欠端瑛子が司る「静寂に伝う音の攻防戦」 回転投げを操る日本ゴールボールの得点源
3大会連続でのパラリンピック出場を決めている欠端瑛子が、競技の魅力や普及への思いについて語った 【写真:日本ゴールボール協会】
欠端は、「先天性白皮症」によりメラニン色素が少なく、目にも弱視の障がいを持って生まれた。外で遊ぶことは好きだが、「スポーツは嫌い」という彼女の人生の転機になったのは盲学校での体育の授業だった。最初は単なる授業の一環だったが、友人の誘いで大会に出るようになるとメキメキと頭角を現す。そして、わずか2年後にはロンドンの地で世界の頂点に立つなど、一躍してシンデレラガールとなった。
将来有望な若手という立ち位置から成長を遂げて、現在は押しも押されもしない日本のエースになった欠端。代表内定を決めている東京パラリンピックで目指すのは、もちろんロンドンの再現だ。コロナ禍で開催が危ぶまれている夢舞台に向けて何を思うのか。競技の楽しみ方や観戦のポイントとともに、周囲に伝えたい感謝のメッセージも聞いた。
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相手を惑わせる「音」によるだまし合いの競技
広いコートを視界ゼロで3人で守るだけに、メンバー間の連係は重要だ。欠端(写真右)も日本の組織力には自信を見せる 【写真は共同】
コートはバレーボールと同じ9×18メートルの広さで、試合時間は前半12分・後半12分の計24分で行われます。幅9メートル、高さ1.3メートルの広さのゴールを3人で守りつつ、24分間も見えない状態で動き回るので、ものすごく疲れますね(笑)。選手たちはボールの音や足音などの聴覚情報や人の気配など頼りに攻防を繰り広げるので、観客の皆さんはプレーが止まっている時や得点時以外は声を出さないのがルールです。試合中に「お静かに!」のボードが掲げられる独特の雰囲気を楽しめると思います。
また、鈴の入った音の鳴るゴム製のボールもゴールボール特有のアイテムですね。実は1.25キロもあってすごく重いんですよ。守備の際は当たるとすごく痛い思いをします。アイシェードを吹っ飛ばすボールも来ますし、体全体で守るので突き指やアザなんかはしょっちゅうですね。ボールの投げ方も選手によってさまざまです。ゴールから6メートルのライン手前でワンバウンドさせ、中央のニュートラルエリア内でツーバウンド目をさせられればどんな投げ方でもOKなんですよ。ベーシックに下手投げをする選手もいますし、ブラジルの選手は股の間からバウンドさせて投げることもあります(笑)。
3人のポジションはセンター・レフト・ライトの3つに分かれています。センターは真ん中にいる分より多くボールが来るので、ディフェンス力や司令塔の役割が求められますね。レフトとライトに関してもディフェンス力は大事ですが、攻撃力に重点を置く選手が配置される傾向にあります。私はレフトのポジションを担当しています。
欠端の代名詞とも言えるのが「回転投げ」だ。遠心力を生かしたこの投法は日本の得点源となっている 【Getty Images】
日本はロンドンパラリンピックや2018年のアジアパラ競技大会で金メダルを取っていますが、強さの秘訣(ひけつ)は組織力です。特に声のコミュニケーションで連動した動きができるので、ディフェンス力に優れていると思います。ただ、視界ゼロの状態で的確にコミュニケーションを取るのも非常に大変です。試合中は目まぐるしく展開が移り変わるので、伝えたいことを手短に話さなければなりません。私はたまに口が回らなくて、カミカミになっちゃうことがありますね(笑)。
ゴールボールは仲間との連係が重要ですが、ゴールを奪う投球術も同様に重要になります。私個人のプレーで注目してもらいたいのは「回転投げ」です。自分の体を一回転させることで、その遠心力を使ってボールを投げる手法です。遠心力がかかることで鈴の音が鳴りにくい、投球に勢いが出るという2つのメリットがありますね。以前までは日本人の女子には回転投げができる選手がいませんでしたが、1〜2年前に男子のコーチに教わって習得しました。今では私の武器となっています。