順大・三浦龍司が衝撃的な日本新 3000m障害に巻き起こる“活性化現象”

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転倒のアクシデントをものともせず……

三浦は転倒のアクシデントをものともせず、今季2度目となる日本新をたたき出した 【北川外志廣】

 「衝撃的な」という言葉がふさわしい走りだった。

 順天堂大2年の三浦龍司は男子3000メートル障害で、5月9日の五輪テスト大会で8分17分46秒の日本新記録をマーク。18年ぶりに国内レコードを更新して東京五輪の標準参加記録(8分22秒00)を突破し、3位以内に入れば即内定が決まる立場で日本選手権を迎えていた。まだ19歳の大学2年生が、順当に五輪行きを決めるのか。注目を一身に集める中、大阪・ヤンマースタジアム長居で見せたパフォーマンスは、その期待を大きく上回るものだった。

 序盤から先頭につけて集団をけん引すると、1000メートルを過ぎたところで「ここで行かないと難しい展開になると思ったので、リズムを変えてやりやすい展開にしたかった」とペースアップ。中盤で間延びすることなくレースを展開し、テスト大会の時よりも2秒早い5分37秒で2000メートルを通過した。山口浩勢(愛三工業)、青木涼真(Honda)がそれに続き、3つ巴の形で終盤へ。逃げ切りを図る三浦だったが、ここで“事件”は起こった。

6周目の水濠で転倒した三浦だったが、それが合図だったかのようにロングスパートをかけた 【写真は共同】

 6周目の水濠を越えたところで「自分が思ったより早かったのか、設置のタイミングがずれてしまった」と、まさかの転倒。3番手に後退した。しかし、19歳の怪物の真骨頂はここからだった。

「こけてることにかまっていられないというか、すぐ立ち上がらないといけないという気持ちでした」と、何事もなかったかのようにレースへ復帰。悪影響を及ぼすどころか、それが合図だったかのようにロングスパートをかけた。直後のホームストレートであっという間に2人を置き去りにし、最後の1周は独走。自身の持つ記録を1秒47上回る8分15分99で日本記録を塗り替え、初優勝で内定をもぎ取った。

 2位の山口が8分19秒96、3位の青木も8分20秒70で標準参加記録を突破し、代表に決定。五輪に挑む3人が、最高の形で決まった。ただ、代表の座を勝ち取った青木も「(三浦が転倒し)これでトントンかと思ったら、かなり差をつけられてしまった。ショックは大きかったです」と脱帽。本人は「たらればの話なので、こけなかったらとは考えません」と意に介さなかったが、アクシデントがなければどれほどのタイムが出ていたのか。底知れないすごみを見せつけた1日となった。

若手の台頭により、種目全体がレベルアップ

(左から)三浦、山口、青木の3人がこの大会で内定を決めた 【北川外志廣】

 2000年以降の大会において、男子3000メートル障害で五輪にたどり着いたのは、2004年のアテネ、08年の北京に出場した前日本記録保持者の岩水嘉孝と、三浦と同じく順天堂大2年時に16年リオデジャネイロに出場した塩尻和也(現・富士通)の2人。12年のロンドンでは出場ゼロに終わっていた。ここへきて、なぜ3人の内定者を出すことができたのか。今回のメンバーで最年長(29歳)の山口は、こう見解を述べてくれた。

「靴の進化もあると思いますが、世代トップクラスの若い選手たちが取り組むようになってきました。僕が高校生の頃は1500メートルや5000メートルで漏れた人が3障(3000メートル障害)をやっているという感覚だったんですが、それによって競技レベルが上がっているんだと思います」

 塩尻がリオ五輪に出場して以降、東海大の「黄金世代」として箱根駅伝の初優勝メンバーとなった阪口竜平(現・SGホールディングス)や、同じく箱根駅伝の5区で区間賞の実績を持つ青木らが台頭。駅伝やトラック種目でも活躍を見せる若手が力をつけたことで、競技レベルが大きく向上した。

 その流れに、三浦の登場が拍車をかけた。洛南高でもU-18の日本記録を打ち立て、順天堂大入学後も破竹の勢いで新たな記録を作り続ける若者に触発されるかのように、周りの選手たちも好記録を連発。山口、青木ともに昨シーズンから自己ベストの更新を経て、大一番での記録突破につなげてみせた。その青木は、レース後にこう話している。

「三浦君という若くて大きな才能が入ってきて、一気に(全体が)活性化しました。僕もその流れに乗れたのは良かったです。でも、これからは自分が引っ張っていく存在にならないといけない」

 今後も三浦を筆頭に、追い付け追い越せの精神で好循環が進んでいくだろう。3障が新たなサイクルに到達したのは間違いない。

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