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J1月間MVP 名古屋・稲垣祥はブレない男 3試合で決勝点も「自分の判断に忠実に」

今井雄一朗

日本代表経験して価値観の幅を広げられた

自身の評価、チームの手応え、日本代表に至るまで、記者の質問に対して丁寧かつ的確に答えてくれた 【スポーツナビ】

――ディフェンス面では潰す、消す、狭める、あらゆる面でしっかりできています。トータル的な部分を見ても、2月・3月のプレーには手応えもあるのでは?

 そうですね。僕自身を評価するときは点を決められているかどうかという部分もあるけど、そういった総合的なところでチームにどれだけ貢献できているか。そういうところを見て評価しているし、一番大事にしている軸の部分ですね。

――その活躍もあって日本代表にも初めて選ばれました。リーグでの好調が良い後ろ盾になって、代表にも自信をもって臨めたのでは?

 もちろんそこに関して自信は持っていますし、代表に入ったから初招集だからソワソワして、緊張して自分のプレーができませんでした、というのは一番ダサいなと思っていました。本当に淡々といつも通りにやることを意識していました。でも、流れ的にも大量得点でほとんど結果が決まっているような試合で出場したので、ゴールに絡むことだけは意識していました。

――逆にそこは特別に意識したのですね。

 そうです。普段は意識しないことだけど、代表戦であれだけの点差もあって、自分の存在を示さなければいけない場でもありましたから。そこは結果や数字というものを、普段は気にしないところですけど、あのときだけは意識しました。

――確かに名古屋でのプレーよりもプレーする位置が高く、いろんなことをやっているなという印象はありました。アピールする気持ちがプレーに出ていたんですね。

 もちろんです。あの状況で試合に出たらどれだけ自分が爪痕を残せるか、が重要でしたから。そっちにウエイトを置いた試合というのは自分のキャリアの中ではかなり珍しいことだったんですが、そういうところでも柔軟な考えでプレーできたと思いますね。

――日本代表は目指す場所であり、憧れの場所でもあったと思います。今回選ばれたことで代表への思いに変化はありましたか?

 もちろん。やっぱり日本を代表してプレーするということは責任などもありますが、そこで戦えることは幸せだなと思いましたし、また周りの選手も日本を代表する選手ですから、それぞれの個性やプレーのタイプもいろいろで、そういった意味でもまた選ばれて同じ練習や試合の環境にいたいなと思いました。成長させてくれるな、と思います。

――デビュー戦はワールドカップ(W杯)予選でした。W杯の捉え方も変わりましたか?

 いや、そこに関しては変わらないですかね。W杯に出たいという気持ちは当然ありますけど、まずは足元を見ないとダメでしょう、という気持ちは常にあります。だから足元を見て、目の前の試合、グランパスでの活躍を大事にしながら過ごしていかなきゃいけないという気持ちは変わらないです。

――名古屋から一緒に代表に行った中谷進之介選手はいろいろな刺激を受けて自分をアップデートしたようなところがあったようです。稲垣選手にはそういった刺激を受けて感覚が研ぎ澄まされたようなところがありましたか?

 高いレベルを見られたから、成長できたという感じには僕は思っていなくて。違ったサッカーの種類、違ったタイプの思考、などを経験できたという中では、こういうやり方もあるんだな、とかこういうプレーやゲームの進め方もあるんだな、という勉強になりました。だから特別に高いレベルの選手たちを見て、その選手たちからすごくいろいろなことを学んだ、とかはそんなになかったかもしれないです。

――大きな発見があったわけではなく。

 そうですね。自分の価値観の幅を広げられたというか。自分が本来いる世界と、何でもそうでしょうけど、違う世界にいるというのはやっぱり自分の幅を拡げてもらえるチャンスだと思います。そういう良い経験をさせてもらったと思います。

キャリアを重ねてきた中で手に入れた技術

日本代表デビュー戦で得意のミドルシュートから2ゴール。持ち味を発揮し、しっかりと結果を残した 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

――FC東京戦の前には、日韓戦に出られなかった悔しさ、モンゴル戦で交代に呼ばれた高揚感、といった話をされていました。その感覚をもう少し具体的に聞かせてください。

 日韓戦については、ベンチでアップをしていて試合に出られるか出られないか分からない中、最後の交代枠の選手が呼ばれて。『ああ、自分はこの試合に出ないんだな』と分かった瞬間の気持ちというのは、喪失感というか虚無感というか。ポカン、と『オレ、出ないんだ』という気持ちになって、それはもうしばらく経験していなかったことで、そういった経験をしている選手というのは当然ですけど、グランパスでも毎試合いるわけです。そういった選手の気持ちというのも、もちろん分かっていたつもりではいたけど、実際に自分が経験して感じるのとではやっぱり違うと思います。こういう気持ちなんだ、こういう気持ちが続くのはけっこう辛いよな、ということを感じられました。

 次のモンゴル戦では呼ばれるかな、どうかなと思っていたら意外と早い時間帯で呼ばれて。『お、出られるんだ』というワクワクする気持ちや緊張感を感じて、その中でも冷静にプレーしようと自分の気持ちをつくって。途中から出る難しさもありますし、そういったことを考えていたら、いまグランパスで途中から入ってくる選手たちも難しいよな、ということも感じられたりします。そういった経験もすごく大事だなって思いましたね。

――シンプルに『これで日本代表デビューだ!』という気持ちはありましたか?

 ああ、ちょっとだけ。5%ぐらい(笑)。5%ぐらいだけで、あとは『何をやってやろうか』とか、具体的にピッチで表現することの方が頭の中を占めていましたね。

――ファーストタッチがすごく柔らかくて、とても良い試合の入り方をしたことも印象的でした。

 そこの気持ちの持ち方というのも、僕がキャリアを重ねてきた中で手に入れた技術かなと思います。結局は“無”でやるのが一番良いと思っているので、今までも大切な試合というのはJリーグの中でもいくつも経験してきていますし、緊張感のある試合もありました。そういうときの心の持ち方と同じイメージだったというか、どうやったら自分が素のままでいられるかというのは、簡単ではないんですが、自分なりにはコツをつかんでいると思っているので。そういったところは経験した分が良かったのかなと。これもプロ1年目や2年目だったらもっとガチガチに固まっていたかなと思いますね。

――それは今までのチームメートに代表経験者が多くいたこと、彼らと一緒にプレーしてきたことも影響はあったりしますか?

 いや、それはあまりないですかね。そういう選手たちから話を聞いていたから緊張しなかったとか、そういうことではないかもしれないです。普段のリーグ戦でもそうなんですけど、いかに自分が自然体でいられるかはどの試合でも大事にしていることなので。そういったものをそのまま出せたという感じですね。

――単純に『日本代表合宿ってどんな感じ?』というのは人に聞いたりもしていたのでしょうか?

 それは聞いていました。聞いていたし、合流して最初は佐々木翔くん(サンフレッチェ広島)とかにどういう感じとか話は聞いていました。

――代表の『Team Cam』では名古屋の先輩にもあたる吉田麻也選手とのコミュニケーションも見ることができました。

 ああ、そういうことが僕はすごく面白かったし、人として良い経験をさせてもらったなと思いますね。普段接することのない人たち、他のチームの話を聞いたりするのも楽しかったし、そういう話ができたのが、今回の代表で一番楽しかったことかもしれませんね。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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