戸田和幸×下田恒幸アナ CL決勝展望 バイエルンがのみ込むか、パリの対策は?

飯尾篤史

両チームとも中盤の選手起用がポイント

バイエルンのダイナミックさにゴレツカ(左)は不可欠。フリック監督が中盤で起用するのは誰か? 【Getty Images】

――スタメンはどうでしょうか? バイエルンは3試合続けて同じメンバーでした。

戸田 どちらも、気になるのは中盤の人選ですね。パリは基本的には(イドリサ・)ゲイエと(マルコ・)ヴェッラッティですけど、今は(レアンドロ・)パレデスが素晴らしいんですよね。

下田 そうだね、確かに。

戸田 ただ、(ふくらはぎを痛めたヴェッラッティが)プレーできる状態になったとき、ヴェッラッティを選ぶ可能性は十分ある。一方、バイエルンもチアゴを外して、キミッヒとゴレツカにするかもしれません。その場合は、(キミッヒが務めていた)右サイドバックに(ベンジャミン・)パバールを使うのか。センターバックも(ジェローム・)ボアテングなのか、(ニクラス・)ジューレなのか。

 我々はピンポイントで見ていますけど、チームを預かる監督は選手たちをずっと見てきていますから、今のパフォーマンスではなく、これまでの信頼で選ぶ可能性もある。最後の試合だから、自分が信じられる選手に託したい、という気持ちもあると思います。

下田 もともとバイエルンは(5月17日の)リーグ再開初戦は、チアゴとキミッヒのコンビだったんですよ。ただ、チアゴがそのウニオン・ベルリン戦後の練習でケガをして、次のフランクフルト戦ではゴレツカが起用された。そうしたら、ゴレツカがすごかった。チアゴの不在を感じさせなくて、むしろチームがよりマッチョになって、すごみが出るようになった。

戸田 今のバイエルンのダイナミックさに、ゴレツカは必要ですよね。

下田 フリックはトゥヘルのひとつ上の世代で、これまでの戦い方を見ると、もう少し確たるものを信じる人のように見える。どの組み合わせが一番ソリッドなのか、フリックが自問自答すれば、出てくる答えはゴレツカとキミッヒなんじゃないかな。

 バイエルンって、背負うものが大きいクラブなんですよ。ミュンヘン地方に「Mia San Mia(俺たちは俺たちだ)」という方言があって、Tシャツにもなっているくらい。それだけバイエルンというものに矜持があって、それを背負うということは、おそらくドイツ人にとってものすごく重いものだと思うんですよ。

 フリックはドイツ人で、元バイエルンの選手としてタイトルを獲ったこともある。ミュラー、ゴレツカ、キミッヒもみんなドイツ人で、ドイツ代表なんですよ。国も背負っていて、バイエルンも背負っているから、絶対に手を抜かない。なんといっても(02年日韓W杯で)サウジアラビアに8-0で勝つ国なわけですよ、ドイツは。その代表である3人を真ん中で使ってくるんじゃないかと思います。

W杯のような集中開催がポジティブに

DAZNのCL決勝中継で解説・実況を担当するのは戸田和幸さん(左)と下田恒幸アナウンサー 【スポーツナビ】

――日程を見ると、バイエルンの方が1日少ない。この辺りはどういう影響が出そうですか?

戸田 確かにバイエルンの方が1日少ないんですけど、ラスト1試合ですからね。中2日だったら大変なんですけど、中3日あるから回復すると思います。練習ではもう細かいことはやらないはずです。エネルギータンクを満タンにして、メンタル面でも全員の方向をしっかり合わせて。フリックが奇策を打ってくるとも思えないので、やってきたことを目いっぱいやるぞと。だから、中3日、中4日のところはあまり関係ないと思います。

下田 バイエルン、パリ双方に言えることだけど、集中開催で、W杯的なところがポジティブな方に出るんじゃないかと。なぜかと言うと、この数年、各国リーグが終わってから、CLの決勝をやるようになったじゃないですか。最後の試合から2週間くらい空くからフレッシュになるかと思ったら、意外とそうでもなくて、思った以上に重かったりした。そんな印象があるんです。逆に、今回のような集中開催だと、ラウンド16が始まったところからアクセルを踏みっぱなしじゃないですか。そのテンションが好パフォーマンスを生むんじゃないかと思っています。

戸田 そのまま行けますもんね。

下田 その一気感はあるはず。しかも決勝。これ以上のタイトルはないでしょう。ブンデスリーガやリーグ・アンのタイトルも大事だけど、ビッグクラブはCLを一番獲りたいはずだから。

勝負を決めるビッグプレーヤーの存在

最後はビッグプレーヤーの出来が勝負を分ける。大一番でネイマールのゴールは生まれるか 【Getty Images】

――では最後に、どんなゲームを期待していますか? 勝敗を分けるポイントを聞かせてください。

下田 他のアナウンサーの皆さんがどんなふうに臨んでいるのか分からないけれど、僕は事前に、考えすぎないようにしているんです。情報は入れるけれど、実況者は目の前で起きていることと同化することが一番大事。解説者のように、こうなったらこうなるはずだ、って考えちゃうとドツボにはまってしまうので。なので、ここは戸田さんにお任せします(笑)。皆さんと同じ目線でワクワクしながら映像に音を同化させて、耳も楽しい中継にしたいと思います。

戸田 では、僕の方から。バイエルンは相手をのみ込んでしまうくらいペースを上げるでしょうし、常に敵陣でプレーをするでしょう。敵陣に出ていくということは、後ろにスペースが生まれるのでリスクがあるんですけど、その分、見返りが大きいので、みんな、めちゃくちゃハードワークしています。ハイリスク・ハイリターンというわけです。あのレベルの選手たちが100%で向かって来たら、パリの選手でも自陣では快適にボールを持てないと思います。ただ、パリも十分準備をしてくるはずなので、まずはその攻防に注目したいと思います。

 人選にも注目したいですね。先ほど話した中盤の組み合わせもそうですが、センターバックにおいても、ジューレはボアテングよりもスピードの対応に秀でているけれど、パス出しのところでミスをして、カウンターを受ける可能性もある。フリックがどちらを選ぶのかはすごく気になります。

 パリは対応力があります。その上で、前に出ていく守備が素晴らしいから、仕掛ける守備でバイエルンをうまくコントロールしたい、と考えているんじゃないかと思います。それがうまくいけば、見返りとしてバイエルンの後方のスペースが手に入る。トゥヘルなら、そういうことを考えそうな気がします。それができる選手もそろっていますからね。

 あと、勝負を決するときに必要なのは、ビッグプレーヤーの存在だと思います。みんなビッグだけど、その中にもビッグな選手がいますから。パリだったら前のふたり(キリアン・エムバペとネイマール)。特にネイマールが率先して働いているからこそ、チームがあれだけ機能していると思います。バイエルンもミュラーと(ロベルト・)レバンドフスキが前からチームをガンガン引っ張っている。そういったところからゲームは動いてくのではないでしょうか。

――ここまでネイマールは決定的なシーンで外しています。ゴールが遠いのは気になりませんか?

戸田 どうなんでしょうね。でも、パフォーマンス自体は頭抜けて高いです。フィニッシュのところは繊細な部分ですし、少しずつ上がってきているので、決勝は決めるかもしれませんよ。彼は重要な試合に強いですからね。僕は現地でリオ五輪を見ましたけど、やっぱりネイマールは大舞台に強い。レバンドフスキもそうですけど、ワールドクラスの選手のビッグプレーにも注目したいですね。このレベルになると、ひとつのミスで事が済んでしまうことがありますし、ミスを誘発するようなアクションもあるかもしれないですけど、最高のプレーで試合が決まってほしいと思います。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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