駒澤大・大八木監督は「唯一無二の存在」 早大OB八木勇樹氏が復路の逆転劇を分析

構成:スポーツナビ

青山学院大は往路の結果を吹っ切って実力を発揮

優勝候補に挙げられた青山学院大は総合4位。だが、近藤(右)らの力走もあり、復路では優勝を果たした 【写真は共同】

――復路優勝は青山学院大で、総合順位は4位となり、往路の12位から大きく巻き返す結果になりました。

 青山学院大については、単純に“強いチーム”だという印象を受けました。復路は5人とも区間2位から4位に入り、チームとして強かったのだと思います。

 優勝候補の筆頭でしたが、レースで勝ち切るためには、流れを作ることだったり、エースの活躍だったり、いろいろな要素が必要になります。今回は主将の神林選手がケガのため欠場しましたが、その点が大きく響いたと思います。報道によると、本来なら3区を走る予定だったそうですが、その影響がモロに出てしまったかもしれません。「エースが抜けたから、次に力のある選手を代役に使う」という単純な話ではなく、オーダーを組み直すには、復路まで影響が出てしまいます。チームには事前にそれが知らされていたと思うので、もしかしたら、それがほかの選手の動揺や失速にもつながってしまったかもしれません。

 ただ、復路は吹っ切れた部分もあって、きちんとそれぞれが単独走で走り切り、復路優勝につながったと思います。こういうところが青山学院大が常に優勝候補に挙げられる理由なのかなと。チーム状況が悪くても、きっちりと自分たちの力を出し切り、次のレースにつなげられる。全盛期よりはチーム力は落ちているかもしれませんが、まだまだ“王者のチーム”でした。

「再び全盛期を迎える」大八木監督のすごさ

大八木監督は少しずつスタイルを変えながら、再び全盛期のような強さを取り戻そうとしている。左は駒澤大OBで東京五輪マラソン代表の中村匠吾 【写真は共同】

――今回の箱根駅伝を通して印象に残った点は?

 一番は、駒澤大の大八木弘明監督です。駒澤大で一度、チームとしての全盛期を呼び込み、指導スタイルを確立。その指導を受けたいエース級の選手が集まってきました。ただ、近年は箱根駅伝の優勝から遠ざかり、なかなか勝てない時期が続き、今は指導スタイルを変えていると聞いています。それでも、東京五輪マラソン日本代表の中村匠吾選手を育てたり、今回の総合優勝を果たすなど、再び全盛期を迎えようとしているところがすごいです。

 大八木監督のように、一度確立した確固たる指導スタイルを持っていた人が、時代に合わせてスタイルを変え、再び全盛期を迎えるというのは、今の陸上界では唯一無二だと思います。来年以降も、大八木監督が育てる選手に注目していきたいです。

 あと、創価大は9区で区間賞を取った石津選手や、7区の原富選手、1区の福田悠一選手が4年生。快走を見せた選手が抜けることになりますが、残った選手たちで再び優勝を狙えるチーム力を保てるか。榎木和貴監督も、本来なら優勝できたレースだっただけに相当悔しかったと思うので、来年も注目したいです。

――優勝した駒澤大は1、2年生も多く出場し、連覇も期待できそうですね。

 これは難しいところで、下級生を中心に勝てたからといって、来年も勝つとは限りません。特に今回はいろいろな要素が組み合わさった結果でしたので。やはり青山学院大が復路で1枚上手でしたし、来年も優勝候補に挙げられるのではと思います。

 また新型コロナウイルスの影響で、どのような年間スケジュールを組むべきなのかも再考する必要があるかもしれません。スピードを磨きながらも、きちんと距離を積むトレーニングをしないと駅伝で勝てないことは、今回のレースで分かったと思います。

 これまで「箱根駅伝から世界へ」という図式が疑問視され、駅伝はトラック競技やマラソンとは別物ととらえる選手も多かったと思います。しかし、東京五輪の選考結果を見ても分かる通り、箱根で大舞台を経験し、活躍した選手が、世界への切符を手に入れています。最近は、シューズの影響もあると思いますが、レースの高速化によって、選手のスピードのベースは一段高くなっています。それによりどの大学もレベルが上がっていて、単なる学生の大会以上のパフォーマンスが見られるようになりました。

 そういった意味でも、このようなコロナ禍の中で、箱根駅伝を開催してもらえたことには、感謝しかありません。大きなイベントはリスクが伴い、運営には多大なエネルギーが必要です。それもで、全日本大学駅伝と箱根駅伝を開催できたことは、ほかの陸上大会開催への指針にもなります。その点でも、今回は大変意義がある大会になったと思います。

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