「コロナと寄り添い、どう挑戦するか?」トライアスロン横浜に見た徹底した対策
どの競技でも実践される「バブル方式」の徹底
36カ国から180以上の選手が参加したトライアスロン横浜大会。徹底した「バブル方式」のもとで進められた 【写真は共同】
その中、五輪に向けた準備は進んでおり、代表選考に向けた大会などが毎週のように開催されている。どの大会でも重点的に実施されているのが、選手や関係者の行動先をホテルや競技場など、ごく一部のエリアに限定し、外部との接触を徹底的に遮断する、いわゆる「バブル方式」と呼ばれる手法の徹底だ。15日に行われたトライアスロンの世界シリーズ横浜大会には、36の国・地域から計186人が出場。16日に実施予定の一般選手が参加するエイジグループや、ボランティアなどを含めて約4000人規模という、コロナ禍以降では最大規模と言える大会となっている。
大勢の人が携わる中での感染を避けるため、会場となった山下公園への立ち入り禁止、海外選手の専用車での移動に加え、多い選手では最大7回のPCR検査実施を予定するといった対策を実施。女子の部を、日本勢4番手となる39位、2時間0分27秒でフィニッシュした佐藤優香(トーシンパートナーズ・NTT東日本・NTT西日本・チームケンズ)は「バブルの中で安心、安全に大会を戦うことができました。海外から来た選手もいる中で、安心して過ごせたのは大きかったと思います」と、実際に過ごした感想を口にした。
9日に行われた陸上の東京五輪テスト大会でも、今回と同様に海外から選手を招待。そのうえで、競技場と宿泊施設に選手の移動先を限定して日程を消化した。男子100メートルで優勝したジャスティン・ガトリン(アメリカ)は「実際の五輪でどの程度安全を守れるのか確認するために参加しましたが、結果的には成功だったと思います。確かに改善してほしい点はいくつかあるが、順応していけると思います」とコメント。こうした対策が、選手たちに安心感を与えているのは確かなようだ。
複雑な思い語るアスリート、それでも前を向いて進み続ける
過去五輪に3度出場した上田藍は、東京五輪について複雑な胸の内を明かした 【写真は共同】
「大きな壁に向かっていくという点では、私たちアスリートだけでなく、生活の面で全世界の方たちが大変な状況にあるということを、テレビを見たり周りの人たちの話を聞く中で感じています。その中で、アスリートとして『オリンピック』という言葉を口にすることに対して、とても慎重にならざるを得ないと思っています」
上田は2016年のリオデジャネイロ五輪を含め、3度の五輪出場を誇るこの種目の第一人者だ。しかし、2年前の19年には、レース中の事故による外傷性のくも膜下出血など、2度にわたる大けがを経験。それでも不屈の想いでリハビリを進め、すぐに表舞台へと戻ってきた。37歳の大ベテランにとって、仮に東京大会が中止となった場合、4年後のパリ五輪を目指す道は簡単な決意で選べるものではないだろう。慎重に言葉を選びながら話す心境には、重みがあった。
それでも、上田は現状に悲観するばかりではない。
「アスリートたちは、五輪での目標の達成に向けて生活を作っていくことで、周りの人たちに『一緒に頑張っていこう』とプラスのエネルギーを作り上げようとしています。この状況を(乗り越えるべき)壁と思うのではなく、コロナと寄り添いながらどうスポーツにチャレンジしていけるか。(感染を広げない)ルールにのっとりながら、大会を作って良かったと思ってもらえる取り組み方をしていきたい」
200回以上もトライアスロンに挑み続けた鉄人らしく、どんな状況でも前向きに捉え、進み続ける覚悟を見せた。
トライアスロンは横浜大会の後、五輪代表選考の見込みがあるリーズ大会(イギリス)が6月6日に控えている。男子は小田倉真(三井住友海上)が今大会1時間44分21秒で、優先して代表入りに指定される16位に入り、ほぼ切符を手中にした。残りの枠は18年アジア大会王者の古谷純平(三井住友海上)、今年4月に日本国籍を取得したニナー賢治(NTT東日本・NTT西日本)ら、力の拮抗(きっこう)した選手たちが争うことになりそうだ。女子は現在五輪レースで日本勢3番手の佐藤が、ランキングで30位以内に食い込むことができれば、代表3枠が見えてくる。3週間後に迫った最後の選考レースまで、負けられない戦いは続く。
五輪を開催すべきか、中止すべきなのか。この重大すぎる議論に、簡単に結論を出せるはずもない。ただ一つ言えるのは、未来を信じて最善の努力を続けるアスリートがいる、ということである。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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