2次予選を難なくクリアした日本代表だが…ミャンマー戦から最終予選を見据えてみる

宇都宮徹壱

軍事クーデターのさなかにあるミャンマー代表

日本とのアウェー戦に臨むミャンマー代表。軍事クーデターの影響で7カ月間、試合経験がない 【高須力】

「答えはシンプルだ」──ミャンマー代表のアントワーヌ・ヘイ監督は、日本とのワールドカップ(W杯)・アジア2次予選を翌日に控えた会見で、この言葉を二度使った。

「答えはシンプルだ。私の仕事は、ミャンマー代表の監督の仕事をすること。そして、明日はアジアのベストのチームと対戦することだ。私の仕事に政治的なコメントは含まれない。3試合に対してプロフェッショナルとして最善の準備をするだけだ。われわれはサッカーのことだけに集中するし、それしかできない」

「答えはシンプルだ。確かに何人かの選手が、個人的な理由で(代表)参加を辞退してきたが、政治的な理由はそれほど多くないと思う。海外にいて合流が難しい選手もいれば、チームとの契約やケガなどの問題で辞退することもある。代表チームのメンバー招集というものは、なかなか監督の思い通りにはならないものだ」

 周知のとおりミャンマーは、今年2月1日に軍事クーデターが発生。市民による抗議デモに対し、国軍は力による弾圧で応じており、多数の死傷者が出ている。W杯アジア予選では、政情不安の国との対戦は珍しくなく、過去にもイラクやアフガニスタン、シリアとの対戦が中立地で行われたこともあった。しかし今回の場合、アウェー戦の取材で訪れた国で、1年も経たずにクーデターが発生し、深刻な人権蹂躙(じゅうりん)が日常化している。これは極めてショッキングなケースであると言わざるを得ない。

 予選脱落のうわさもあったミャンマーが、チームを立て直して日本に来てくれたことについては、純粋にうれしく思う。けれども今回の招集では、実に半分近くの選手が拒否したとの報道があり、ヘイ監督もかなり苦労した様子。それでも、政治的な質問をさらりとかわすメディア対応に、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験が透けて見える。このドイツ人指導者は、これまでレソトやガンビア、リベリア、ルワンダなどの代表監督を歴任。アフリカ諸国の中でも、とりわけタフな現場が想像できるだけに、妙に納得してしまった。

「オール海外組」と「U-24との兼ね合い」という変則的要因

CBでコンビを組んだ板倉滉(右)と吉田麻也。ふたりはミャンマー戦後、U-24代表に合流する 【高須力】

 日本vs.ミャンマーの試合は、前節のモンゴル戦と同じく、千葉県のフクダ電子アリーナにて無観客で行われた。ところが試合前、バックスタンドの方角が何やら騒がしい。実はこの日、在日ミャンマー人を主体とする人々が、軍事政権に抗議するための集会を開いていたのである。ミャンマー語でのシュプレヒコールは、もちろん内容を理解することはできない。それでも彼らが、祖国の代表にエールを送るために集まっているわけではないことは、容易に理解できた。

 そんなミャンマーをホームに迎える日本代表。今回はベンチを含め、23名全員が欧州組という歴史的なラインナップとなった。これは、試合が行われた5月28日がFIFA(国際サッカー連盟)マッチデーではなかったことに起因する。今年3月に行われる予定だったホームでのミャンマー戦が、軍事クーデターの影響で延期になったため、日本は2次予選の残り3試合を19日間で消化しなければならない。その初戦となるミャンマー戦は、Jリーグの日程とバッティングするため、欧州組のみで戦うこととなったのである。

 もうひとつの変則的要因として、「U-24代表との兼ね合い」を理解しておく必要がある。このミャンマー戦の後、このチームはA代表とU-24代表のメンバー(オーバーエイジ枠3名を含む)に分かれ、それぞれに週末のJリーグを終えた国内組が合流。A代表は4試合(W杯2次予選2試合を含む)、そしてU-24代表は2試合を戦う。ライトなファンは、こうした複雑な状況を、まず把握する必要があるだろう。

 A代表と五輪代表を兼務する森保一監督にとり、目下一番のミッションはW杯アジア2次予選の突破。ここまで日本は全勝の無失点で、首位をひた走っている。このミャンマー戦に勝利すれば、2試合を残して最終予選進出に一番乗り。6月の試合は、東京五輪を見据えた選手の最終チェックをしながら、9月から始まるW杯最終予選に向けたテストを行うことができる。そうした背景もあって、この日の日本のスターティングイレブンは、実に手堅いものとなった。

 GK川島永嗣。DFは右から酒井宏樹、板倉滉、吉田麻也、長友佑都。中盤は底に遠藤航と守田英正、右に伊東純也、左に南野拓実、トップ下に鎌田大地。そして1トップに大迫勇也。川島は19年11月19日のベネズエラ戦以来、10試合ぶりのスタメン出場。コンディションが万全でない冨安健洋に代わり、板倉がセンターバックで起用された。酒井、吉田、遠藤のOA枠トリオは、点差が開いたらお役御免だろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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