内村航平、4度目五輪出場への鍵とは? スペシャリストに求められる高いハードル

平野貴也

個人枠で五輪出場を目指す内村。その一歩目で好発進を見せた 【写真:アフロスポーツ(代表撮影)】

 内村航平(ジョイカル)が、東京五輪出場に向けて好発進した。

 体操の東京五輪日本代表選考を兼ねた第75回全日本体操個人総合選手権が18日に終了し、4度目の五輪出場を目指して鉄棒種目に出場した内村は、予選で15.166点、決勝で15.466点と高得点を獲得した。貫録を漂わせるハイパフォーマンスを見せながら、決勝後には「五輪の選考会だとか、やらないといけないとか、全然、思っていない。その辺に関しては、楽に考えているんじゃないかなと思う。やるべきことをやらないといけないというのがあるので、そこをしっかりやっているという感じ」と淡々と語ったが、シビアな戦いの幕開けにしっかりと力を示した。

新境地「器具の声を聞きながら…」の挑戦

 これまでの個人総合のように別種目でばん回することはできなくなった。新たなプレッシャーと戦うことになったが、完成度の高い演技を求める内村の姿勢に変わりはない。

 決勝では、冒頭でH難度の大技「ブレットシュナイダー」を決めて拍手を浴びた。続けて、2日前の予選ではバーをキャッチする際に手の位置が近くなって、演技が詰まった離れ技の「コールマン」も鮮やかに決めた。着地は、小さく後ろに跳ねたが、完成度の高い演技を見せた。

 一つの種目に絞ったことで見えてきた、新たな手ごたえがあるという。

「器具の声を聞きながら、その日の体調に合わせてやっている感覚があって、器具とタイミングがかみ合っていけば非常に良い演技ができるし、合わなかったらそっぽを向かれる。鉄棒とうまく対話しながら、体を合わせていっている。それは、今までになかったこと。まだ(体操に)そんな深みがあったんだ、というのが新鮮」

 6種目すべてを戦うオールラウンダーから、鉄棒のスペシャリストへ。ミスが許されなくなったことや、決して楽ではない代表争いで勝って当たり前と思われていることといったプレッシャーよりも、鉄棒種目で演技を高めていく純粋な挑戦の楽しさが、上回っているようだ。

コロナ禍、ポイント確定が最後まで分からない…

決勝では大技「ブレットシュナイダー」など完成度の高い演技を見せた 【写真:アフロスポーツ(代表撮影)】

 男子の五輪代表選手は、団体枠が4名、個人枠が最大2名。内村は、男子個人総合で五輪を2連覇しているが、両肩痛や体力面などのコンディションを考慮し、6種目で負担が大きい個人総合を回避して、鉄棒に専念。個人枠での五輪出場権獲得を狙う。

 個人枠は、6月に予定されているワールドカップのドーハ大会(開催日は未定)やアジア選手権によって日本の選手が2枠目を獲得できる可能性はあるが、現状で確定済みの1枠は、日本が誇るスペシャリストたちが争う展開になっている。

 選考対象は、今大会の予選・トライアウト、決勝、5月のNHK杯、6月の全日本種目別選手権の予選、決勝の計5試合。五輪出場の内定選手は、日本体操協会が定める独自のポイントランキングで決まる。

 同協会が主要大会を対象に作成している種目別の世界ランキング(6月の全日本種目別選手権終了時にランキングを完成)に対し、5試合で得た得点をあてはめて評価し、1位かつ0.2点差以上なら40ポイント、1位は30ポイント、2位は20ポイント……といった具合にポイントを付与。5試合分で得た総ポイントの最上位者が日本代表に選出される。トライアウトで15.166点をマークした際に、内村が「目標の15.133以上をギリギリ越えることができた」と話したのは、現状では協会作成の世界ランクで鉄棒の1位が14.933点だからだ。1位を0.2点以上超えて、1試合で得られる最高の40ポイントを得るという意味だ。スペシャリストとして高得点を出すのは前提で、5試合を通してハイパフォーマンスを続けられるかが問われる。好発進を決めたが、まだ5分の2。緊張感のある戦いが続く。

 現状のランキングであれば、内村は最高の40ポイントを2つ、計80ポイントを得たことになる。しかし、厄介なのは、ランキング自体が完成しなければ、試合で獲得した点数が、何ポイントになるか定まらないところだ。今後、6月までに国際大会が行われた場合に強豪選手の成績がランキング対象になる上、団体枠で日本代表に選出される4名の選手による国内5試合の得点もランキングの対象となる。

 大会終了後に日本体操協会の水鳥寿思強化部長が「今大会で優勝した橋本大輝選手(順天堂大)が団体枠で代表に内定した場合、橋本選手が決勝で獲得した15.000点もランキングの対象になるので、その場合は今の想定とポイントが変わってくるところがあり、注意事項となる」と話したのは、鉄棒の世界1位の点数が現状の14.933から、橋本の15.000へ引き上げられることで、内村がトライアウトで出した15.166点が「1位かつ0.2点差以上」の条件を満たさなくなり、40ポイントではなく30ポイントに変わるという指摘だ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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