久々の実戦で光った10代クライマーの躍進 いざ五輪へ、コロナ禍と係争の中で再始動

平野貴也

2度の延期も…公式戦再開に選手も感謝

約5カ月半ぶりの公式戦となったリードジャパンカップは、ともに10代の西田秀聖(右)と森秋彩が制した 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 5カ月半ぶりの再スタートだ。東京五輪で初めて五輪の正式競技に採用されるスポーツクライミングのリードジャパンカップは、11日に岩手県営運動公園で最終日を迎え、男子は決勝で唯一の完登を決めた西田秀聖(奈良県山岳連盟)が初優勝、女子は森秋彩(茨城県山岳連盟)が2大会ぶり3度目の優勝を飾った。

 当初は3月に実施予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて2度の延期を余儀なくされていた。約5カ月半ぶりの公式戦は、無観客で行う格好になったが、ようやく実施にこぎ着けられた。西田は場内インタビューで「この大会を開催して下さったスタッフの皆さん、ありがとうございます」と感謝を述べた。森は、インターネット中継を見守ったファンに向けて「今日は直接声援を聞くことができませんでしたが、以前のように観戦できるようになったら、またたくさん応援してください」とメッセージを投げかけた。

 リードは、東京五輪で行われる「コンバインド」の3種目のうちの一つ(残り2種目は、スピードとボルダリング)。6分の制限時間で12メートル以上の壁をどこまで登れるかを競うもの(今大会の男女決勝は最大傾斜150度、15メートルの壁で行われた)。日本が誇るクライマーが絶壁に挑んだ。

 2021年に延期された東京五輪の出場権を獲得している男子の楢崎智亜(TEAM au)は終盤で落下して4位、女子の野口啓代(TEAM au)は完登したが、同じく完登した森に準決勝の成績で及ばず準優勝。ともにタイトルは逃したが上位に入り、安定した力を示した。

 楢崎は「下からスムーズに行けた。最後のムーブを迷った結果、スリップして落ちてしまった。東京五輪が延期しても目標は優勝なので、そこに向かってしっかり努力したい。(五輪1年前の状態としては)結果としては順調ではないですけど、感覚としてはかなり良くなっている」と好感触を得ていた。また、8人中4人が完登した女子決勝を振り返った野口も「予選や準決勝よりも簡単な課題だった。(最後まで)登らないといけないという緊張感の中で完登できたのは、すごく良かったと思います。来年の東京五輪も同じ時期(8月3〜6日)。暑さ対策をしっかりして、暑い中でもパフォーマンスを落とさずに、集中したトライができるような練習をしたい」と1年後を見据えて、一定の手応えを示した。

今後は模擬大会等の開催も検討

久々の実戦も2位と安定した力を示した野口啓代 【平野貴也】

 もちろん、久しぶりの実戦であり、全選手のパフォーマンスがトップレベルだったわけではない。男子5位で連覇を逃した藤井快(TEAM au)は東京五輪の日本代表候補だが、コロナ禍の自粛期間中は仕事との両立を余儀なくされ、6月頃は1日に1時間ほどしか練習ができない日もあったという。「この大会に向けた登り込みは100パーセントではない。もっと追い込めたと思う。自粛期間で練習量が減ったが、気持ちがあれば、それでもやりくりできたはず。その辺りが足りていなかったと思う」と心身両面での準備不足を感じ取っていた。

 コロナ禍で参加できる大会が極端に減っており、日本代表選手のコンディションやパフォーマンスを管理していくためには、サポートも必要だ。日本代表の安井博志ヘッドコーチは「2月以降は大会がなく、選手はトレーニングに苦労したと思う。結果が良くても悪くても、やってきたことの確認が大会でできたことは、ありがたい。リードは、練習量と弱い部分、特に持久力がハッキリ分かる。それぞれに、今後のトレーニングプランを練り直してもらいたい。大会があればピーキングがぐっと上がる時期だが、それを選手が自分たちだけでするのは難しい。トレーニングは(コンディションを)上げる時期、下げる時期がある。どのタイミングで上げるかというのは、今後のイベントや大会によって決まるので、チームとして刺激が入るイベントなども考えたい」と模擬大会等の開催を検討中であることを示唆した。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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