中田ジャパン、中国に再び0-3負けも収穫 世界1位相手に経験を積んだ2人のセッター

田中夕子

荒木は中国相手に手応え

2度の大けがから復帰、監督も「一番の収穫」とたたえた長岡(左) 【写真:坂本清】

 交代した直後にあの中国からリードを得る。その結果だけ見れば、それならばほぼここまで国際経験のない籾井をあえて試すのではなく、セッターとして多くの経験を持つ田代でいいのではないか。そう見る人もいるかもしれないが、この試合で重要なのは五輪本番でどんな攻撃展開が効果的で、日本が世界に勝つためには何を高めなければならないのか。そのための戦力を見極める機会でもある。中国を相手に、籾井は「アタッカーをいい状態で打たせることができなかった。Aパス、Bパス時の攻撃展開も含め、コンビが合わなかったのは自分の問題」と収穫よりも課題を口にしたが、間違いなく得られたものも多く、2人のセッターを中田監督はこう評する。

「籾井は初選出ですが、ずっとトス回しを見てきて、数字的にもサイドの数字が非常に高い選手あり、その(サイドを活かす)ためにミドルを使うバランスがいいと思っています。176センチとある程度高さもあるので速いテンポの攻撃、ブロックの高さ、前衛時にデコボコをなくすという意味では必要なのかな、と。同様に田代はオリンピック経験者でもあるので、コートを落ち着かせることができる。途中からでも安心して計算できる選手だと評価しています」

「できなかった」経験を受け、次にどうするか。与えられるヒントはまさにこの場に立たなければわからなかったこと。中国戦は12名から外れた関菜々巳も含め、25日からイタリア・リミニで開催予定のネーションズリーグで、それぞれがどんなゲームメークを見せるかが、五輪本番へ向けたセッターのポジション争いを占うカギになるのは間違いない。

 1年半の時が過ぎ、メンバーも当時は違う。単純に比べられるものではないと前置きしつつも、19年のW杯では同じ3-0でもまるで歯が立たずに完敗を喫したのに対し、同じストレート負けとはいえ第3セットを日本が奪取しかけたように、戦える手応えを得られたのも大きな収穫でもある。そう言うのは主将の荒木だ。

「(合宿で)男性コーチを相手に練習している時と比べて、中国の選手はブロックが抜けてもボールが落ちなかったり、(ブロック時に)手が最後に伸びてきたり、最後の粘り強さがある。間違いなく世界トップのチームで、その相手に2019年のW杯では自分たちの力のなさを痛感する負け方をした。そこから今日のように競る展開まで持って行けたのは自分たちがよくなっている部分も絶対あると思うので、今日出た課題としっかり向き合って、またここから頑張りたいです」

それでも大きい中国との差

第3セットから投入された(右から)田代、長岡らの活躍で一時は15-10と大きくリードを奪った 【写真:坂本清】

 第3セットが象徴するように、日本も複数が同時に入る組織的な攻撃展開ができる時は、得点につながる。だが中国は打たれた強打をレシーブする、ブロックする、と単発でとらえるのではなく、相手の攻撃に対してブロックがどこに跳んでどのコースを抑え、抜かせたコースを難なくディグでつなげる。ストレート、クロスとスパイカーが打つコースを変えればまたそこにレシーバーがいて、飛びつくのではなくその場で待って上げるボールは高く、ラリー中でもセッターはさまざまな攻撃につなげる余裕があり、なおかつ攻撃も前衛、後衛に限らず至るところから入ってくるうえ、1本1本の質がすべて高い。

 競り合うことはできたとはいえ、攻撃意識やバリエーション、精度、組織的な守備や戦術遂行能力。まだまだ日本と中国の差は大きく開いているのは否めない。
 中国の選手たちは帰国後2〜3週間の隔離期間を余儀なくされてもなお、緊急事態宣言下の日本に、わずか1試合のために来日した。「世界一と対戦して現在地を知りたい」という日本の思惑のみならず、出場各国の往来が限られる中、五輪本番の会場で試合が行えるメリット。ぶっつけ本番ではなく少しでも会場の光や空間に慣れるべく、五輪連覇に向け万全の準備を期すためのプロセスでもあったはずだ。

 金メダル獲得を目指す中国は本気でその準備を進めている。ならば日本はその壁を破るためにどうすべきか。中田監督が言った。
「オリンピックが開催されると言われていながらも見えづらい中で合宿、強化を継続していかないといけない。自分たちが毎日練習していることがどこまで進んでいるのか、課題は何なのか。世界ランキング1位の中国と戦ったことで自分たちの立ち位置、課題、通用すること、しないことがより明確になったので、明日からの合宿でさらに課題を抽出して、徹底的に落とし込んでいこうと思います」

 3日時点で開幕まであと81日。日々変わる状況は決して楽観できるものではなく、先が見えない状況はまだまだ続く。だが今は、この一戦ができてよかった、とあらためて思えるその日のために、一歩ずつ進んでいくだけだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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