった。当時は埼玉栄高校ソフトボール部の捕手としてインターハイで活躍。「クレー射撃をやってみないか、五輪をめざしてみないか」と日立建機からスカウトされたのをきっかけに挑戦が始まった。1997年に入社後、約1年にわたるイタリアでの武者修行を経て、2000年のシドニー五輪に出場。その後、1人娘の芽生さんの出産と離婚を経て、中山はシングルマザーとして娘を育てながら、競技と向き合い続けてきた。

「子育てをしながら、自分の生活を成り立たせるためにもクレー射撃という競技に打ち込んできました。これが私の生活の基盤なので、仕事としてやるものでもありますし、競技自体が好きだ、という気持ちが一致した部分もありますね。それに加えて、子どもに不要な心配をさせたくないという危機感も持ち合わせていました」

 母と娘の成長は、常に五輪の舞台と共にあった。競技復帰の直後だった04年のアテネへの出場は叶わなかったものの、その後はトラップ競技で4位入賞した08年北京を皮切りに、4大会連続出場中だ。「娘が幼いころは『さみしいから(競技を)やめてほしい』という気持ちもあったみたい」と振り返るが、大きくなるにつれて母の晴れ舞台を楽しみにするようになったという。その間に中山は塾の送迎や炊事洗濯など、全ての家事をこなしながら競技を続けてきた。

 今年20歳を迎える芽生さんは現在、1人暮らしをしながら大学に通っており、母娘は別々の生活を送っている。それでも「毎日LINEやテレビ電話で連絡を取っています」と、日々の些細(ささい)なやり取りが心の支えになっているようだ。互いに支え合いながら紡いできた「私たちにしかないストーリー」は、もうすぐ東京五輪という大きな節目を迎えようとしている。
 

19年のアジア大陸選手権では、改めて百戦錬磨の実力を証明

 トラップ競技の場合、国際ルールでは上位6人が進出するファイナル以降、クレー1枚につき1発の射撃しか許されない。1度のミスショットが致命傷となるため、まさに神経をすり減らしながら戦うことになる。中山の場合は競技で生計を立てており、自らの成績が家族の生活を左右する。女手1つで我が子を育てなければいけないうえに、わずかな風の読み違いさえ敗北に直結するようなプレッシャーにも、20年以上にわたって勝ち続けてきた。「もう1回やれと言われてもできないと思います」と本人は苦笑するが、その重圧は容易には想像がつかないほどだろう。

 19年にドーハで行われたアジア大陸選手権では予選で苦戦を強いられたものの、延長戦となったシュートオフ(一発勝負で、失中した時点で退場となるルール)を勝ち抜いてファイナルに進出。銅メダルに輝き、東京五輪の出場枠を自らの手で獲得した。「出場枠を獲得しないといけない試合で力を出せたのは、自分にとって自信になりました。(自分のことが)本物だと思えました」と、改めて実力を証明する機会となった。

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