日本代表は3月シリーズで何を手にした? 再び国民的な注目を集めるために…

宇都宮徹壱

「せめて1点を」というモンゴルに無慈悲の14ゴール

日本はモンゴルに対してW杯予選新記録となる14ゴール。守田、稲垣、古橋が代表戦初ゴールを挙げた 【高須力】

 この日の日本は、アウェー扱いということで白のセカンドユニホームだった。スタメンは以下のとおり。GK権田修一。最終ラインは右から松原健、吉田麻也、冨安健洋、小川諒也。中盤はボランチに遠藤航と守田英正、右に伊東純也、左に南野拓実、トップ下に鎌田大地。そして1トップに大迫勇也。両サイドバックを入れ替えた以外は、5日前の韓国戦と同じメンバーである。対するモンゴルは、5日前にアウェーでタジキスタンに0-3で敗れていたためか、この試合では最終ラインを5枚にして日本に立ち向かう。

 試合は予想どおり、終始日本のペースで進んだ。日本は前半13分、南野のW杯予選5試合連続ゴールで先制すると、23分に大迫、26分に鎌田、33分に守田、そして39分には松原の右からのクロスが相手の胸に当たり、そのままオウンゴールとなる。ラスティスラブ・ボジク監督によれば、この日のモンゴルは「日本を相手に、せめて1点を」を目標に掲げていたという。実際、小柄な選手たちは随所で身体を張ったプレーを見せていたが、いかんせん相手との力の差は歴然であった。前半は日本の5点リードで終了。

 大量リードの余裕もあって、日本はベンチワークにも積極的だった。ハーフタイムには、守田を下げて浅野拓磨を投入。浅野が左のワイド、そして遠藤がアンカーに入る4-1-4-1にシステム変更する。後半10分に大迫の2ゴール目で6点差とすると、森保監督はさらに新戦力を投入。後半18分に鎌田と吉田を下げて、稲垣祥と中谷進之介をピッチに送り出す。その5分後に、稲垣がさっそく代表初ゴール。さらに26分、5人の交代枠をフル活用して、古橋亨梧と畠中槙之輔にも出番が与えられた(OUTは南野と富安)。

 その後も日本は、無慈悲なまでに得点を重ねてゆく。後半28分に伊東、33分に古橋、そして34分には再び伊東が決めて10点目。日本の2ケタ得点は、97年のW杯フランス大会予選、対マカオ戦以来である。さらに42分には古橋が2点目、45+1分には浅野、45+2分には大迫がハットトリックを達成すると、その1分後に稲垣も2点目を挙げる。決まった直後に試合終了のホイッスルが鳴り、ファイナルスコアは14-0。奇妙な雰囲気の中で始まったモンゴル戦は、終わってみれば日本のゴールラッシュのうちに終了した。

森保監督が語った3月シリーズで得られた3つの手応えとは?

いつも以上に明るい表情で会見に応じる森保監督。この3月シリーズについて3つの収穫を挙げた 【宇都宮徹壱】

 前半で5点、後半で9点。14-0というスコアは、W杯予選ではもちろん新記録だ(ちなみに公式戦の最多得点記録は、67年のメキシコ五輪予選、対フィリピン戦での15-0)。さらに特筆すべきは、8人の選手がゴールを決めて、そのうち守田、稲垣、古橋が代表初ゴール。そして韓国戦を含めた2試合で、控えGK2人を除くフィールドプレーヤー20人全員に出場機会が与えられたことも評価したい。試合後の森保監督は「長々としゃべっていいですか?」と、いつも以上に饒舌。そこで挙げた収穫は、以下の3点であった。

1)コロナ禍の厳しい状況の中、関係者の尽力によりA代表とU-24代表が、それぞれ2試合を無事に開催できたこと。
2)さまざまな選手と組み合わせを試すことで、戦力の幅が広がるとともに、チームの底上げもできたこと。
3)Jリーグで結果を出した選手が代表でも活躍し、さらにチームに戻って代表での経験を生かすことで、Jリーグのさらなる盛り上げが期待できること。

 このうち、個人的に注目するのが3番目。今回は招集メンバー23人中、海外組は9人にとどまり、残りはすべてJリーグでプレーする選手で占められた。結果としてSNS上では、先の韓国戦で川崎フロンターレと柏レイソルのファンが歓喜し、今回のモンゴル戦では横浜F・マリノスと名古屋グランパスのファンがお祭り騒ぎになっていた。U-24代表で活躍した選手も含めて、彼らが戻ってきた今週末のJリーグは、それぞれの会場で大いに盛り上がることだろう。最近の代表戦では、久しく見られなかった現象だ。

 1年4カ月ぶりで、しかもイレギュラー満載のW杯予選に、しっかりと勝てたことは素晴らしい。それと同じくらいに素晴らしく感じられたのが、代表戦とJリーグとの間に、力強い好循環の兆しが感じられることだ。日本代表が、再び国民的な注目を集めるには、確かに起爆剤としての東京五輪も大切である。それとは別に、まずは国内サッカー全体を地道に盛り上げることも、回り回って代表のバリューアップにつながるはずだ。2つの日本代表が4試合を戦った、今回のシリーズが、その契機となることを期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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