
第2回

たとえ無名であったとしても、優れた選手はいつか、必ず発見される。あのときの出会いも、必然だったのかもしれない。
2004年の3月、当時セレッソ大阪でスカウトを務めていた小菊昭雄は、FCみやぎの試合を訪れた。視察の目的は、高校3年生に進級する直前のGK丹野研太のプレーを見ることだった。彼を獲得するかどうか。その目処(めど)を、つけなければいけない時期にさしかかっていた(最終的に、丹野は翌年1月にセレッソ大阪に加入)。
しかし、小菊は別の選手のプレーに釘づけになった。
線は細かったが、姿勢が良くて、ボールタッチも柔らかい。攻守、両方に積極的にかかわっている。
運動量が多く、魅力的な選手だ。これまでも少なくない試合を見てきたのに、見落としていたのだろうか。
そんなことを考えていた小菊は、関係者から、こう言われた。
「あの子は今度、高校1年生に上がるんですよ」
「えぇ? と驚きましたよね。確かに、中学生みたいに細い子だなとは思っていましたが……」
前述の通り、香川真司が中学3年生のときには、全国大会に出場していない。香川のことを知らなかったのは、そんな事情もあった。
とはいえ、まもなく高校生になろうとしている子が、高校生に交じって、ひときわ目を引くプレーをしているのは事実だった。小菊の胸が高鳴る。
「その日のうちにFCみやぎの関係者と色々な話をして、彼の生い立ちや務めてきたポジションなどの情報は一気に収集しました」
同時に、心に決めた。
これからは彼のプレーを、こまめに見にこなきゃいけないな、と。
香川の動向を追いかけると決めた小菊にとって、幸いしたことが2つある。
ひとつは、GKを獲得するようチームから強く求められていたタイミングだったこと。丹野の視察は小菊の重要な任務だった。そして、丹野を見ようとするときに、香川も視界に入ってくる。
もうひとつが、選手をスカウトする以外の仕事があったこと。当時の小菊はセレッソのトップチームが対戦する相手の分析も任されていた。だから、大阪から東日本へと足を運ぶ機会が多かった。ベガルタ仙台の試合の偵察はもちろんだが、FC東京、浦和レッズ、横浜F・マリノスなど、関東に多くのチームがあった。しかも、東京駅から仙台駅までは、新幹線を使えば最短でおよそ1時間半だ。
「関東まで来たから、仙台まで足を延ばします」
そんな風にクラブに相談すれば、許可も下りやすかった。
香川が高校2年生になるころには、多いときには1カ月に3回、少なくとも2週間に1回はFCみやぎの試合か練習を視察するようになっていた。
「もちろん、身体の強さやスピードなど、体格面ではまだ物足りなさはありました。でも、そんなものをかき消すくらいに、見る度に成長を感じられたし、彼はサッカーが好きなんだなと感じさせられることが多かったんですよ。スカウトには、慎重な判断が求められます。向上心があるのかどうかを、じっくり見極めないといけない。ただ、見る度に、確信に変わっていくというか、惹かれていくというか。そんな感覚がありました」
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