水田光夏が射止めるわずか0.5ミリの標的 パラ射撃で自身と戦う恒心のスナイパー
パラ射撃で東京パラリンピック日本人内定第一号となった水田光夏が、「静」のスポーツの魅力や観戦のポイントを語った 【写真:C-NAPS編集部】
3歳からクラシックバレエやピアノに打ち込んでいた水田だが、中学2年の時に手足に力が入りづらくなる異変が起きる。診断は「シャルコー・マリー・トゥース病」。末梢神経の異常によって四肢の感覚や筋力が徐々に低下していく、進行性の病気だった。体の自由がきかず、辛い時期を過ごしていた水田だったが、高校2年の時のパラ射撃との出会いが転機となる。19歳から本格的に練習を開始するとメキメキと頭角を現し、競技歴わずか2年でパラリンピックという大舞台の内定を勝ち取った。
インタビュー時に、落ち着き払った対応で周囲を驚かせた水田だが、試合でも物おじしない常に冷静な姿勢を貫く。水田の短期間での大躍進は、「動かないことが武器になる」という競技特性と決して無関係ではない。生まれ育った東京の街で迎える初のパラリンピックで、目指すものは何なのか。競技の楽しみ方や観戦のポイントとともに、「戦うのは自分自身」という言葉の真意も聞いた。
※リンク先は外部サイトの場合があります
五円玉の穴の中心を撃ち抜く緻密な「静」の世界
満点の10.9点となる的の中心の大きさはわずか0.5ミリ。わずかに手元が狂うだけで狙いを外してしまう繊細な競技だ 【写真:本人提供】
競技で使われる銃は、火薬銃であるライフルとピストル、空気銃であるエアライフルとエアピストルの4種類です。銃の種類によって的までの距離が10メートル、25メートル、50メートルと定められています(ピストルは25メートルと50メートルの2種目)。それにプラスして競技姿勢も立射・膝射・伏射と3種類あるので、一口にパラ射撃と言ってもその射撃スタイルは本当に多種多様なんです。
立っていられない選手は車いすを使ったり、上肢障がいがあってライフル銃を体で支えられない選手は支持スタンドを使ったりしますね。障がいの度合いによってクラス分けもされていて、SH1は下肢のみの障がい、SH2は上肢を含む障がいです。私は上肢にも障がいがあるので、SH2に属しています。
使う銃も撃ち方も障がいの程度も種目によって異なるパラ射撃ですが、「本選」と「ファイナル」に分けられた進行に関してはパラリンピックの全13種目で共通しています。本選の上位者のみが出場できるファイナルでは、メダルを懸けたし烈な順位争いが繰り広げられるんですよ。
私の種目の場合、本選では60分で60発を撃ち、合計点数の上位8人がファイナルに進みます。ファイナルは、8人の選手が並んで「2分30秒以内に5発の射撃」を2回行い、その後「30秒に1発」を2回行うごとに最下位の選手が順に脱落していく方式です。ファイナルでは点数の分かるモニターも置かれているので、パラ射撃を見たことがない方でも張り詰めた緊迫感を味わうことができると思います。
驚くべきことに引き金を引く際の感覚がないという。それでも的の中心部を撃ち抜けるのは、水田の努力のたまものだ 【写真提供:桜美林大学】
ちなみに他のスポーツだと体を動かせる部分が少ないと不利になると思いますが、パラ射撃では体が動かないことが有利にもなるんです。「体全体が静止する」ことで手元がブレにくいという点ではプラスに働きます。少しでも力みがあると狙いからずれてしまいますし、呼吸や脈拍すらも揺れにつながることもあるので、とにかく力を抜いて安定した「静」の姿勢を保つことがポイントです。
安定して撃つための個人的なこだわりとして、試合中は髪型を高い位置でのツインテール(2つ結び)にしています。銃を体に構えるときに、髪が挟まるとずれてしまうので、邪魔にならないようにするためですね。ポニーテールなど他の髪型も試したんですけど、何となくツインテールに落ち着きました(笑)。もう試合に出る時のお決まりになっていますね。競技中の爪を守るために始めたネイルに関してもぜひ注目してください。好きな色は、ピンク、黒、シルバーで、この3色は絶対入れています! 社会人になってからはお金に余裕もできたので、デザインも少しゴージャスになりました(笑)。