日本代表は3月シリーズで何を手にした? 再び国民的な注目を集めるために…

宇都宮徹壱

地上波で放映されなかった北九州でのアルゼンチン戦

韓国との親善試合に快勝した日本代表は1年4カ月ぶりにW杯アジア2次予選を戦うこととなった 【高須力】

 先週から始まった2つの日本代表の3月シリーズ。A代表は3月25日に韓国代表と横浜で対戦。そしてU-24代表は26日(東京)と29日(北九州)で、いずれもU-24アルゼンチン代表と2試合を行った。本稿は30日に行われた、ワールドカップ(W杯)・アジア2次予選、対モンゴル戦についてのコラム。しかしその前に、29日のアルゼンチン戦について言及しておきたい。結果は日本の快勝。林大地(前半45分)、そして板倉滉の2ゴール(後半23分、28分)で、3日前に0-1で敗れた相手に見事にリベンジしている。

 私はこの試合を自宅でテレビ観戦していたのだが、これまでにない衝撃と危機感を覚えてしまった。試合内容についてではない。「サッカー日本代表」をめぐる世間の扱いについて、である。久々の五輪代表のライブ中継。「どの局だっけ?」と思いながら地上波をザッピングしていたら、民放各社はバラエティーや歌番組ばかり。「まさか」と思いつつBSに切り替えたら、BS朝日に北九州スタジアムのピッチが映し出された。

 日本代表のコンテンツバリューの低下は、この業界で禄を食んできた者であれば、誰もが実感しているはずだ。とはいえ今年は五輪イヤー、しかも自国開催である。その直前に「金メダルを目指す」日本代表が、同じく金メダル候補のアルゼンチンと対戦する。これほどの話題性がありながら、地上波から完全スルーされてしまうところに、事態の深刻さを痛感する。東京五輪の開催については、私自身、今も疑念を拭えずにいる。が、これを代表人気復活の起爆剤としたい、JFA(日本サッカー協会)の切迫した期待感は理解できる。

 そんな中で行われる、A代表のモンゴル戦。日本は5日前の韓国戦に3-0で快勝しているが、森保一監督は「韓国戦という特別な試合のあとに試合をする面では、難しい試合になると思う」としながらも「われわれが何に向かって戦いをするのか。どういう意義で戦うのかを再確認してモンゴル戦に臨みたい」と前日会見で語っている。対戦相手との力の差は明白だが、それでも今回は結果がすべてのW杯予選。まずは手堅く、きっちり勝利することが何より望まれる、シリーズ最後の一戦である。

フクアリでモンゴルのホームゲームが開催される不思議さ

モンゴル戦が行われたフクダ電子アリーナ。千葉で行われた試合は、日本にとってはアウェーで無観客 【宇都宮徹壱】

 試合について語る前に、まずはW杯アジア2次予選について、簡単におさらいしておく必要があるだろう。最後に予選が行われたのは、2019年11月14日のアウェーでのキルギス戦。今から1年4カ月前の話だ。ここまで4戦全勝の日本は、アウェー3試合を終えており、ホーム3試合とアウェー1試合を残していた。ところが昨年から続くコロナ禍の影響で、試合スケジュールは延期に次ぐ延期。再開第1戦と思われた、ホームでのミャンマー戦(3月25日)は、相手国の軍事クーデターで流れてしまった。

 そして今回のモンゴル戦は、本来ならば日本にとって2次予選最後のアウェー戦。しかし、モンゴル政府が海外からの入国を厳しく制限しているため、結果として日本開催の試合をモンゴルのホーム扱いとすることとなった。セントラル開催でなければ、予選はホーム&アウェーで行われるのが原則。ただし歴史をひもとくと、過去にも「ホーム&ホーム」が行われたことがあった。54年のスイス大会予選での韓国戦がそれで、相手国が日本代表の入国を認めなかったため、東京で予選2試合が行われた(結果、韓国が出場権を獲得)。

 イレギュラーなのは、それだけではない。試合会場はジェフユナイテッド千葉の本拠地、フクダ電子アリーナ(フクアリ)に決まった。ここで国際Aマッチが開催されるのは、今回が初めて。JFAの説明によると、会場の費用が比較的安いこと(今回はモンゴル側の負担となる)、そして成田空港から近いことなどが決定の理由となったようだ。かくして、千葉県で「疑似アウェー戦」が開催されることとなったわけだが、もうひとつ忘れてならないイレギュラーが、この試合が無観客で開催されることである。

 サッカーファンの間で、すっかり慣れてしまった感がある無観客だが、日本代表にとってはこれが2回目。前回は2005年のW杯ドイツ大会予選の対北朝鮮戦で、このときは北朝鮮がFIFA(国際サッカー連盟)にペナルティを課せられたため、タイのバンコクで開催された。この試合に勝利した日本は、見事に本大会出場を決めたのだが、それから実に16年ぶりとなる無観客試合。すでに海外ではスタンダードとなりつつあるが、まったくスタンドにファンがいない代表戦というものは、想像以上の違和感を禁じ得なかった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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