湘南が日本初のトークンマッチデーを開催 サポーターと作るからこそ生まれる本質

池田タツ

ピッチに立ち、社長と話し、PK対決まで

大型ビジョンに名前が掲載されるうえ、スタジアムナビゲーターにメッセージを読んでもらえるのは、サポーターにとって至福の体験だろう 【(C)SHONAN BELLMARE】

 リハーサルのために本番15分前にピッチに通された目黒さんの前には、なんの予告もなく水谷尚人社長が現れた。

「いきなりで驚きました(笑)。2、3分お話をさせていただきました。湘南さんはアットホームなイメージがありましたが、まさかここまでとは。普段では絶対に経験できないことを連続して経験できましたね」

 湘南らしい歓迎に驚くとともに感激していた。

 ハーフタイムの大型ビジョンにメッセージを出したのは谷純一さんだ。「自分の名前が大型ビジョンに出るなんてめったにないから、これはチャンスだと思って」と購入理由を明かす。自身のフルネームが大型ビジョンに出たときは「少し恥ずかしかった」という。

『湘南スタイルを貫いて、J1リーグを制覇してほしい』

 いつか必ず、という期待をメッセージに込めた谷さんは「スタジアムナビゲーターの(三村)ロンドさんが読み上げてくれたことがうれしかった。付加価値がつきました」と喜んだ。また、谷さんは試合前に行われるPK対決にも抽選が当たって参加した。

「PK対決は楽しかったですね〜。サポーターの方も見てくれてうれしかったんですが、プレッシャーも感じました。自分はサッカーをやっていますが、自分の試合でPKを蹴るより緊張しました(笑)。4,000人ぐらいが目に入ると全然違いますね。選手たちはすごいプレッシャーの中でやっているんだ、っていうことも分かりました」

“勝つため”のアイデアが生まれた

対戦相手である川崎Fを意識したメッセージが書かれた巨大横断幕。ファン・サポーターの「勝ってほしい」という強い思いが込められている 【(C)SHONAN BELLMARE】

 各イベントに参加したお三方とも「次回もまたやりたい」と口をそろえた。

 このように好評のうちにトークンのマッチデーを終えることができたのは、クラブ営業部の加藤さんたちの尽力あってのことだ。今回の取り組みを終えてすぐ、次なるトークンを使った新たな企画に意欲が湧いている。

「今回トークンを買っていない方でもスタジアムのバナーを写真に撮ってSNSであげてくれたり、喜んでくれました。次回はさらにトークン保有者じゃない方でも楽しめる企画を実施したいです。その企画をトークン保有者と一緒に考えられるのが、トークンの強みですね」(加藤氏)

 今回実施されたさまざまな企画やイベントの中で最も目を引いたのが、選手たちの座るベンチに掲げられた『青よりも衝撃的な緑を。』の巨大な横断幕だ。

 もしこの応援メッセージがクラブスタッフの案なら、相手もあるという理由で、どこかの段階でNGが出ていたかもしれない。

 しかし、サポーターから出てきた案だからこそ、クラブも採用に踏み切れたところはあっただろう。サポーターならではの力強いメッセージを表現できたのは、トークンがもたらした功績と言えるかもしれない。

 そして、それはこの日ピッチ上で選手たちが表現した力強い試合内容に大きく影響していたのではないか。引き分けに終わったものの、今季無敗の王者・川崎Fをとことん追い詰めた。

 こうしたイベントを行うと、イベントをやること自体が目的になりがちだ。昨今のJリーグの各クラブが実施するイベントは、チームの勝利を後押しするためのものだということが忘れられがちである。面白ければいい、盛り上がればいい、というのはサッカーの本質なのだろうかと疑問を持つことが多々ある。

 しかし今回は、サポーターが企画や案を出すことで、最も重要視すべき本質の部分――“勝つため”のアイデアが生まれた。選手たちに力を与えるメッセージを考えさせたら、サポーターに勝るものはない。

 やれイベントだ、やれ新しい収益だと、トークンで舞い上がってしまうのは本末転倒である。トークンはあくまでクラブの成長と目の前の試合の勝利のために使われるべきである。それを見失ってはならない。

(企画構成/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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