車いすバスケ、悲願のメダルへ頼れる存在 藤本怜央が見せた驚異の「修正力」

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日本の車いすバスケ界をけん引し続ける37歳の藤本怜央 【写真提供:JWBF/X-1】

 車いすバスケットボールは、夏季パラリンピックで最も人気のある種目の1つだ。

 コートの大きさやリングの高さ、使用するボールのサイズなども一般のバスケットボールと同じで、ルールも「ダブルドリブルがない」「ボールを持って2回まで漕げる」「クラス分け制」以外は基本的に変わらず、バスケを見たことがある人なら、すんなりと観戦に入り込むことができるだろう。

 近年、日本バスケ界は大きな出来事が続いた。八村塁がNBAのドラフトで1順目指名され、渡邊雄太もドラフト外から本契約まで上り詰めた。Bリーグは5年目を迎え、コロナの影響で観客動員数の減少などはあったものの、右肩上がりの成長を見せている。3x3(スリー・エックス・スリー)も東京五輪でのメダル獲得が期待される。

 そして車いすバスケ男子日本代表も、リオパラリンピックでは9位と悔しい結果に終わったが、東京ではメダルを目指している。悲願達成に向けて、男女日本代表の特別強化試合が9日、本番の会場となる有明アリーナで行われた。

 新型コロナウイルスの影響で海外チームを招へいできないなか、男子は紅白戦を実施し、チームブラックが54-53でチームホワイトを下した。

 チームブラックで目を引いたのは、長年、日本の車いすバスケ界をけん引し、5度目のパラリンピック出場を目指す藤本怜央(宮城MAX)だ。

藤本が見せた圧巻の“4連続スリー”

藤本は前半、ゴールに嫌われていたが、後半、スリーポイントを積極的に狙う意識を変え4本連続で決める活躍を見せた 【写真提供:JWBF/X-1】

 新しいアリーナで初のバスケットの試合は、無観客の中、独特な雰囲気でティップオフを迎えると、藤本は試合開始15秒、バンクシュートで“有明アリーナ初ゴール”を決める千両役者ぶりを発揮する。しかし、前半はリングに嫌われる事が多く、8本放ったシュートはわずか2本しかネット沈められなかった。

「(シュート)タッチは良かったけど、リングの硬さに慣れていなくて、シュートが嫌われていた」

 試合後にこう振り返った藤本。前半のスコアは21-19とロースコアな展開で、チーム全体が新しいアリーナでプレーすることの難しさを感じる内容となった。

 しかし、後半の藤本はベテランらしい「修正力」を発揮する。

「もう少し(ディフェンスとの)スペースをとって、スリーポイントから入ってみようと思った」と、後半はプレーの意識から変えて入る。すると、第3クォーター1本目のスリーポイントこそ落とすが、その後は4本連続で決める“オンファイヤー”状態。ディフェンスにぶつかりながら決めた3本目のシュートは特に圧巻で、スリーポイントを3割決めることを標榜するチームにとって、これ以上ない存在だ。

「シュートフォームとリングのマッチングやフィーリングが合うところが、たまたまスリーポイントだった」と謙遜する藤本だが、前半入らなくてもシュートを打つという積極性から生まれた“4連続スリー”であり、京谷和幸ヘッドコーチも、記者から「成長した選手は誰か?」との問いに「成長で言うとベテランの藤本が積極的にスリーを狙うようになった」と称えた。

東京大会のスタートが着地ではない

「夢でなく目標設定」と東京パラリンピックでの躍進を誓っている男子日本代表。残り期間でさらなる成長を目指す 【写真提供:JWBF/X-1】

 リオが終わってから、パラリンピックでのメダル獲得を「夢でなく目標設定」と言い続けてきた藤本。開幕まで約3カ月、できることは限られるが、悲願達成に向けて「最後の1本のシュートの確立を上げるための動き」など、チームとして細かい部分を詰めていくと、最後に語った。

 一方で、チームが完璧な状態で大会を迎えるのではなく、「スタートが着地ではないので、いい意味で未完成のまま大会に入っていくのが今のチームの色。そこから大会を通じて成長して、決勝では初戦より高い(レベルの)バスケットをしてフィニッシュしていく」と力強く締めた。

 チームのピークを大会終盤に持っていけるかは、メダル獲得への必須条件と言えるし、そこを強調するところに本気度が感じられた。「修正力」と「伸びしろ」のある37歳のベテランがチームを引っ張り、悲願のメダル獲得へ挑む戦いがいよいよ始まる。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)
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