連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

塚本真由が演じる一糸乱れぬ「和の描写」 水面を舞うアーティスティックスイミング

C-NAPS編集部

ライバル・ウクライナに勝ってメダル獲得へ

ライバルのウクライナを上回りメダルを獲得するためにも、チームの結束力を高めることに注力している 【Getty Images】

 東京五輪で注目すべき国は、五輪で5連覇中のロシアです。現状ではどこの国もロシアには勝てないと思います。技術も同調性もすごいですし、特に同調性に関しては競技のことを知らない方が見ても、「おぉ!」となるほどです。ロシアの試合の水中ビデオを見た時に、水面から出ている部分だけではなく、水中でもすべての動きがそろっていることに驚きました。私たちもロシアを参考に立ち泳ぎの際の足を掻(か)く回数や手を掻(か)くタイミングなど、観客からは見えないところを合わせる練習に取り組むようにしています。

 ロシアはドーピング問題のため、東京大会については国としての五輪参加が認められていません。ただ、選手層も厚くレベルも高いので、潔白が認められた選手だけでチームを編成したとしても強いのは間違いありません。一方で日本がメダルを争う現実的なライバルとなるのは、ウクライナですね。身長180センチ以上の背の高い選手が多いのが特徴です。リフトに関しては、ロシアを上回るほどの高さとクオリティーを誇ります。いつも順位を争っている相手なので、ウクライナに勝たないとメダルはありません。

 2019年の韓国で行われた世界水泳ではそのウクライナに惜しくも敗れて、4位に終わりました。反省点として挙がったのが、チームのコミュニケーション不足です。そのため、チームビルディングにも取り組み、みんなで話し合うことを意識的に取り入れるようにしました。その効果もあり、徐々に先輩・後輩やコーチといった立場にかかわらず思ったことを言い合えるようになってきました。チーム力が確実に高まっているのを実感できるようになりましたね。

「シンクロ」ではなく「AS」と認知してもらうために

アーティスティックスイミングをもっと多くの人に知ってもらいたい一心で、塚本は自国開催の夢舞台に臨む 【ミキハウス】

 東京五輪代表に決まった時のミーティングで「五輪は4年に1回あるけど、東京五輪に出場することは宝くじに当たるくらいすごいことなんやで」と井村コーチから言われました。その言葉を聞いて、すごいチャンスをもらったのだと思いました。初出場にワクワク感もドキドキ感もありますが、いまだに実感がわかないのが本音です。実際にその場に立った時に自分がどういう精神状態なのか想像ができません。経験者のメンバーからは「他の試合と違うことはないよ。ただ五輪は注目度も高くて、特別感もある」と言われているので、すごく楽しみにしています。

 コロナウイルス感染症拡大の影響で1年延期になった際は、「この辛い練習を乗り越えられるのか」と不安な気持ちになりました。でも1年前よりもできることが増えて上達した部分がたくさんあるので「良かったのかもしれない」と思えるようになりました。とにかく今は東京五輪に向けて、全力を尽くすことしか考えていません。今までは演技の中で「悪い意味で目立つ」と指摘を受けることがあるので、五輪ではいい意味で目立てたらいいなと思います。「真ん中でいい表情をしていたよ」と言われるような、輝いている演技をすることが目標です。

 まだ多くの方の中では、競技名も「シンクロ」と認知されているのが現状です。五輪を通して、「アーティスティックスイミング」という名称が広まればいいなと思っています。そして、略称の「AS」が当たり前に知られるようになるのが理想です。そのためには、メダルを獲得することが重要になります。結果を出すことで、応援してくれる方やサポートしてくれる方たちに恩返しをしたいです。

(取材・執筆:上田まりえ)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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