連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

欠端瑛子が司る「静寂に伝う音の攻防戦」 回転投げを操る日本ゴールボールの得点源

C-NAPS編集部

ゴールボールは高さとパワーが有利になるスポーツ

野球のことはよくわからないと言いつつも、欠端は元プロ野球選手の父・光則氏(写真左)にも感謝の意を表した 【写真は共同】

 東京パラリンピックで日本のライバルになるのは、ロシア、トルコ、中国、ブラジルだと思います。中でもリオデジャネイロ大会で金メダルに輝いたトルコは強豪国です。特にエースのセブダ・アルティノルック選手には注意しなければなりません。身長が高くて手が長いので、投げる時に鞭(むち)のようにしなるんですよ。男子並みの力強いバウンドを投げてくるので脅威ですね。

 その他の注目選手としては、ロシアのイリーナ・アレストバ選手です。グラウンダーのボールがすごく速いうえに、コントロールが非常に良いですね。隙を見せると、本当にそこばっかり狙ってくるので、“イヤな”選手です。セブダ選手もイリーナ選手もそうですが、身長の高い選手はゴールボールにおいて有利になります。私も165センチと日本では高いほうなので、センターとの守備範囲の隙間をなくす意味でも強みになっていますね。

 ちなみに、ボールを投げるうえでパワーが必要ですが、投げることに関してはよく父(欠端光則氏)のことを尋ねられます。父は(ロッテや横浜で活躍した)元プロ野球選手なので、「アスリートの血を引いている」ことに注目してもらえます。でも野球のことはよく知らないし、運動神経を引き継いだと思ったこともないんですよね。父親からも「魔球を作れ」とアドバイスされたことがありますが、よくわからなくて……(笑)。でも、自分の好きなことを両親が快くやらせてくれたからこそ、今の自分があるとすごく感謝しているんですよ。

パラリンピックでの金メダル獲得で家族に恩返しを

現在は「ゴールボール一筋」という欠端。東京パラリンピックでの金メダル獲得で、応援してくれる人たちへの恩返しを果たしたい 【写真:日本ゴールボール協会】

 コロナ禍の影響で、東京パラリンピック開催が議論の的になっていますね。ゴールボールはもともと観客が静かにしなければいけない競技なので、仮に無観客になったとしても十分にプレーできると思っています。また、近年は国内大会でのライブ配信にも力を入れていて、解説を聞きながらゴールボールの映像を見られるようになりました。会場以外でもゴールボールを楽しめる手段は増えているので、もっと競技を普及させたいですね。

 パラリンピックが開催されるかどうかは正直わからないところもありますが、私たちは強くなるしかないんです。どんな形でも開催されるのであれば、必ず金メダルを取って応援してくれる人たちに恩返しをしたいと思っています。私自身が競技を続ける一番のモチベーションは、恩返しです。いろいろな人に支えてもらっているので、メダルを取って結果を残すことでその思いを形にしたいです。

 私が一番に恩返ししたいのは、やっぱり家族ですね。遠征や合宿、道具などの費用を出してくれたり、休みの日には家族そろって応援に来てくれたりと、本当に感謝しています。母からは「東京の後は、パリもロスもママを連れていってね」と言われているので、体が動く限りは挑戦し続けるつもりです。母は観光を楽しみにしているのかもしれませんが(笑)。

 引退後はもしかしたら競技の普及活動をしているかもしれないし、指導者になっているかもしれません。でも先のことはまだ想像がつかないですね。20代の大半を競技に捧(ささ)げてきましたが、28歳となった今もゴールボールのことしか考えられないんです。パラリンピックで世界一になって、長年の夢の実現を願っています。

(取材・執筆:久下真以子)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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