コロナ禍の特別な大会を制した山梨学院 様々な制限を乗り越えた「選手権」の力

平野貴也

山梨学院(山梨)が11年大会ぶり2度目の優勝を飾った 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 第99回全国高校サッカー選手権大会は11日に埼玉スタジアム2○○2で決勝戦を行い、山梨学院(山梨)がPK戦の末に青森山田(青森)を破り、11大会ぶり2度目の優勝を飾った。

 試合は90分を戦って2-2の同点だった。山梨学院が電光石火の鮮やかな速攻で先制。右サイドからのパスを受けたMF広澤灯喜(3年)がブロックに来た相手2人の間を射抜くシュートを決めた。しかし、優勝候補筆頭の青森山田は後半に逆転。ロングスローのこぼれ球をDF藤原優大(3年、浦和に加入内定)が押し込むと、6分後に右サイドを連係で崩し、通算5得点目で得点王となるMF安斎颯馬(3年)がさらに加点した。

 押し込まれ続けた山梨学院にとっては苦しい展開だったが、終盤の速攻で相手の一瞬のミスを逃さず、FW野田武瑠(3年)が値千金の同点弾をたたき込んだ。延長戦では得点が生まれず、PK戦に突入すると、山梨学院のGK熊倉匠(3年)が、中学時代のチームメートである安斎のシュートを阻むなど活躍。PK戦4-2でようやく熱戦に終止符が打たれた。

 最後まで互いに譲らない激闘を終え、山梨学院を率いる長谷川大監督は「ここに残った2チームが、高校を代表して勝ち負けを超えて(積み重ねてきたものを)表すような試合になったかなと思うと、すごく良かったと思います」と気持ちを表現した。

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コロナ禍での開催は、試合への影響も生まれた

今大会は無観客開催によって、例年とは異なる雰囲気で行われた 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 2020年度はコロナ禍で春から夏の活動が大きく制限され、インターハイ中止など多くの選手が目標を失う苦しみを味わった。冬になっても、同時期に開催された高校生のバスケットボールやバレーボールの全国大会では、感染や感染疑いによって棄権せざるを得ないチームが出てしまった。同じような状況が十分に起こり得ただけに、まずはすべてのチームが戦い切れたことが素晴らしく、決勝で惜しくも敗れた青森山田の黒田剛監督は「選手権の開催を信じて積み上げられたものがあった。その間の選手の取り組みには、頭が下がる思い」と話し、最終日まで開催を続けた大会関係者と、最後まで戦い抜いた選手に感謝を述べた。高校サッカーの最も象徴的な大会である「選手権」が無観客ではあったものの開催され、都道府県代表48チームが、全47試合を完遂。その最後に、これぞ高校サッカーという熱い戦いを見せたことには、大きな価値がある。

 もちろん、コロナ禍での開催は、通常と同じというわけにはいかず、試合への影響も生まれた。画面越しに伝わったかどうかは分からないが、今大会は無観客開催によって、例年とはかなり異なる雰囲気で行われた。全国高校サッカー選手権はファンが多く、例年どの会場も多くの観客が入る。多感な高校生たちが、初めての大観衆の中で良くも悪くもメンタルを左右されて戦うため、異様なほど勢いに乗ったり、パニックに陥ったりというハプニングが多々起こる。しかし、今大会では観客が生み出す、選手権独特の試合の流れがなかった。

 例えば、山梨学院が帝京長岡を破った準決勝の第1試合(2-2、PK3-1)。山梨学院が2-0から1点を返された直後、例年なら、判官びいきの観衆によって試合の流れが帝京長岡に大きく傾く時間帯になったはずだが、山梨学院が思ったほど混乱せずに立て直した。長谷川監督に話を聞くと「本来であれば(歓声で)かき消されしまいますが、今年は声が通る。チームとしても試合の中の修正もしやすく、試合の中でのコントロールも互いにやり合えます」と無観客開催の影響を認めつつ「もし観客がいたら、もっと慌てていたかもしれません。ただそれは、前半に(先制した後も)私たちに多くのチャンスがあったところで、(相手が慌てて)もっと点差を離せたんじゃないかというのも一緒(セット)だと思います」と付け加えた。指摘通り観客の影響は、どちらにも転び得る要素だ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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