【第104回日本選手権】展望:男子トラック編

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【フォート・キシモト】

新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となっていた第104回日本選手権が、10月1〜3日に開催される。舞台となるのは新潟市のデンカビッグスワンスタジアム。2015年に第99回大会が行われた場所だ。
今年の日本選手権は、本来であれば、夏に開催される東京オリンピック代表選考会として、6月下旬に大阪で開催されていたはずだった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、そのオリンピック自体が1年延期に。また、4月に政府から緊急事態宣言が発令されたことにより、日本の陸上界は、6月末までの約3カ月間、競技会の開催にとどまらず、日常のトレーニングを含む活動そのものが大きく制限される状態を余儀なくされた。
こうした未曾有の事態が続くなか、さまざまな対策が練られ、7月から本格的に競技活動がリスタート。日本選手権についても、別に行われる混成競技、長距離を含めて会期が再設定され、感染予防のための万全の措置をとったうえで開催されることとなった。新潟では、9月26〜27日に長野で開催される男女混成競技(十種競技、七種競技)、12月4日に大阪で開催される男女5000m、10000m、3000m障害を除くトラック&フィールド30種目(男女各15種目)の“日本一”が競われる。
世界陸連(WA)が各国間の公平性に配慮して、4月6日〜11月30日の期間は、オリンピック参加にかかわる諸条件(参加標準記録、ワールドランキングポイント)の適用を凍結しているため、この大会でどんなに高い水準の記録をマークしたとしても、オリンピック出場には直結しない。しかし、“2020+1”となった東京オリンピックでの活躍を期す競技者たちが、この大会を“五輪へのマイルストーン”としてどう位置づけ、どう戦うかは、来季を占う上で非常に興味深いといえるだろう。また、“オリンピック代表争い”という観点以前に、「日本一を決める競技会が開催できる状況になったこと」「競技者たちが、そこで存分に戦えること」は、出場者はもちろん、私たち陸上競技を愛するすべての者にとって、大きな喜びや希望となるはずだ。
無観客開催で実施するスポーツイベントが多いなか、今回の日本選手権は十分な感染予防対策を行った上で、各日2000人を上限に観客を受け入れることになった。しかし、その対象は新潟県在住者となるため、残念ながらその他の地域に住む陸上ファンの現地観戦は叶わない。競技の模様は、NHKがテレビ放映を行うほか、インターネットによるライブ配信も実施される予定なので、ぜひ画面を通じて、熱い声援を送っていただきたい。これらの放映・配信スケジュールのほか、タイムテーブルやエントリーリスト、記録・結果の速報、競技者たちの声は、日本選手権特設サイト( https://www.jaaf.or.jp/jch/104/ )や日本陸連公式SNSにおいて、随時ご紹介の予定。観戦に役立てていただきたい。
ここでは、トラックとフィールドに種目を分けて、各種目の見どころをご紹介しよう。

※記録・競技会等の結果は9月24日時点のもの。欠場に関しては9月29日発表の情報を追記している。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

【フォート・キシモト】

【男子トラック】
◎短距離(100m・200m・400m)

活況が続く男子100mは、今回もやはり注目種目の筆頭といえる。前回は、9秒97の日本記録保持者として臨んだサニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大)が、100m・200mで2年ぶり2回目のダブルタイトルを達成した。アメリカ・フロリダ州を拠点にするサニブラウンは、今大会は出場を見送ったが、それでも注目選手は目白押し。気象条件にもよるが、優勝争いはもちろんのこと、決勝進出ラインも含めて、今年もハイレベルかつスリリングな戦いが期待できそうだ。
優勝争いの核になるとみられるのは、桐生祥秀(日本生命)とケンブリッジ飛鳥(Nike)の2人。9秒98の自己記録をもつ桐生は、8月1日の初戦を10秒04(+1.4)で“シーズンイン”すると、8月10日には200mで20秒51(+1.4)をマーク、オリンピック会場となる国立競技場で開催された8月23日のゴールデングランプリ(GGP)では予選を10秒09(+0.7)で通過すると、向かい風(-0.2m)となった決勝は10秒14で優勝を果たした。中5日空けて臨んだアスリートナイトゲームズイン福井(ANG)では、予選・決勝ともケンブリッジに先着されたものの10秒07(+0.9)・10秒06(+1.0)と連戦最後の試合を10秒0台でまとめてみせ、高いレベルの安定感を印象づけた。一方のケンブリッジは、7月末の東京選手権100mを10秒22(-0.8)で滑り出すと、GGPは予選でサードベストの10秒11(+0.7)、決勝では10秒16(-0.2、2位)と調子を上げ、ANGでは予選・決勝ともに桐生に先着。記録も予選で2017年にマークした自己ベスト10秒08を塗り替える10秒05(+0.9)をマークすると、約2時間のインターバルをおいて行われた決勝では日本歴代7位タイとなる10秒03(+1.0)まで更新、今季日本リストトップに躍り出た。
ここまでの経過を見る限り、記録水準といい、パフォーマンスの安定性といい、この2選手が抜け出しているといえるだろう。桐生が勝てば2014年以来6年ぶり、ケンブリッジが制した場合は2016年以来4年ぶりとなる日本選手権で、ともに2回目のタイトルを狙って、2人が9秒台で競り合う可能性は十分にある。
昨年、ロンドンダイヤモンドリーグ(DL)という大舞台で9秒98をマークした小池祐貴(住友電工)は、今季はレースを重ねるなかで徐々に感覚を取り戻していっているという印象だ。100mはANGで10秒19(+1.0)を、200mは9月6日の富士北麓ワールドトライアル(北麓)で20秒76(-0.6)をマークし。全日本実業団には出場せず、日本選手権に向けたトレーニングに入った。同じ住友電工所属で、ANGの予選で10秒18(+1.5)を出している多田修平とともに、もう一段階ギアを上げたいところだ。
リオ五輪4×100mRの銀メダル獲得をはじめとして、日本のエースの1人として活躍してきた山縣亮太(セイコー、10秒00)は、昨シーズンから続いている病気やケガの影響で、今季も苦しい立ち上がりとなった。GGPで1年3カ月ぶりにレースへ復帰したものの、予選3着(10秒42、-0.3)で決勝進出ならず。その後は、競技会には出場せずにトレーニングを積む形で準備してきたが、残念ながら9月29日、今回は欠場することを発表している。
200mを主戦場としつつも、前回、サニブラウン、桐生、小池に続いて100mで4位となった飯塚翔太(ミズノ)は、今回も両種目にエントリー。200mでは9月20日の全日本実業団で今季日本最高の20秒47(+1.2)をマークしており、優勝候補の筆頭といえるが、100mでも8月上旬に自己3番目となる10秒13(+2.0)で走っていて、日本リストではケンブリッジ、桐生に続いている。条件に恵まれれば、2017年にマークした10秒08の自己記録を更新するかもしれない。
このほかでは、学生陣では、日本学生(インカレ)で上位を占めた水久保漱至(城西大)、デーデーブルーノ(東海大)、鈴木涼太(城西大)らに勢いがある。水久保は100mには出場しないが、デーデー、鈴木、そして10秒23の自己記録を持つ宮本大輔(東洋大、ダイヤモンドアスリート=DA修了生)らは、来季を考えるならここで決勝に残っておきたい。社会人では、今季自己新をマークしている東田旺洋(茨城陸協、10秒21)や竹田一平(スズキ、10秒25)が決勝進出をうかがう。ANGで10秒28の自己新をマークし、全日本実業団も制した32歳の草野誓也(Accel)、GGPにドリームレーン枠で出場し、高2歴代2位となる10秒27を叩き出した17歳・栁田大輝(東京農大二高)の走りにも注目したい。

男子200mは、前述の通り飯塚が頭一つ抜けている状態で、2年ぶり4回目の優勝を狙っている。持ち記録や実績で考えるなら、小池(20秒23)、白石黄良々(セレスポ、20秒27)、さらにはこの2人とともにドーハ世界選手権に出場した山下潤(筑波大→ANA、20秒40)の名前を上げることができるが、果たして今年はどうか。小池は先に行われる100mの結果で状態がみえてきそう。また、同様に100mにもエントリーしている白石は、GGPでふくらはぎに不安が出た影響もあり、今回は200mをメインに据えた戦いになる模様。今年から社会人となった山下はコロナ禍の影響で十分に調子が上がっておらず、今季は20秒89(+0.8)にとどまっている。どこまで調子を上げることができるかに注目したい。
逆に、ここでトップ陣との差を一気に詰めてくる可能性を秘めているのが学生陣だ。ANGでは、追い風1.5mの好条件となった予選3組で安田圭吾(大東文化大、20秒61)・笠谷洸貴(近畿大、20秒65)・樋口一馬(法政大、20秒68)が20秒6台をマーク、さらに決勝(+0.8)ではトップでフィニッシュした安田(20秒71)と競り合って上山紘輝(近畿大)も20秒72で走っている。来季を考えるなら、もう一段上の結果が欲しいところだろう。そして、もう1人、忘れてはならないのが9月の日本インカレでこれらの選手を蹴散らし、100m・200m2冠を達成した水久保漱至(城西大)。今季は走るたびに自己記録(昨年までのベストは100m10秒35、200m20秒97)を更新し、10秒14(+1.8)・20秒65(+1.4)まで伸びてきた。日本インカレでマークした100m10秒14から考えれば、200mは20秒3〜4台で走る力はありそうだ。今回は、より上位に食い込む可能性の高い200mに絞ってエントリー。ベテラン飯塚の胸を借り、20秒5を切っての表彰台を狙う。

男子400mは、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)が勝てば3連覇となるはずだった。昨年から今年にかけて3回、アメリカ・南カリフォルニア大を拠点とする各3週間の合宿に参加し、大きく力をつけていた。8月1日には100mで従来の自己記録(10秒53、2016年)を大幅に更新する10秒30(+1.1)の自己新記録をマークしていたが、その後、脚を痛めて、GGP400mではレース途中でスピードを緩めてフィニッシュ。200mにエントリーしていた全日本実業団も出場を見合わせて日本選手権を目指したが、9月29日の段階で欠場を発表している。
ウォルシュが不在となったことで、優勝争いは混沌としてきそうだ。安定感があるのは伊東利来也(早稲田大)。7月末に自己記録(45秒79、2018年)に迫る45秒83をマークすると、GGPも同じく45秒83で優勝を果たした。日本インカレ決勝は井上大地(日本大)の後塵を拝したが、予選では45秒台(45秒98)をマークしている。昨年は世界リレーの男女混合4×400mRに出場し、同種目のドーハ世界選手権の出場権獲得に貢献したものの、世界選手権本番は控えに回った。ここで日本一の称号を手に入れることができれば、来季に向けての大きな弾みとなるはずだ。
一方、ここへ来て、勢いが感じられるのは、日本インカレで伊東をおさえた井上だ。優勝記録は奇しくも45秒83。伊東がすでに出していた今季日本最高記録に並ぶ形となった。井上は、走幅跳で国体(少年B)優勝の実績を持つなど、複数種目で中学時代から注目されていた選手。400mでは東京高2年時の2016年に46秒91を、翌2017年には400mHで50秒37をマークしている。ケガの影響などで伸び悩む時期もあったが、ようやくそのポテンシャルが開花しようとしている。このほかでは、北麓で世界選手権代表組を抑えてトップ(46秒16)となり、全日本実業団も制した佐藤風雅(那須環境)に安定感がある印象。これに続くのが、GGPと全日本実業団で2位の小渕瑞樹(登利平)、GGP・日本インカレ3位で昨年の世界リレーにも出場した井本佳伸(東海大、DA修了生)あたりか。ドーハ世界選手権4×400mRメンバーの佐藤拳太郎(富士通)、若林康太(駿河台大→HULFT)も、表彰台に上がる力は十分に持っている。

【フォート・キシモト】

◎中距離(800m・1500m)

男子800mは、前回、U20日本新、U18日本新、高校新記録となる1分46秒59をマークして高校生優勝を果たしたクレイアーロン竜波(相洋高→相洋AC、DA)が、テキサスA&M大進学のため渡米し、この大会には出場しない。しかし、クレイと同年代となる学生アスリートたちの元気がよく、GGP、日本インカレでは激しく火花を散らし合っている。GGPを制したのはクレイと同学年の金子魅玖人(中央大1年)。学生歴代とU20日本歴代でともに5位(当時)となる1分47秒30をマーク。昨年、1年生で学生タイトルを獲得した松本純弥(法政大)に競り勝った。9月の日本インカレでは、松本が学生歴代4位にランクインする1分47秒02の今季日本最高を叩き出して連覇を達成。このレースではGGP3位の瀬戸口大地(山梨学院大4年)が1分47秒28をマークして2位となり、学生歴代、そして今季日本リストともに金子の上に来た。日本インカレで1分47秒94をマークして金子(4位)に先着した3年生の根本大輝(順天堂大)も含めて、日本選手権では勝負とともに記録にも期待が持てそう。東京オリンピックに向けて、来季、まず狙わなくてはならないのは、参加標準記録の1分45秒20。まだ少し開きのあるこの水準に少しでも近づくためにも、牽制し合うことなく“記録も、勝負も”狙っていくレースを期待したい。
学生に元気があるとはいえ、持ち記録や実績、昨年のシーズンベスト(1分46秒33)などを総合的にみると、クレイに阻まれるまで6連覇中だった川元奨(スズキ)がタイトルを奪還する可能性も十分にある。今季は、GGPは前述の学生陣に先着されて1分49秒64で4位にとどまったが、9月6日の北陸実業団では 、その段階で今季日本最高タイとなる1分47秒30をマークし、のちに全日本実業団を制した梅谷健太(サンベルクス)を退けている。川元の調整力を考えれば、そこからの3週間強で、さらにブラッシュアップすることはできるはず。日本記録保持者(1分45秒75)の意地と貫禄をみせるレースで、活況にある若手を封じ込めたいところだろう。また、高校生では、GGPのドリームレーン枠で出場して1分50秒10の自己新記録をマークした二見優輝(諏訪清陵高)が出場する。二見はその後、9月5日に高校歴代7位となる1分49秒19まで記録を更新している。トップランカーたちとのレースよって、1分48秒台突入が達成されるかもしれない。

近年、レベルアップが著しい男子1500mにも、記録・勝負ともに見応えのあるレースを期待したい。安定感が光るのは東海大時代の2017年と2018年で連覇を達成している館澤亨次(横浜DeNA)か。社会人としてルーキーイヤーとなったが、ホクレンディスタンスチャレンジ(DC)で初戦を迎えたのちに、東京選手権(3分42秒67)、GGP(3分41秒07)、全日本実業団と3連勝。全日本実業団の3分40秒73はセカンドベストで、3分40秒を切っての自己記録(3分40秒49、2018年)更新も見えてきた。2月に3分39秒51の室内日本新をマークしている荒井七海(Honda)の名前がないこと、また、昨年の日本選手権で3年ぶり2回目の優勝を果たし、その10日後に日本歴代2位の3分37秒90をマークした戸田雅稀(サンベルクス)が9月29日に欠場を発表したことが惜しまれるが、GGP2位(3分41秒39)の楠康成(阿見AC)や、全日本実業団2位(3分41秒85)の木村理来(愛三工業)らとともに、3分40秒を切る水準での勝負を繰り広げてほしい。
高校生では、今季、ともに高校歴代3位となる3分44秒62をマークしている高校3年生の石塚陽士(早稲田実業高)と甲木康博(城西大城西高)がエントリー。先輩選手たちの胸を借りて、10月に広島で開催される全国高校陸上に向けて弾みをつける結果を手にしたい。3分38秒49の高校記録(佐藤清治、1999年)に迫るのはかなりハードルが高いが、高校歴代2位の3分44秒57(半澤黎斗、2017年)は射程圏内にある。

【フォート・キシモト】

◎ハードル(110mH、400mH)

男子110mHの今季日本リストを1位から順に並べると、
1)13秒27(+1.4)金井大旺(ミズノ)
2)13秒34(+1.4)高山峻野(ゼンリン)
3)13秒39(+1.4)石川周平 (富士通)
4)13秒45(+1.4)野本周成(愛媛陸協)
5)13秒57(+1.5)藤井亮汰(三重県スポ協)
と続く。これらの記録は、9月24日時点の2020年世界リストでは、7位・11位・13位・15位・29位となる。この種目で世界30傑内に5選手が名前を連ねるのは日本以外にはハードル大国のアメリカだけ。いかに日本の110mHが活況にあるかがよくわかる。
日本選手権には、これら5選手に加えて、泉谷駿介(順天堂大、13秒36)のほか、増野元太(メイスンワーク、13秒40)、石田トーマス東(勝浦ゴルフ倶楽部、13秒45)ら、13秒50を切る自己記録を持つ選手がエントリーしており、過去に例のないハイレベルとなっている。気象条件にもよるだろうが、「13秒6台で走っても予選が突破できない」ということが起こるかもしれない。
優勝争いの筆頭は、13秒25の日本記録を持つ高山と、今季13秒27まで自己記録を更新した金井の2人だ。高山は、タイ記録も含めて4回の日本記録をマークするとともにドーハ世界選手権で準決勝進出を果たすなど、昨年、大きな躍進を遂げた選手だが、今季、勢いに乗っているのは金井。2018年に13秒36の日本記録を樹立して迎えた昨シーズンは、高まったスピードやパワーにハードリング技術が噛み合わず、会心のレースがかなわない不本意な1年となったが、それらの歯車がぴったり合ってきた今季は初戦(8月2日)で13秒34(+0.3)の自己新をマークすると、GGPを13秒45(-0.4)で優勝。6日後のANGでは、予選で13秒33(+2.0)、決勝では前述の13秒27と、2ラウンド続けて自己記録を塗り替える快走を披露した。予選のみに出場した全日本実業団でも大会記録を更新する13秒38(+1.7)と、安定したタイムを残している。高山のほうは、7月末の東京選手権を13秒54(-1.1)でシーズンイン。GGPは13秒74(-0.4)で3位にとどまったが、ANGではきっちり修正してシーズンベストの13秒34をマークした。全日本実業団は13秒51(+0.1)ながら着実なレースでタイトルを獲得している。
日本選手権では、この2選手による13秒1〜2台の競り合いがみられる可能性も夢ではない。それが実現するようだと、来年の東京オリンピックにおけるこの種目での日本勢の決勝進出が、俄然現実味を帯びてくることになるだろう。
金井・高山に迫るとしたら、今季13秒39をマークしている石川か。ANGの決勝で出した記録だが、このときは最後の数歩でやや体勢を崩してのフィニッシュだった。13秒3台前半で走る力は備わっているとみていいだろう。後半型の選手で、終盤で豪快に順位を上げていく走りには迫力がある。その特長ゆえに、どうしても周囲が目に入ってくる展開のなかで、いかに自分のリズムを乱さずに走りきることができるかが課題となりそうだ。
昨年のGGPで追い風参考(+2.9)ながら13秒26をマークして関係者を驚愕させ、日本選手権では高山と鍔迫り合いを繰り広げて、日本タイ記録(当時)となる13秒36の同タイムで2位(着差あり)に食い込む躍進を見せた泉谷駿介(順天堂大)は、今季は、故障が続くなかでのシーズンとなっている。7月末の東京選手権(13秒80、-1.1)以降、GGP、ANG、日本インカレは不出場。その回復具合が気になるところだ。このほか、前述の増野は、2017年のロンドン世界選手権に出場した選手。いったん第一線から退く意向を示していたが、東京オリンピックを目指して今季から本格的にレースに復帰している。ANGでマークした13秒62から、どこまで記録を上げていけるか。
U20年代では、昨年のインターハイ覇者の村竹ラシッド(順天堂大)がU20日本歴代2位の13秒65(-0.4)まで記録を伸ばしてきている。先輩の泉谷が昨年マークしたU20日本記録の13秒36に近づく記録を期待したい。また、高校生で出場する近藤翠月(新潟産業大附高)は、ANGの予選で追い風参考(+2.4)ながら高校記録(13秒83)を上回る13秒79をマークしている。地元新潟で開催される日本選手権で、新記録誕生のアナウンスが流れるようだと会場は大きく盛り上がるだろう。

男子400mHは、8月23日のGGPでは、昨年のドーハ世界選手権に出場した安部孝駿(ヤマダ電機)が49秒31で優勝。昨年49秒05をマークして同じく代表入りを果たし、今季社会人1年目を迎えた豊田将樹(富士通)が49秒82で2位となった。豊田は9月6日の北麓で49秒63のシーズンベストをマーク。ともに記録的には物足りないが、日本選手権ではこの2選手が中心となった戦いになるものとみられていた。
しかし、日本選手権と同じデンカビッグスワンスタジアムで開催された日本インカレ(9月13日)の結果で、その様相に変化が生じている。春から大学院へ進んだ山本竜大(日本大)が今季日本リストトップとなる49秒12で優勝。さらにルーキーの黒川和樹(法政大)がU20日本歴代3位となる49秒19で2位となり、ドーハ世界選手権代表組を上回ってきたのだ。その翌週に行われた全日本実業団では、安部は49秒38で優勝、豊田は、2位となった同学年の小田将矢(豊田自動織機、50秒18)に続き、50秒63で3位という結果を残している。
単純にタイムだけでは優劣がつけにくい種目ではあるが、学生陣に勢いがあるだけに、49秒台での戦いになるようだと、優勝の行方は混沌としてくることになりそう。2年連続3回目の優勝を狙う安部は、来年の東京オリンピック本番で戦うためにも、2018年にマークした自己記録48秒68に迫る水準となるタイムで、2017年から続く48秒台のシーズンベストを残しておきたい。また、同期である豊田と山本は、ここで来季の飛躍につながる結果が欲しいはず。東京オリンピックの参加標準記録は48秒90。どちらが先に、その記録に近づけるかも見どころといえるだろう。
2016年リオ五輪代表の野澤啓佑と松下祐樹のミズノコンビは、今季はともに50秒台とまだ調子が上がってきていない。2017年ロンドン世界選手権代表で、昨年48秒92をマークしている鍜治木崚(住友電工)も含めて、もう一段階上の結果がほしい。このほかでは、昨年、高校歴代2位となる49秒90をマークし、今春から大学生となった出口晴翔(順天堂大、DA)がエントリー。今季は故障の影響で、競技会は7月に出場した1戦のみで、記録も53秒73にとどまっている。その回復状況もチェックしておきたい。


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