廣瀬俊朗コラム「五郎丸選手の引退」

RUGGERS(ラガーズ)
チーム・協会

【廣瀬俊朗】

RUGGERSオリジナルコラム

筆:廣瀬俊朗
1981年生まれ、大阪府吹田市出身
元ラグビー日本代表キャプテン
株式会社HiRAKU 代表取締役
NPO法人 Doooooooo 理事
スクラム・ジャパン・プログラムアンバサダー
 
 五郎丸歩(ゴロー)選手がついに引退を迎えた。彼自身の最後の試合になる可能性があったので、4月下旬に実施されたトップリーグトーナメント戦のクボタとの試合を見に行ってきた。ゴローは前の試合で怪我をしていたようで、残念ながらメンバー外であった。クボタには立川理道(ハル)がいるので、両方の健闘を祈りながら試合を見ることにしていた。
 試合前に少しだけゴローと話をした。息子も一緒だったので、「ラグビーやっとるかー」というようなリラックスした雰囲気で話しかけてくれて、吹っ切れているのかなという印象を持った。試合は、ヤマハが序盤調子よかったが、途中からクボタが本領を発揮し、クボタの完勝となった。ゴローの引退が決まった。もう彼の戦う姿が見られないと思うと寂しかった。最後もう一度見たかった。でも、誰かが引退試合を用意してくれるかもしれないので、その時を信じて待つことにする。
 彼と最初に会ったのは、ゴローが大学生の時だったと思う。東芝のグラウンドに早稲田大学のメンバーとして練習に来ていた。その時はツンツンしていて、「愛想ない感じやな」という感じだったと思う。それから直接会うことはほぼなくて、試合で対決したときに挨拶するかどうかぐらいだったはずだ。ともにプレーするようになったのは、2012年にエディさんがジャパンのヘッドコーチになってからである。ゴローがバイスキャプテンで、僕がキャプテンになった。バックスリーダーということもあって、定期的に話をする機会が増えた。色々と話をしていると、良い意味でプライドがあって、熱くて、日本らしいチームを作っていきたいという想いをとても強く感じた。フルバックという最後尾にいるポジションでもあったので、後ろから皆をよく観察して、安心感をもたらしてくれていた。得意のキックを中心にプレーでも引っ張ってくれる頼もしい仲間だった。
 そんなゴローとさらに仲良くなったのは、ハルのお陰だったと思う。ハルと僕は、一緒にiPadを買いに行ってから仲良くなった。ハルと僕は8歳違い。かわいい弟のような存在であった。そこに、何がキッカケだったか忘れたが、ゴローも入ってきた。ゴローは僕の4つ下。ちょうど間にうまく収まった。それから、移動の時はいつも一緒に過ごした。カフェに行ったり、たまには、漢気ジャンケンをしたり。僕は漢気を出して、時計をプレゼントした。ちょっと悔しかったけど、あの時は盛り上がった。
 ゴロー、ハルとは、僕がキャプテンの時、ほぼ毎回一緒に試合に出ることができた。ハルの素晴らしいパスや、ゴローの豪快さを感じながらプレーするのはとても楽しかった。また、良いトレーニングを重ねられていたので、自分たちが強くなっていることが実感できて、色々なことはあったが、充実した日々を送ることができた。最高の2年間だったと思う。
 ところが、3年目を迎え、僕にキャプテンの交代が告げられた。僕自身としては、色々なものを咀嚼するのに時間がかかった。ちょうど交代を告げられた日にハルとご飯を食べた。食事の最中にはゴローにも電話をした。二人とも動揺しているようだった。自分自身としても、「仕方ないことだから」という想いと、「なんでなんだろう」という寂しさが錯綜していた。その時に、二人に寄り添ってもらえたのは本当に有り難かった。3年目のシーズン、僕自身は試合に出る機会がめっきり減り、役割が変わったことにうまく対応できず悶々としていた。そんな時でも変わらず接してくれた仲間には本当に感謝している。少しずつ気持ちの切り替えができるようになり、トレーニングにも集中して取り組めるようになった。ゴローはバイスキャプテンとして試合に出続けていて、とても頼もしかった。4年目になっても状況は変わらなかったが、なんとかワールドカップのメンバーに選ばれて、ワールドカップにいくことができた。
 そして、南アフリカ戦で歴史的な勝利を収めることができた。その試合で活躍した一人でもあるゴローは一躍ヒーローになった。帰国してから、一気に彼の世界が変わった。色々な葛藤があったと思う。一身に背負わないといけない辛さ、誰にもわかってもらえない、というような想いもあったのではないかと思う。今だから言えるが、その頃は少し近寄り難いこともあった。それでも、ゴローは黙々とその役割を担い続けてくれた。本当に感謝している。そんなゴローの姿勢を見て、自分自身もやれることをやろうという気持ちになった。だから、「ノーサイド・ゲーム」の話がきたときにも、「やるしかない」と覚悟を決められたのではないかと思う。自分に与えられた使命であり、ラグビーに恩返しをするために全うするのみと背中を押された。

 ドラマが終わった後にいよいよ日本でのワールドカップが始まった。ゴローと僕は解説で何度も一緒の時間を過ごすことができた。特に開幕戦は忘れられない。満員のファンの皆さんと君が代を歌い、圧倒的な熱量を感じられた。二人とも言葉が出なかった。こんな世界を作るためにお互い頑張ってきたのだ、と思っていたのだろう。我々としては一つ肩の荷が下りた。

 そしてついにゴローも引退を迎えた。次のキャリアがスタートする。彼にしかできないことはたくさんある。これまでの経験を糧に、挑戦し続けて、より多くの人を巻き込んだ素晴らしいものを少しずつ作ってくれるのではないかと楽しみにしている。僕としても何かしらのサポートはしていきたい。そして、ハルの試合を二人で、早くお酒を飲みながらワイワイ観たいなと思っている。ほんまにお疲れさん!そして、これからもよろしく!!

ゴロー、ハルとの一コマ 【筆者提供】

ゴロー、ハルとの一コマ 【筆者提供】

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著者プロフィール

「RUGGERS(ラガーズ)」は、日本ラグビーフットボール選手会が運営主体を務め、ファンと選手がつながる新しいラグビーアプリ(メディア)です。トップリーグ選手の投稿や、ラグビー関連の記事をまとめています。オリジナルコラムや動画も配信しています。アプリもぜひご覧ください。

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