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2つのサッカー日本代表が示す五輪への道
1年4カ月ぶりの代表戦が意味するもの

コロナ禍で行われた1年4カ月ぶりの代表戦

A代表は韓国に3-0で完勝。久々に実現した国内での試合で、最高の結果をつかんだ
A代表は韓国に3-0で完勝。久々に実現した国内での試合で、最高の結果をつかんだ【高須力】

 いつもの雰囲気とは明らかに違う。それでも目の前に広がるのは、久々に国内で開催された日本代表の親善試合であった。3月25日、日産スタジアムで行われた日本代表と韓国代表による親善試合。このカードが決まってから試合当日に至るまで、メディアは過去の日韓戦の激闘の歴史や、最近の日韓両国の微妙なすれ違いなどを盛んに取り上げていた。もちろんサッカーファンにとって、日韓戦は極めて重要な意味を持つ。けれども、それ以上に重要だったのが、1年4カ月ぶりに国内で代表戦が開催されることであった。


 もちろん「いつもと違う」代表戦であったことは間違いない。まず、ゴール裏に代表サポーターがいない。威勢よく振られる大旗もなければ、日の丸と代表ジャージのビッグフラッグも2階席に添え置かれたまま。Jリーグのプロトコルに準じて、声を出しての応援や歌声もなし。試合前の国歌斉唱は「心の中でご斉唱ください」とのアナウンスがあった。選手入場は韓国が先で日本があと。エスコートキッズもなし。Jリーグでは見慣れた光景だが、これが代表戦となるとやはり違和感があった。


 日本の先制点は前半16分だった。守田英正のスルーパスはいったん相手に阻まれるも、大迫勇也が絶妙なヒールパスを前線に送り、右サイドを疾走する山根視来が右足でゴールにたたき込んだ。山根は代表初選出、初出場で初ゴールとなった。さらに27分には、大迫のスルーパスに今度は鎌田大地が反応。ドリブルで持ち込んで右足から放たれた弾道は、ポスト左に当たってネットを揺らした。そしてエンドが替わった後半38分、CKから遠藤航がヘディングでダメ押しの3点目。終わってみれば3-0、日本の完勝だった。


 韓国の覇気のなさには失望したが、それでも久々に実現した国内での試合で、日本代表が勝利したのは純粋にうれしい。記者席での仕事を終え、新横浜駅に向かう足取りも軽かった。しかし、ここでも「いつもと違う」代表戦を痛感する。道すがら、コンビニで缶ビールを買って、ささやかな祝杯を上げているファンの姿をあちこちで見かけた。1都3県に出されていた緊急事態宣言は、4日前の3月21日に解除されたが、飲食店の時短は当面の間は続く見込み。宵闇に沈む新横浜の光景を見て、一気に現実に引き戻された。

なぜJFAは「特例」を引き出すことができたのか?

1年4カ月ぶりとなる国内での代表戦は、かつてなく厳密な隔離体制のもと行われた
1年4カ月ぶりとなる国内での代表戦は、かつてなく厳密な隔離体制のもと行われた【宇都宮徹壱】

 今回の日韓戦に先立ち、森保一監督が会見の場で繰り返し語っていた言葉がある。まず「医療従事者の皆さんをはじめ、命懸けで日常生活のために戦ってくれている方々に感謝します」。そして「やって良かったと思える試合ができればと思います」。言葉づかいは丁寧ではあるが、どこかしら本音を隠したコメントが多い日本代表の指揮官。しかし今回に関して言えば、エッセンシャルワーカーへの感謝の気持ちはもちろん、世論に対してセンシティブにならざるを得ない切実な心境が伝わってくる。


 今回の日韓戦が発表されたのは、3月10日のこと。緊急事態宣言の再延長が決まった5日後のことであった。久々の代表戦に期待する声がある一方、「試合開催までに緊急事態宣言は解除されるのか?」「この状況下で国際試合なんてできるのか?」といったネガティブな反応もSNS上では少なからず見られた(韓国との対戦そのものへの拒否反応も散見されたが、文脈が異なるのでここでは言及しない)。つまり今回の日韓戦は、サッカーファン以外にはあまり歓迎されないマッチメークだったのである。


 1年4カ月ぶりとなる、国内での代表戦実現に向けたJFAのプロジェクトは、いまだかつてない精緻かつ大掛かりなものであった。国外から来日・帰国する選手に対しては、2週間の自主隔離期間を免除する代わりに、出国前72時間以内に受けたPCR検査で陰性であることを証明しなければならず、さらに入国翌日から3日間連続の検査でも陰性が確認されなければならない。また招集された日本代表については、トレーニング以外は国内組と海外組が非接触となるよう、厳格に隔離された状態で試合当日を迎えることとなった。


 このうち、入国に際しての自主隔離期間免除については、当然JFAだけの判断で実現できるものではない。外務省や厚生労働省をはじめ、関係各所とのタフな折衝があって初めて実現したものである。その結果としてJFAは、スポーツ界に極めて大きな意味を持つ「特例」を手にすることとなった。もちろん日本政府としても、サッカーやJFAのためだけに特例を認めたわけではない。今回の韓国戦、そしてU-24アルゼンチン代表戦の向こう側には、明確に「TOKYO2020開催」という目標があったと考えるのが自然だろう。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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