ベテラン後藤満久選手が第一線で戦い続ける理由とは

チーム・協会

【【クボタスピアーズ(ラグビー)後藤満久選手】】

クボタマンから発せられた一言 「闘争心」

「俺から闘争心取ったらアカンやろ」

今季13年目の後藤満久選手から出た一言。

2020年9月に千葉県内で行った合宿中、グラウンドから宿舎への帰り道で、さも当たり前のように言った。

その一言を聞いた時、ある光景を思い出した。



2014年10月、ジャパンラグビートップリーグ公式戦、クボタスピアーズvs 宗像サニックスブルース戦でそれは起こった。

この日2番で先発出場していた後藤選手は、相手チームとのラックの攻防で相手選手と言い合いになった。ボールが動いていない所での出来事なのでビデオにも映っていない。単なる言い争いか、接触を伴う乱闘かは定かではない。しかし、互いに激しく争ったこと、そして相手がジャック・ポトヒエッター選手だったことは鮮明だ。

ジャック・ポトヒエッター選手は宗像サニックスブルースに2014から2018年まで活躍。
196cm,115kgの巨体と、とにかく激しいプレーで、この試合、特に注意する選手だった。

そのジャック・ポトヒエッター選手と激しく言い争う後藤選手。
互いに興奮状態。
公共の場で表せる表現で、やんわりと両者の言っていたことを表すと

「お前の顔は覚えた、次のプレーで見ていろ。」

といったものだ。

もちろん後藤選手は日本語、ジャック・ポトヒエッター選手は英語。だが、両者は確かにある意味で通じ合っていた。

言葉じゃない、理屈じゃない、戦う姿勢と態度を示さなければいけない場面がラグビーにはある。
この時は、まさにそれだった。

それから6年。
35歳になった後藤選手は、クボタスピアーズでは上から2番目のベテランになっていた。

闘争心、後藤選手はこの言葉を体現したような選手だ。


クボタスピアーズの今シーズンの戦力は充実だ。
重くて高いフロントファイブ(スクラム前5人の総称)
機動力も突破力もある第三列(フランカーとN0.8のこと)
判断力に優れたハーフ陣(スクラムハーフとスタンドオフ)
高いスキルと経験豊富なセンター陣に
決定力が楽しみなバックスリー(ウィング、フルバックのこと)

その中でも今シーズン目玉となる補強はフッカーのマルコム・マークス選手の加入だろう。
ラグビーワールドカップ2019で南アフリカ代表をで世界1位に導いた、若く大きな新戦力は、クボタスピアーズ初の外国人フッカーとして、あらゆる場面で活躍が期待されている。

フッカーは激戦区だ。
ここ数年、先発で出場し続け、強さと巧さを兼ねそろえた杉本選手。
昨シーズンはリザーブとして安定したパフォーマンスを見せた成長中の大塚選手。
セットプレーはもちろん、まるでフランカーのようなワークレートが持ち味の大熊選手。
新卒で今季加入、フッカーという新しいポジションで才能を活かそうとする積選手。
そして、後藤選手だ。

フッカーは、先発で1人、リザーブを入れても2人しか試合に出場できない。
しかし、チームに在籍しているフッカーは5人だ。

この点をポジションで一番の古株である後藤選手はどう考えているのか聞いてみた。

「昨シーズンは多くの選手が退団した。
 その中で、自分が今シーズンもチームにいることの意味は分かっている。
 知識や技術の指導、チームの士気を上げること、新人の育成。
 今シーズンは特にそうしたことを意識してラグビーに取り組んでいる。」


チームが勝利するために必要なことは、まずは出場している選手のパフォーマンス。
しかし、そのパフォーマンスのためには、出ていない選手たちやコーチ・スタッフのサポートは不可欠だ。

昨シーズンのクボタスピアーズのスローガンは「ONE」
まさにチーム一丸となり、出場する・しないに関わらず、全員で勝利を目指してきた。

スピアーズには試合に出場していない選手のことを、敬意を込めてバックボーナーズと呼ぶ。

チームに最も貢献する選手のことをクボタマンと呼ぶ。

今季5年目となるフランヘッドコーチは、そうしたチームが一枚岩になる文化を作り上げてきた。

そんなチームのベテラン選手、そして「クボタマン」の一人として、後藤選手は自分の存在意義を確かに理解している。

「しかし」 と後藤選手は続ける

「どんな立場であろうと、自分は第一線でいたい。
 ラグビー選手は試合に出ることが最大の価値。自分がベテランだろうと、チームのためだろうと自分は試合に出たい。戦いたい。俺から闘争心を取ったらアカンやろ。」


そこには6年前のあの時と同じ目をした男がいた。
ラグビー選手として、戦う者として、もっともシンプルかつ本質的な戦う理由「闘争心」

この時、後藤選手は満身創痍。いくつかの怪我を抱えた中グラウンドに立っていた。

どんな状態でもグラウンドに立ち続けようとするその姿勢は闘争心の表れか、それとも単純に彼の美学か。
どのような理由にせよその背中は、自然とチームの空気を引き締める。

現状に満足せず、ぬるま湯には浸からず、第一線でいようとグラウンドに立ち続ける。

そうした戦う姿勢こそが、チームの士気を上げ、クボタマンと呼ばれる存在になる。

ラグビー選手は戦士だ。

戦士は戦場でこそ、その価値が問われる。

ラグビー選手が戦士でいるために、選手は今日もグラウンドで走り続ける。

文:クボタスピアーズ広報 岩爪航
写真:チームカメラマン 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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