堀米雄斗が閃く誰も真似できないトリック ストリートが育んだスケートボードの才器
東京五輪のスケートボードで金メダル獲得が期待される堀米雄斗に、競技の魅力と普及への思いを聞いた 【写真は共同】
6歳からスケートボードを始め、日本国内のトップ選手として活躍していた堀米は、高校卒業後に渡米。本場・米国に身を投じると、瞬く間に世界最高峰の「ストリート・リーグ」を筆頭に、数々のコンテストで優勝を飾り頭角を現す。そして、一流プロスケーターの証しでもある「シグネチャー・モデル」のデッキ(板)が発売されるなど、その地位を不動のものとしている。
そんな堀米がこだわるのは、「他の人がやらないトリック」。年齢に似合わぬクールな表情と落ち着いた佇(たたず)まいで、見たこともないような難しいトリックを次々と決めるのが堀米のスタイルだ。はたして金メダル候補にも挙げられる東京五輪では、どんなトリックを見せてくれるのか。競技の普及を強く願うスケートボード界のスターに、五輪に懸ける思いを聞いた。
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高得点のポイントは「カッコよさ」
堀米が得意とするストリートは、レールなど街中にある物を模したセクションを使ってトリックを決める 【写真は共同】
僕が得意としているストリートは、持ち時間45秒間の滑りを競う「ラン」を2回と、一発勝負の大技の完成度を争う「ベストトリック」5回の計7回のうち、高得点の4回の得点の合計で順位が決します。トリックの難易度や成功率、スピード、構成、見せ方、オリジナリティなど滑りを総合的に採点したうえで決定します。ミスをするとその瞬間に減点の対象になるので、トリックを正確にカッコよく決める必要がありますね。
また、街中をスケートボードで駆け巡る感じのコースも特徴です。ハンドレール(手すり)やステア(階段)、レッジ(縁石)、ベンチなどを模したセクション(障害物)を使ってジャンプや回転などのトリックを繰り出します。ハンドレールやレッジにデッキを当てて滑る「スライド」、デッキとウィール(車輪)をつなぐ金属部分を当てて滑る「グラインド」、デッキを回転させる「フリップ」などが基本的な技ですね。
僕はストリートを中心にプレーしていますが、「他の人がやらないトリック」を繰り出すことにこだわっています。新しくトリックを生み出すというよりは、すでに人がやっているのをアレンジして、自分にしかできないトリックに改良するイメージですね。誰かのプレー映像を見ている時に思い浮かんだり、父親もスケーターなのでアイデアをもらったりします。トリックの種類は何千とありますが、僕のオリジナルも5〜6種類ありますね。
東京五輪で披露する予定なのが、「スイッチバックサイド180ノーズグラインドフェイキー」というトリックです。でもトリックの名前だけを聞いてもよく分からないですよね(笑)。僕は右足が前に出るグーフィーのスタンスなので、「スイッチ」でスタンスと逆の左足を前にして進み、オーリーで逆スタンスのままジャンプ。そして、「バックサイド180」で板に乗ったまま空中で後ろ向きに180度回転し、「ノーズグラインド」で前輪の金属部分をレールに当てて滑るトリックです。スケートボードを初めて見る方には、細かい部分まで把握するのは難しいと思うので、ぜひ滑りのフロー(流れ)やトリックのカッコよさに注目してください。
スケートボードの得点は、トリックのチョイスといかにカッコいい滑りができるかで決まる。自分らしいスタイルの滑りを見せられるかが勝負になる 【Getty Images】
だからこそ、競技を見る際はそれぞれのスタイルに注目すると面白いと思います。たくさんスケーターがいる中でもみんな個性が違うので、それぞれ滑り方も異なります。どのスケーターもコンテストに出場するだけでなく、ストリートでの自分の滑りを撮影し、カッコいい映像を制作しています。InstagramなどのSNSで調べるとスケーターの映像作品が見つかるので、「あっ、この人カッコいいな」と興味を持ったところから好きなスケーターを見つけるとすごく楽しいはずです。
だから僕は、おすすめのスケーターやライバルは誰かと聞かれても、「それはそれぞれの好みによります」と答えますね。ただ、どうしても誰か一人と聞かれれば、やっぱり僕に注目してほしいです。僕のスタイルの特徴は“軽い滑り”です。みんなからは「難しいトリックでも簡単に見える」と言われるんですよ。プレー中の表情も変わらないので、周りからは「緊張しなさそう」と言われますが、実はめっちゃ緊張するタイプなんです。特に1本目のランでは足がすごく固まっています。緊張しすぎて、無表情になっているんだと思います。