至極の選考レースとなった男子平泳ぎ 佐藤、武良、渡辺…三者三様だった重圧

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世界記録に迫った佐藤、会心の泳ぎ

レベルの高い男子200メートル平泳ぎを日本新記録で制し、東京五輪代表に内定した佐藤翔馬 【写真は共同】

 新たなエースが、宣戦布告だ。

 東京五輪代表選考会を兼ねた競泳の日本選手権は7日、男子200メートル平泳ぎが行われ、佐藤翔馬(東京SC/慶應義塾大学)が2分6秒40の日本新記録で1位、武良竜也(BWS)が2分7秒58で2位となり、ともに日本水泳連盟が定めた「五輪派遣標準記録(2分8秒28)をクリアして2位以上」という代表内定条件を満たした。一方、佐藤とともに2強と目されていた前世界記録保持者の渡辺一平(トヨタ自動車)は、2分8秒30で3位。2016年リオデジャネイロ大会に続く2大会連続の五輪出場を逃した。

 世界記録にあと0秒28に迫る好記録で優勝した佐藤は「4年前は持ちタイムも遅くて、東京五輪に行きたいとは思っていたけど、タイム的には全然まだまだだなと思っていた。本当に出られるということに感謝して、しっかりと頑張っていきたい。世界記録も見えてきたので狙っていきたいが、本番では金メダルが一番重要。タイムにこだわらずに優勝したい」と、東京五輪での金メダル獲得に意欲を見せた。

驚異的な成長スピード

 佐藤は驚異的なペースで自己記録を更新している。2020年1月の北島康介杯で自己ベストを1秒63も縮める2分7秒58で渡辺を撃破し台頭。その後、東京五輪が1年延期されたことで、世界のトップに追いつく時間ができた。

 今年1月の北島康介杯では世界歴代4位の2分6秒78、さらに2月のジャパンオープンで2分6秒74、そして今大会では2分6秒40で、渡辺が持っていた2分6秒67の日本記録を更新。日本のエースにふさわしい順位とタイムで東京五輪の出場権を獲得した。

 20歳と若く、伸び盛り。明るい笑顔が印象的だが、注目度が急激に高まる中でプレッシャーを感じていたようだ。

「この2カ月間、早く泳ぎたいではなく、早く(選考会が)終わってほしいと言っていた。チャレンジャーとして目指してきたのに、今年の状況からいくと一番手ということで、そういう立場になって不安が出たのだと思う」

 東京SCの西条健二コーチが明かしてくれた。準決勝で余力を残した泳ぎに不安を感じたことから、決勝当日の朝、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチや、前日本代表ヘッドコーチの鈴木陽二コーチと話をすると、鈴木コーチから「カツオ(大会第3日に日本新記録で男子200メートル自由形を優勝した松元克央)も守りに入っていた。うまく決勝に入ろうとか、余力を残しておこうとか、抑えていく自分がある。攻めさせなければダメだ」と言われた。西条コーチが佐藤に伝えたところ、表情が変わったと振り返った。思い切って挑んだレースは、会心の出来だった。

この2年で一気に記録を伸ばし、金メダル候補に浮上した佐藤。まだまだ伸び盛りで、世界記録の更新にも期待がかかる 【写真は共同】

 平泳ぎと言えば、北島康介さんが2004年のアテネ五輪、08年の北京五輪で2大会連続2種目(100メートル、200メートル)の金メダルを獲得し、日本の“お家芸”とも言われる種目だ。

 東京五輪で日本勢は、19年の世界選手権で2分6秒12の世界記録をマークしたロシアのアントン・チュプコフに挑む。チュプコフは、世界記録を出した際、最後の50メートルで31秒89という強烈なラストスパートを見せた。

 東京五輪での対決が注目される佐藤は「ラスト50メートルで33秒かかっていた(33秒01)と思うので、32秒中盤に持ってこられたら。彼(チュプコフ)のことは、考えても意味がないと思っている。最後に(追い)上げてくるレースしかしないので。やっぱり、150メートルまで先頭で行って逃げ切る感じですかね」と前半から攻める自身の持ち味で勝負する姿勢を示した。東京五輪でも自己ベストを更新し、金メダルに輝くか。1年の延期で現れた新たなエースが金メダル獲得に挑む。

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