連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

塚本真由が演じる一糸乱れぬ「和の描写」 水面を舞うアーティスティックスイミング

C-NAPS編集部

アーティスティックスイミングで東京五輪出場が内定している塚本真由に、競技の魅力と観戦のポイントを聞いた 【ミキハウス】

 1984年のロサンゼルス五輪で正式採用され、長らく「シンクロ」という通称で親しまれてきた「シンクロナイズドスイミング」。水上で繰り広げられる技の数々や水面を踊る脚線美は、五輪の夢舞台を彩るだけでなく訪れる観客を常に虜にしてきた。

 しかし、2018年4月よりシンクロの名称が変更されたのをご存知だろうか。東京では初めて「アーティスティックスイミング(AS)」の名が五輪史に刻まれることになる。競技が多くの人々の関心を集める中で、ソロや混合種目に関しては「シンクロナイズド(同調性)」という言葉が当てはまらない点が変更の理由だ。芸術性を意味する「アーティスティック」の表現が採用されたのは、競技にとっても大きな転換期となった。

 新たな時代の幕開けを迎えたアーティスティックスイミングにおいて、日本代表「マーメイドジャパン」の中でもチーム一の高身長で存在感を示す選手がいる。塚本真由(ミキハウス)だ。「水の中ではまだまだ小さく見える」と自身の演技を謙遜した塚本だったが、マーメイドさながらに華麗に泳ぎ、水上を舞う姿は誰もが目を奪われるほどダイナミック。今回は8人の選手が水中で一糸乱れぬ動きをする同調性やその練習法など競技の魅力に迫るとともに、自身初となる五輪への思いを聞いた。

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8人が織りなす「チーム」ならではの一体感と迫力

日本らしさを表現するためにテクニカルルーティンでは「空手」を、フリールーティンでは「祭り」を表現するマーメイドジャパン 【Getty Images】

 アーティスティックスイミングは、20×25メートル以上で水深3メートルという大きく足のつかないプールの中で、音楽に合わせたさまざまな演技の芸術性や表現力の得点を争う競技です。東京五輪では、「デュエット」と「チーム」の2つの種目が女子のみ行われます。「デュエット」は2人1組で行われるため、2人ならではの阿吽(あうん)の呼吸というかコンビネーションが見物ですね。私は8人で演技する「チーム」が専門ですが、上から見た時の構図の美しさやリフトなどのダイナミックな演技にぜひ注目してほしいです。

 チームは8人が同時に演技するので、間延びしていないコンパクトな隊形のほうが見栄えがいいんですよね。上からの構図によっては、広がっていたほうがキレイに見えることもありますが、ギュッと小さな隊形になっているほうが飛沫(しぶき)の一体感にもまとまりがあるように見えます。

 演技は2分20〜50秒の曲の間に決められた8つの動きを入れる「テクニカルルーティン(TR)」と、3〜4分の曲の中で自由な構成を組める「フリールーティン(FR)」の2種類があります。日本代表はTRとFRの両方の演技で「和の要素を取り入れている点」が特徴です。技術面がより重視されるTRでは、決まった技や形がある「空手」の演目を採用しています。日本らしさをしっかり表現できるように、事前にみんなで道場に行って、道着を身につけて稽古をしてもらったんですよ。空手の形を指先の角度までしっかり表現しているので、チェックしてみてください。

 FRは自由な構成で演技できるからこそ、芸術性や独創性の高さが評価されます。独自性を出すためにも、日本の「祭り」を演目に取り入れています。日本が誇る本場の祭りを肌で実感するために、実は徳島に行って阿波おどりを体験したんですよ。現地で感じた祭りの雰囲気を演技にもうまく取り込んでいます。東京五輪では、観戦している方がお祭り感覚を一緒に楽しめるような演技を披露したいです。

 アーティスティックスイミングは水中の競技なので、水中でずっと練習していると思っている方も多いかもしれません。でも実は陸での練習もすごく大事なんです。1人でも動きがズレると、構図が全部ズレてしまう競技なので、陸上で足と手の動きや角度を全部合わせています。その後に水中の練習に移りますが、また動きが乱れてきたと感じたら、陸に上がって完璧にできるようにします。陸上できたことを水中でできるように練習を重ねるのが基本なんです。

厳しくも優しい井村コーチ(中央)のもと、マーメイドジャパンは日夜練習に励んでいる 【写真は共同】

 同調性が重要な競技なので、8人が同一人物であるかのように見えるのが理想ですね。でもメンバーそれぞれ体の作りも感覚も違うので、合わせることは競技歴が長くなっても本当に大変だと感じます。例えば、角度については30度、45度、60度、90度と決まりのポジションがありますが、「自分では30度だと思うけど、人から見たらズレていた」ということもしょっちゅうで、感覚で覚えるしかありません。体格もできる限りメンバーに合わせる努力をしています。

 海外の選手に比べて、日本の選手は小柄で華奢(きゃしゃ)です。そのため、ウエイトトレーニングで胸板を厚くしたり、肩幅を広くしたりすることを心がけています。また、脚のラインもキレイなほうがいいので、バーレッスンで脚を締めるトレーニングをしています。また、腿(もも)が太くなるという理由で、コーチからは「自転車に乗るな」と言われています。

 そのコーチとは、もちろん井村雅代ヘッドコーチのことです。“メダル請負人”とも呼ばれていて、厳しい指導は有名ですよね。周りからは「鬼コーチ」と言われていますが……それは嘘ではないですね(笑)。でも井村コーチは、実は誰よりも優しい方で選手思いなんです。できないことがあって困っている時は一緒に考えてくれますし、親身に話を聞いてくれたうえで練習を見てくれます。

 そんな井村コーチに言われて心に残っているのが「何でできたことがある自分を信じられないの?」という言葉です。練習で今までできていたことができなくなった時に、「以前のあなたならできたこと。自分を信じてやり続けなさい」と言葉をかけてくれたことがすごく胸に響きました。自分よりも先生のほうが私たちのことをわかってくれていると思うくらい、選手のことを理解してくれている愛情深いコーチなんですよ。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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