担当コーチに聞く桃田賢斗の状態 復帰戦、ライバル、金メダルへの課題

平野貴也

全英オープンで1年2カ月ぶりに国際大会に復帰した桃田。果たしてコーチの目から桃田の復帰戦はどう映ったのか 【Getty Images】

“桃田は、東京五輪で金メダルを取れるのか”

 バドミントン男子シングルス世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)は、2019年に主要な国際大会で年間11勝のギネス記録を打ち立て、圧倒的な金メダル候補となった。しかし、2020年1月に行われたマレーシアでの大会後、交通事故に遭い、帰国後には右目を手術。同年12月の全日本総合選手権で公式戦に復帰するまで、長く戦列を離れた。今年1月には、新型コロナウイルスの陽性判定を受けて国際大会への復帰が先延ばし。3月に行われた全英オープンで、1年2カ月ぶりに国際大会に復帰したが、準々決勝で敗れた。

 東京五輪までに、強い姿を取り戻すことができるか。国際大会に復帰までの取り組みや復帰戦の内容、東京五輪までの強化方針について、日本代表チームで男子シングルスを担当する中西洋介コーチに話を聞いた。

プレッシャーが先行していた全英オープン

――まず、全英オープンでの桃田選手のプレーの印象を教えて下さい。

 練習を見ていて、事故や目の手術、コロナ感染による影響は感じていなかったので、動きそのものについては心配していませんでしたし、問題ありませんでした。大会では、勝った1、2回戦を含めて、迷いでフットワークが乱れる場面があり、精神面で少し落ち着いていないと感じました。「やっと国際大会に戻れたぞ!」と久しぶりの緊張感を楽しんでやってもらえれば良いと思っていましたが、実際にはプレッシャーが先行しました。敗れた準々決勝の試合も、第1ゲーム(21点先取)の15-12までは問題なかったのですが、そこからの7連続失点で「勝ちたい」というより「負けられない」という心境でプレーしているように見えました。相手の勢いを受けて立ってしまい、70〜80%くらいのパフォーマンスになってしまった印象です。中盤で配球を変えて一度逆転した第2ゲームを取り切れれば、一気にこちらへペースが傾いたと思いますが(※3連続得点で追いついた19オールから3連続失点で18-21)、相手が昨年より良くなっていましたね。

――桃田選手に勝った23歳のリー・ジージァ選手(マレーシア)が初優勝。東京五輪が1年延期した中、新たなライバルが出てきた印象を受けました。

 彼のパフォーマンスは、良かったですね。ワールドツアーを戦っているメンバーの中では、おそらくスマッシュが一番速く、警戒はしていました。以前は、ミスが多かったり、スマッシュをなかなか打てなかったりしていたのですが、今回は、桃田選手が下から打ち上げてコートの奥へ運ぶクリアを積極的に強打で狙われて、攻め込まれました。技術や試合運びの面で向上していて、東京五輪に向けて、ちょっと嫌な存在になってきました。

ギンティンとの対戦を期待していたが…

――大会前の話にさかのぼりますが、事故、手術からリハビリを経ての1年間、桃田選手に関しては、どのような取り組みをしてきたのでしょうか?

 国際大会に出ていない期間も、再び世界のトップ選手と戦うことをイメージして練習していました。1年間も試合がなく、ずっと日本の選手としか試合形式の練習ができませんでしたし、相手の対策を立てにくかったので、ライバルの最新のプレーを分析して、特定の相手を想定して、特徴的な球出しやフェイントに対応するメニューを採り入れました。桃田選手と同い年で2017年世界王者のビクター・アクセルセン選手と、2019年世界選手権の決勝で対戦したアンダース・アントンセン選手(ともにデンマーク)が昨年10月以降の大会では好調だったので、桃田選手も彼らのプレーを意識しながら練習していたように感じました。

――ほかのライバルの動向は、どのように見ていますか。好敵手であるインドネシアのアンソニー・シニスカ・ギンティン選手(※2018年に2度、19年に1度、桃田を破っている)との対戦が全英オープンで期待されていましたが、実現しませんでした。2019年のスディルマン杯で桃田選手を破った中国のエースである石宇奇選手(シー・ユーチ)は、中国勢がコロナ禍で選手を派遣していないため、ケガから復調途上だった2020年3月から試合に出ていません。

 ギンティン選手との対戦実現は、私も期待していました。桃田選手のポテンシャルが引き出され、復帰した現状での最高のパフォーマンスを見れたのではないかと思います。桃田選手はレシーブ中心のスタイルなので、ギンティン選手や石宇奇選手のように積極的に攻めて来る選手の球の感覚や、どのくらい守ると相手の体力を削ることができるかという感覚を、五輪までの大会では、実際に感じておきたいところです。中国勢も五輪レースには出てくるのではないでしょうか(※全英オープンは2020年実施分が五輪レース対象のため、21年の大会は対象外)。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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