山本恵理が精魂を込める「3秒のロマン」 パラパワーリフティングを彩る美しき挙上
パラパワーリフティングで日本女子選手初となるパラリンピック出場を目指す山本恵理に、競技の魅力について聞いた 【写真:西岡浩記】
先天性の「二分脊椎症」により生まれつき足が不自由だった山本は、9歳から水泳を始める。パラリンピック出場を目指して努力を重ねたものの、高校2年の時のケガでその夢を断念。しかし、北京・ロンドン・リオデジャネイロと3大会のパラリンピックで通訳やメンタルトレーナーとして関わり、スタッフとしてパラリンピックを支え続けてきた。
そんな山本がパラパワーリフティングに出会ったのは2016年5月。競技歴わずかで女子55キロの日本記録をマークし、現在では「選手として」東京パラリンピック出場に挑んでいる最中だ。
普段は日本財団パラリンピックサポートセンターの職員としてD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)社会の実現に向け奔走する山本の願いは、「パラリンピックを通して社会を変えること」。自身が出場する意義をどう感じているのか。また、延期された東京2020について、何を思うのか。「3秒のロマン」とも称される競技の楽しみ方とともに、観戦する人に伝えたいメッセージを力強く語ってもらった。
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事前に重さを申告する「有言実行の競技」
パラパワーリフティングでは力強さに加えて、「美しさ」が求められる。挙上のフォームも試技において重要なポイントとなる 【写真は共同】
その際に「胸の止めができているか」「左右均等に真っすぐ挙げられているか」などがポイントです。挙上のフォームは審判に厳密にジャッジされます。審判は3人いて、しっかりルールにのっとって挙げることができたと判断したら白の旗、そうでなければ赤の旗をそれぞれ上げます。3人中2人以上が白の旗を上げれば、その試技は成功。大会では3回の試技の中で、成功した一番重い挙上が記録となります。また、新記録を狙う場合のみ、特別試技(第4試技)が認められるケースもありますが、こちらは大会の結果には反映されません。
私が目指すのは、「メリハリのある挙上」です。胸の止めをしっかり見せることが大事なのですが、バーベルを下ろす時に速すぎると止まらないことがあるんですよ。とは言っても、ゆっくりすぎると反対に止まったように見えにくいので、最適な速度をいつも模索していますね。挙げる時は、左右の差がでないように一気に挙上することを心がけています。一定の速度で下ろして、しっかり止めて、速く挙げる。ベンチプレス台では「スー、ピタ、ドン!」と頭の中で唱えているんです。観戦している人も一緒に言っていただけたら嬉しいですね(笑)。
また、何キロに挑戦するかを先に申告する点もパワーリフティングの特徴です。自分で決めた重さのバーベルを挙げるという意味では、「有言実行を重ねるスポーツ」と言えますね。まさに自分との戦いです。バーベルを挙げる時間はたった3秒くらいしかないのですが、心技体のすべてを出し切ることで自身の限界に挑みます。その緊迫感やドキドキ感を見ている人に一緒に感じていただきたいですね。「3秒のロマン」に込められた、それぞれの選手の儚(はかな)くも美しいストーリーがあるんです。
山本の存在感を際立たせるのがコーンロウのヘアスタイルと鮮やかなネイル。もはや大会に臨むうえでそのスタイルはルーティンとも言える 【写真:西岡浩記】
でも、私は重いものを挙げる姿だけでなく、挙上の美しさや選手の思いにも注目してほしかったんです。そこで、女子選手ならではのきっかけづくりとして、おしゃれにポイントを置くようにしました。今ではこのスタイルにすることが試合へのスイッチにもなるので、いいルーティンになっていますね。
スポーツを見る際は、いろんな入り口があっていいと思うんです。例えば、カープ女子(※プロ野球・広島東洋カープを応援する女性ファン)には推しメンがいるのと同じように、「あの選手を見に行ってみたい」と思ってもらいたいですよね。「あのコーンロウの選手は誰だ?」と興味を持ってもらい、実際に会場に足を運んでもらって他の選手のファンになったらそれも素敵なこと。競技自体に興味を持ってもらったり、私のファンになってくれたりしたら、なおさら嬉しいです。パラパワーリフティング観戦のきっかけになる存在でありたいと思っています。